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異能が現実のものとなったこの街の片隅で。  作者: 松葉天佑


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自分だけのカップ麺

「あずきさんってカップ麺とか食べるんですか」


「勿論食べるよ。ももちゃんがお外でご飯食べてくるって言ってきた日なんかは、カップ麺で済ませたりしてる」


 神栖と高月はショッピングモールからほど近い距離にあるカップ麺博物館に訪れていた。ここには様々なインスタントラーメンが展示されている他、子供向けのアスレチック、世界各国の麺食品を楽しめるコーナーもあり、子供から大人まで幅広い層に人気の高いスポットである。

 中でもイチオシなのは、絵を描くなどして自身でデザインしたカップに好きな具材を選び入れ、「自分だけのカップ麺」を作れるというアトラクション。

 スープや具材の種類も豊富で、その組み合わせは5000種類を優に超えるという。

 神栖と高月も、この自分だけのカップ麺作りに挑戦しているわけなのだが、


「な、なんですかじーっと見て」


「御琴君のお顔描きたい」


 神栖の正面に腰を掛け、いつになく彼の顔を真剣に見つめる高月。普段なら気恥ずかしさが勝り互いに視線を逸らしてしまう所だが、今日の彼女はひと味違う。

 自分だけの、世界にひとつだけのカップ麺を手にするため、彼女はマジになっているのだ。

 とは言っても要はカップに自分と神栖の似顔絵を描きたいだけなのだが、それが良いんじゃあないか。高月はここで描いたカップを家宝にする、そのつもりで今この場に立っている。いや着席している。

 これは余談だが、カップ麺をそのままの状態で喫食すると油汚れがどうしても気になってしまう。

 アイドルやアニメのコラボだとかでカップ麺の容器を保存したいと考えた際には、ぜひ中の具材一式を別皿に移してから食べる事をお勧めする。そうすればカップそのものには汚れが比較的付かずに手元に残す事が可能となる。

 勿論未開封の状態で保管するのも一つだが、中身がどうしても食品である都合、長期間手元に置くと考えると個人的には空にしていた方が色々と安心出来る気がする。


「なんか落ち着かないんですけど」


「我慢して。私は御琴君のお顔を描かないといけないの」


「……………………」


 神栖に対して意見を通す彼女の姿を見られるのも、なかなかに珍しい光景ではなかろうか。いつになく真剣な眼差しを向ける高月を前にして、やめろと言うのも気が引ける。

 そもそもの話、那須の助言なくして彼らがここまで来れた保証すら無いのだ。先ほどの、横浜の街で立ち往生していた時と比べれば、多少の落ち着かなさなど差し引いてもお釣りが来る程良い状況である事は確かである。

 まあ恋人と一緒に過ごしていれば、そんな気持ちのひとつやふたつ、腐る程経験するものだ。これも一つの社会勉強だと思って、頑張れ神栖少年。



――――――――――――――――



 さて、自分だけのカップ麺作りを終えた神栖と高月は、施設内のフードコートに足を運んでいた。

 出来上がったカップ麺のパッケージを目にして高月はご満悦の表情。


「かれこれ10分くらいずーっとカップ麺眺めてますけど」


「だって私だけのカップ麺だよ?」


「そりゃそうですけど」


 彼女が手に持つカップ麺には、男の子と女の子が手を繋いでニッコリとした笑みを浮かべている、そんな絵が描かれていた。

 恐らくこの2人が他でもない、神栖と高月なのであろう。なんともまあ微笑ましいイラストだろうか。


「というか御琴君、絵上手いんだね。なんだか意外な一面」


「スマホで見ながら描いただけですよ」


神栖がカップに描いたのは2匹のうさぎ。これは高月あずきが好きな作品、らびっつシリーズに登場するモフ吉くんと垂れ耳くんだ。


「普通こんなに上手く描けないって。パッと見、らびっつのコラボ商品かと思うくらいだもん」


「そんな大袈裟な…。まあそう言ってもらえるのは嬉しいですけど。僕、眼だけは良いんで、時間さえ掛ければそれなりに模写くらいは出来ます」


「そっか、御琴君の異能は視覚操作だもんね。…前から気になってた事聞いてもいい?」


「なんですか改まって」


「気を悪くさせちゃったらゴメンなんだけど…視覚操作ってその、人に対して使ったらハダカとか見えちゃうの?」


 ほんのちょっぴりだけ頬を赤らめながら問いかける高月だったが、


「あーやっぱ思いますよね。でも結論から言っちゃうと見えないです」


 彼もこの手の質問は散々受けてきたのだろう。特に顔色ひとつも変えずに、あっさりと答える。


「いや、でも厳密に言えば見えてはいるんでしょうかね?人に対して千里眼を使うと、カラー版のレントゲンというか、人体模型みたいに見えるんですよね。異能の出力を調整するとか、そんな事も一切出来ないですし、異能を使った時点で薄っすらとソレが見えちゃうんで、エッチな目的には使えないです」


「そうなんだ…でも千里眼使うたびにそんな光景目にしてたら気持ち悪くならない?」


「もう慣れましたね。最近は医学の知識でもあれば、そういう現場で役に立つのかなーと考えてたり」


「絶対役立つよ。見るだけで患者さんの状態わかったら尚更。ひょっとして御琴君の進路見つかったんじゃない?」


「お医者さんですか。勉強してないんで多分無理ですよ。スタッフ間でのギスギスも多い仕事でしょうし」


「私が言えた話じゃないけど、無理って事は無いと思うよ。看護師さんとか、専門学校もあるし。それにももちゃんもそうだし、諏訪ちゃんに峯ちゃんも。御琴君には相談出来る相手も沢山居る訳だから、話すだけでもしてみたら?周りの大人を上手く使う事が成長の近道だし」


「なんか先生も同じ事言ってた気がします」


「えへへ、今のはももちゃんの受け売りだからね。それに、私だって話くらいは聞いてあげられるし」


「ありがとうございます」


「あ、あと。ひとつお願いというかなんというか…」



 そう言うと高月はモジモジとしながら俯く。



「?」


「私とお話する時、敬語じゃなくて大丈夫だよ…?」


「そ、そうですか」


「敬語出てる」


「……………、わかった……」


「よろしい。御琴君はこれから私に対して敬語禁止ね」


「禁止ですか!?」


「また敬語出た」


「………わかった。」


 敬語禁止となり、「わかった」の一つ以外語彙がなくなる神栖少年。まあそれも無理はない。

 普段敬語で話していた相手に対して、いきなりフランクな口調で接するというのもなかなかに難しい話だが、敬語使うなと言われてしまっては仕方がない。この辺りについて我々は、神栖少年の成長をゆっくりと見守る事としよう。


 さて、2人がこんな話をしているうちに、気付けば時刻は14時前となっていた。


「じゃ、そろそろ赤レンガに行こっか。ももちゃんが待ってる事だし」


「うん。」


 神栖は一言だけを返すと、視線を逸らしつつも、頬を赤く染めながら自身の手を高月の方へと差し出す。


 彼らは仲良く手を繋ぎ、カップ麺博物館を後にする。そしてその足で赤レンガ倉庫へと向かう。


 那須のラジコンと化した時はどうなる事やらと感じたものだったが、なんだかんだで打ち解けてきたようで何よりだ。


 こうして神栖と高月は、那須に課された試練を無事に乗り越え、ドキドキ!2人だけのデートタイムは幕を閉じた。

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