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異能が現実のものとなったこの街の片隅で。  作者: 松葉天佑


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エロ女

 その後、神栖は高月を無事那須宅まで送り届けると、自販機で買った缶コーヒーを片手に夜の街をただ歩いていた。


 今日は不登校明けの初登校日、那須宅では漫画の話をしたり、高月と一緒にお弁当を作ったり。そして諏訪のお願いを問題なくこなし、なんだかんだで本宮の何でも屋の手伝いをすることにもなった。


 そんな今日の出来事を振り返り、物思いにふけているのかと思いきや……


「………………。」


(手繋いだ!)


(手繋いだ!!)


(手繋いだ!!!)


 どうやら彼の心の中はその一点のみで埋め尽くされているご様子。そう、それは那須宅へ向かう道中でのこと。


 神栖と高月の2人は気まずい沈黙に包まれていた。一体何を話せば良いのか。というか諏訪達には彼氏彼女なんて言われて揶揄われた。そんなこんなで、果たしてどうするか悩みに悩んでいた。

 しかしそんな時、神栖の手の甲に何かが触れる感触が。彼はそれがなんなのか確かめるべく自身の腕へと目を向けると触れていたのは高月の手。

 たまたまか…?なんて思いながらも高月へ目をやると明後日の方角を向いているものの、頬を赤らめている様子。


(これは、……つまりそういうことだよな)


 そういうことだからとっとと手を繋げと言いたくなるが、ここはなんとか留めておこう。当事者になってみるとそれがGOサインなのか否か、判断は意外と難しいものだ。


 しかし神栖は勇気を振り絞り、コツンコツンと当たる彼女の腕に手を伸ばす。そして今、2人は手を繋いだ。それは最初こそぎこちないものだったが、2人も慣れてきたのか、最後には恋人繋ぎ。全くけしからん。羨ましい。


 そんなことがあったのだ。


 二人が手を繋いでる姿を目にし、那須もまたそれはもう維持の悪い笑みを浮かべていたが、そんなことはもはやどうでもいい。

 高月あずきと、女性と手を繋いだことが、彼にとって何よりも重要なのだ。


「嫌……だとか思われてないよな…?」


 思われているわけがないだろうが、脈アリでしかないだろうが。誰もがそう思うであろう。だがしかし恋愛経験に乏しい彼にとっては一つ一つが新鮮でドキドキで仕方が無いのだ。ドキドキで壊れそう1000%ラブなのだ。


 そんな青春真っ盛りの神栖少年だったが、彼はふと街の中のある姿に目が留まった。


 神栖の視線の先に居るのは、街のベンチに深く腰を掛けた、一人の女性。何やら頭を抱えて項垂れている様子。


 普段の神栖ならそんなものなど放っておくのだが、今は少々ご機嫌。そして何でも屋を手伝いことになったというところで何か人助けでもしてやろうかなと、そんな気分になっていた。とここで、彼の気配に気づいたのか女性の方から声を掛けてきた。


「おい兄ちゃん、ナンパならもっと堂々とやれ。挙動不審でウザい」


 ………美人じゃねえか。でもちょっと近づいただけでナンパ扱いかよ。どうもなかなかにクセの強い女だ。そう神栖は感じた。ハァ〜〜っと呆れたようにため息を吐く彼女は、長く伸びた前髪をかきあげながら続ける。


「私は今忙しいんだよ。財布無くしちまったせいで免許証の再発行だとかクレカの利用停止申請とかやんないといけねえの」


「一応否定しておきます、ナンパじゃないです」


「じゃあなんなんだよ」


「いや………」


 言葉が詰まる。なんとなく困ってそうだったから、そんな直感で彼女に近づいてしまったことに神栖は酷く後悔した。彼が返答に困っていると、


「あのさあ、会話もできねえのかよ。鬱陶しい、お前」


 これには思わずカチンと来た。なんで人が親切しようと思ったところにこんな詰められ方をしないといけないのか。確かに女性ともなればこのくらいガードが堅い方が丁度良いのかもしれない。だがそれにしたってそんな言い方されたら傷付く。仮にナンパ目的でこんな対応されたら1週間は寝込む。


