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異能が現実のものとなったこの街の片隅で。  作者: 松葉天佑


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神栖少年の恋愛相談

6月のとある日曜日、早朝。




(そういや今日暇だな……)




 都内某所のマンション307号室、神栖は朝食のカップ麺を食べ終え、一人考える。



 昨日は高月と那須の3人で横浜に行った。



 一昨日も那須宅にお邪魔した。



(流石に3日連続はマズイか?)



 別に3日連続で会う事に何もマズイ事なんて無い。だが神栖は年頃の男子高校生。異性との絶妙な距離感にとても敏感な時期である。

 一昨日は何回あの子と会話したとか、昨日は朝に挨拶を交わしただとか、今日はまだ会話してないだとか。制限などありもしないのに何となく回数制で物事を考えてしまう、そんな経験を人間誰しも一度はした事があるのではなかろうか。


 神栖御琴もその一人。最近あの子と仲良いよねーとか、あの子と付き合ってるのかなとか。そういう要らん事を言ってくる人間に那須桃葉という心当たりがある以上、下手打つのもよろしくない……………そんな事を彼は一人勝手に思い悩んでいるのである。



 本宮のバーギルドも、用が無いのにわざわざ行くのもな。




 となると―――――





 神栖の口角が引き攣る。





(コイツ………かあ?)




 久留米刹那。



 ティーパーティメンバー。

 正直なところ、彼女の人柄を神栖は掴みかねていた。ティーパーティの中でもある程度の地位には立っているようだが、頬にキスされたりその隙に生徒手帳抜き取られたり、いきなりゴムを渡されたり。まあ言ってしまえばエロい印象しか無い。


 だがしかし、“暇な時は恋愛相談にも乗ってやる”、この言葉に神栖はピンと来た。


 思えば本宮、峯、那須、諏訪、そして高月。これらはいずれも身内だ。久留米刹那という女からならば、1番客観的な意見を取り入れられるのでは。そう思った。

 そうとなれば善は急げ、神栖は彼女へメッセージを送ってみる。




《神栖です。今日1日空いてます》




 意外にも1分も経たぬ内に既読が付いた。


 そしてその直後、着信が鳴る。




 神栖がワンコールで電話に出ると開始早々、



『神栖くーん、連絡待ってたよお?ねえ?』



 とても圧を感じる喋り方である。



『住所送るからさあ、とりあえず私んちに来いよ。待ってるから』




 それだけ伝えると、彼女は返事をする間も無く電話を切ってしまった。



 ピコンッ!



 1件の通知。



 そこにはマンションの住所と部屋番号が記されていた。



こうなったら行くしかないか。



 神栖は身支度を整え、久留米のマンションへと向かう。



――――――――――――――――――――――――



(ここ………なのか?)



 それから1時間程だろうか。神栖は久留米に指定された住所に辿り着いたのだが、



「これってアレだよな……?

……いわゆる高級マンションってやつ」



 それはもう、神栖や那須の住むマンションとは比べ物にならない程の重厚感を覚える……そんな建物が堂々と聳えていた。

 念の為付け加えておくが、神栖や那須の住むマンションも、決して悪いものではない。のだが、やはり月の家賃だけで数十万を軽く超えそうなマンションを目の前にすれば、流石に霞みくらいはしてしまうものだ。



 エントランスに足を運ぶも、神栖はまたもや度肝を抜かれる。




(広すぎだろ!?!?)




 高級マンションに一度でも訪れた事のある者ならわかると思うが、エントランスホールと言うのだろうか。建物の玄関部分だけでも人ひとりくらい住む事が出来てしまいそうな程にとにかく広い。場所によってはホテル並みのラウンジが用意されている場所もあると言うのだから、一度上を見てみると本当にキリが無い。


 共用部を通りインターホンに辿り着くまでのスペースでさえ、一体何人の人間が住めると言うのだろうか。


 部屋番号を入力してインターホンを鳴らす。



 すると間も無く、


 ウィーーン、と。インターホンからの応答は無く、無言のまま自動ドアが開かれた。



(入れって事だよな……)



 そのままエレベーターに乗り、指定された部屋に到着した所でもう一度インターホンを押す。



 ピンポーン―――――



『空いてるからどうぞー』



 インターホン越しの声の言う通り、ドアノブに手を伸ばしガチャリとドアを開く。



「鍵閉めといてくれるー?」



 リビングの方だろうか。遠くから久留米の声が聞こえる。


 ひとまずドアの鍵を閉め、長い廊下を通りリビングへ向かうと。




 うわっっっ!!?!?




 リビングに久留米は居た。居たのだが、その格好に些か問題があった。

 何と久留米は下着姿でソファに足を掛けくつろいでいたのだ。






 神栖は思わず目を背ける。







 健全なる男子諸君は皆思ったことだろう。なんだご褒美じゃないか、と。



 確かに状況だけを見ればそうだ。



 男子高校生の身でありながら、歳上のお姉さんの下着姿を拝める。



 羨ましい……………いや、けしからん限りだ。



 だが公共の場にて、性を感じさせる物が目の前にあったならば、何となく目を背けてしまう………そういう心理も理解できるのではないだろうか。

 例えば、コンビニエンスストア。雑誌コーナーの中に紛れるグラビア写真が視界に入ってしまった時。例えば、中古ゲームショップ。R-18の文字がデカデカと記されたのれんを思わず目にしてしまった時。