「何でも屋ですよ!!アンタを助けようとしたの!つーかいくらなんでもアンタにそんなイワレをされる覚えは無いっつーの!!」


「へえ?何でも屋ねえ」


 “何でも屋”というワードを耳にし笑みを浮かべる彼女。


「じゃあ私を助けてよ、“何でも屋”さん?」


「………………。」


「ねえ財布、探してほしいな?私困ってるんだけど」


 この女嫌いだ。神栖はそう確信した。猫撫で声を出す割に随分と圧を感じさせられる。

 だが“何でも屋”だと名乗ってしまった以上引き下がれない。人様本宮様の看板を背負っているなんて自覚はカケラも無い彼だったがそれ以前の話、プライドが許さないのだ。神栖は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら、


「わかりました。どんな財布ですか」


 これが神栖に出来る最大限の抵抗だ。だがそんな彼の様子に、


「あっはははは!君面白いね」


 何故かわからないが彼女は神栖のことがお気に召したご様子。


「そっか財布ね、白いワニ革の長財布。つーかせっかくだし私の話し相手になれよ」


「財布探してほしいって言ってませんでしたっけ」


「そんなの2の次で良いよ。どうせ大したこと出来ないだろお前」


「出来ますよ」


「はあ?」


 神栖の異能は視覚操作、千里眼。読んで字の如く遥か遠くの人間や物すらを視認することが出来るのだ。つまりは探し物なんて朝飯前。彼は右眼を掌で覆い神経を集中させる。半径100メートル一斉探知―――――

 そしてほんの数秒の沈黙の後、


「一応それっぽいモノは見つけました。その先に落ちてます」


「…………ほお?」


 彼が指を差す先はビルとビルの間の路地。神栖は自身が指し示した場所へと歩みを進める。女性もまた彼の一歩後ろをついてゆくと、


「これですか」


「へー、マジじゃん」


 神栖が拾い上げた1つの長財布、それこそが目当ての品らしい。ワニ革のそれを手渡すと、彼女はファスナーを開き中を確かめる。


「えーなんだよ金スられてんじゃん。でもクレカと免許証は無事か」


「これで良いですか」


「おう、ありがとうな」


「一言だけかよ」


 神栖は思った通りの言葉を吐いた。すると女性は少し考える様子を浮かべたのちに神栖の元へ歩み寄る。


「じゃあこれならどうよ?」


 彼女は神栖の頬に唇を当てた。そう、それはまさしくキスであった。何が起こったのか把握出来なかった神栖は、


「………はぁ?」


 と声を漏らすが、彼女は続けて、


「お礼。君付き合ってる人はいるの?」


「なんですか急に」


「ああ、わかった。好きな人がいるのね」


「言っている意味がわからないんですけど」


「そうか。なら君にこれを進呈しようかな」


 神栖に次から次へと畳み掛ける彼女は財布から四角いブツを取り出す。


「はあ?なんですかこれ」


「なるほど見たことも無いのか。ゴムだよ」


「はあ!?」


「まあ貰っとけよ。財布に入れておくのは一種のおまじないみたいなモンさ。想い人との恋が成就するかもな?」


 明らかに揶揄われている。この女に対して苛立ちを募らせる彼だったが、


「この財布頂き物でね。無事に見つかって助かったよ、それじゃあな。また会おうぜ、神栖御琴」


 神栖の肩をポンと叩くと、彼女は足早に雑踏の中へと消えていってしまった。


「なんだったんだよ…あのエロ女」


 不完全燃焼に終わりモヤモヤが残る神栖だったが、ふと1つの疑問が脳裏に浮かんだ。


「名前……。名乗ったっけ」

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