 最初からそれが目当てであれば堂々としていられるだろうが、そうでない場合は何となく避けてしまう……………そんな心情こそが今、神栖少年が抱いているソレである。



 とは言え久留米は全くお構い無しといった様子で、



「なに目背けてんだよ。意識しちゃってんのか?お?」



 平然と、堂々と神栖の元へ歩み寄る。



「何か服着てくださいよ!!」



 神栖が耳まで真っ赤にしながら訴える。



「なんだよ。男ならこういうの嬉しいだろ」



 やれやれ。呆れた表情を浮かべながら久留米は、そこらに脱ぎ捨ててあった服をとりあえず着た。仕方なく。



「お前家の中でも律儀に服着てんのか?実家暮らし?」


「いや着てますよ。一人暮らしですけど」


「はあ?一人暮らしだったら皆、裸族になるもんだろ??」


「なりませんって」




 駄目だ。




 平行線をいって話が進まない。




「あの、恋愛相談に来ました」



 神栖が話を切り出した。



 すると久留米はまあ、驚く。そりゃ驚くわな。男子高校生が恋愛相談のため遥々ここまでやってきたと言うのだから。しかし神栖少年の放ったその言葉に思考が追いついたその時、


「アッハハハハハ!お前、私が恋愛相談受けるって言ったのマジに捉えたのかよ!?」


 豪快に笑いながら神栖の肩をバンバンと叩く。


「チッ悪いですか」


 神栖少年は明らかに不機嫌な表情を見せる。


「ハハハハっ!いや悪いこたねえよ。そうだ神栖君、ゴムはちゃんと使えたかい?」


「使ってませんよ!!てか捨てましたよあんなの!!!」


「使ってねえってお前、子供も育てられねえ内から生でシてたら女として私は許さねえぞ」


「だから!!そうじゃなくて……ぁの……」


 段々と尻すぼみになっていく神栖少年。お顔が真っ赤っかになっているがこのまま揶揄っているともう彼は泣いてしまいそうだ。そう感じた久留米は仕方なく、


「ったく悪かったよ。お前が面白えもんだからつい揶揄いたくなっちまった」


「わかれば良いです」


 フグのように頬を膨らませながら怒る彼のご機嫌も何とか保てた様子だ。だがそこに追撃をカマすのが久留米刹那という女である。


「今日の帰りにまたゴムやるから、帰ったら自分で付ける練習してみな?そこで手こずると女の子冷めちゃうぞ」


「だーかーらー!!!!!」


 神栖の怒り爆発である。



――――――――――――――――――――――――


 それから彼の怒りを鎮めるのに随分と時間をかけさせられた久留米だったが、


「ほれ、コーラとファンタどっちが良い?」


「じゃあコーラで」


「はいよ」


 どうやら嵐は去ったようだ。

 すかさず久留米はまず第1の質問。


「で、気になってる子の名前なんて言うの」


「高月あずきです」


「可愛い名前してるじゃん」


 続いて第2の質問。


「その子のこと好きなの?」


「………はい」


「じゃあ告れよ」


 終了。カンカンカンとゴングが鳴っているのが聞こえる。


「あまりに単純過ぎませんか」


「いや恋ってそういうもんだろ」


 格言。


 何“恋ってそういうもの”って。だがしかし実際のところ久留米の言う通りなのかもしれない。


「勿体ぶって焦らされると、人間ってのは好きって気持ちなんか忘れちまうもんなんだよ。んで、相手の嫌なところだけが記憶に残る。それこそ“向こうが告白してくれなかった”とかな。

好きって気持ちはずーっと自分の中に仕舞ってると旬が過ぎちまうんだ。株……って言っても学生にはわかんねえか。果物と同じだよ恋愛は。1番甘い時期に食うのが1番幸せなの」


 彼女はファンタに口をつけひと呼吸置いたのちに続ける。


「お前がいつまでも告白せずにいなかったら、その“あずきちゃん”も気づけばお前のことなんか眼中に無くなってるかもな。悩むのはいつでも出来る。でも決断するのは今しか出来ないんじゃねーの。なんなら私がメッセージで告白の文章送ってやろうか?」


「いや、それはいいです。自分でやります」


「よし、それで良い」


 彼の答えに納得した様子の彼女はファンタを一気に飲み干した。当然炭酸飲料を多量摂取すればゲップが出る。だが久留米が胸を叩きながら、咳払いで誤魔化す仕草を目にした神栖は、


「なんか意外ですね。気にせずゲップするもんだと思ってました」


「私のことどんなふうに見えてんの」


「エロ女」


「まあ否定はしねえ」


 そう口にしながらガハ笑いをする彼女。


 「しっかし神栖君てば、可愛いとこあるんだね〜。お前の恋、成就すると良いな」


「久留米さんの初恋ってどんな感じだったんですか」


「学校の先輩。ありがちだろ?そこから色々成功も失敗もしたけど、まあ私に出来る範囲なら協力してやるからお姉さんを頼りな」


「ありがとうございます…」


「あと、あずきちゃんとの本番でミスらねえように今から私がレクチャーしてやろうか?」


「結構です。このエロ女」


「そうそう。初めては大切な人のために取っておきな。お前が酸いも甘いも経験して物足りなくなった時は私が相手してやるよ」


「まあ気持ちだけ受け取っておきます」


「じゃあこれで恋愛相談は終わり。質問が無ければとっとと帰りな。恋する男子高校生が別の女の部屋に居るってのはあんま良くねえだろ」


「またまた意外。そんな気使ってくれるんですね」


「だから私のことどんなふうに見えてんの」


「だからエロ女ですって」


「否定はしねえな。んで、そのエロ女からのお恵みだ。結局ゴムは何個要るよ?練習に使え」


「…………………じゃあ1個だけ」


「そこ貰うんかい」



 これにてちょっぴり刺激強めな恋愛相談は幕を閉じた。

 まあ兎に角言えることは、ちゃんと成就すれば良いよねって。頑張れ神栖少年。応援してるぞ。

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