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異能が現実のものとなったこの街の片隅で。  作者: 松葉天佑


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美容室に行こう

 それから時は進み時刻は18時50分。漫画談義がひとしきり済んだ神栖と高月はキッチンにてお弁当作りに励んでいた。神栖と美容師諏訪、そしてこの後も漫画談義をしたいらしい高月の計3人分のお弁当と、那須家に残る家主の夕飯も一緒に。

 料理経験が乏しい神栖少年は最初こそヒィヒィ言っていたものの、なんだかんだでコツを掴んだよう。最後は手際よくお弁当に具材を並べていた。

 ちなみに今日の献立はハンバーグとナポリタンがメイン、そこにポテトサラダと神栖のお気に入りである卵焼きを添えてみた。


「ちなみに、スーパーのお弁当もそうなんだけど。なんでハンバーグの下にパスタを敷いてるか、御琴君わかる?」


「え、ボリュームが出るから、とかですかね」


「それもあるんだけど、1番の目的はハンバーグから出る油分や水分を吸わせるため、なんだよ。時間が経ってビチャビチャになるのを防ぐためにやってるんだ」


「へー、何気ない具材にもちゃんと意味とかあるんですね」


 その通り、この世のありとあらゆるものは何かしらの意味を持って存在している。人間もまた同じならば、それ程喜ばしいこともないのだが。まあこれ以上は話が脱線してしまうので今はこのくらいにしておこう。

 とにかく、その物が何故そこにあるのか。それを知った時の、知識欲が満たされる感覚は何ものにも代え難い。ふとしたことでも調べる習慣が付くと、人生がより楽しくなるかもしれない。


「あずちゃーん?そろそろ出た方が良いんじゃない?19時だよ?」


 ふとパソコンから時計へと目を向けた那須が高月に声をかける。


「わかったー。じゃ支度して行こっか、御琴君」


「はい」



――――――――――――――――



「それでは今日も1日お疲れ様でした」


 “お疲れ様でしたー”とスタッフ一同の声が響き渡るここはそう、諏訪澪が勤める美容室Iris。


 今日の業務を終えてひと段落した諏訪はふーっと一息。


 そんなところで店内にチャリンチャリンと鈴の音が。彼女が入り口の方へと目をやると、そこには神栖と高月が立っていた。


「おっ、時間通りだねー。今用意するからちょっと待っててねー」


 間も無く店内に案内された神栖と高月はそれぞれが椅子に座り、テーブルにはお弁当が広げられる。店内の中心の席に腰を掛けた2人の元に、カットチェアを引きずりながら諏訪がやってきた。


「やーやー神栖君。あずちゃんとはどんな話してたのー?あと今日どうしよっか。カラーはリタッチで大丈夫?」


 リタッチとは一度ヘアカラーをした後に伸びてきた根本の部分だけを染め直す施術のことである。まあこれについてはオシャレ染めだけでなくグレー染め、白髪染めにも使われる手法なので聞き馴染みのある人も多いか。このリタッチという施術もまた、1美容師としては慣れるまでが大変なんだ。


「そうですね、リタッチでお願いします。カットの方は毛先を整えるくらいで。あとそうですね、あずきさんとはアニメの話してました」


「りょーかーい。アニメかー。神栖君ってそういうのわかるタイプなのー?」


「正直言うとそこまで詳しくないです。でもあずきさんに色々と教えてもらいました。ナルトとか…あと……チェンソーのヤツ」


「あっははははー!チェンソーのヤツかー。わかるよ、今度映画やるんだもんねー。あ、そうだー。他にお客さんもいないからさ、何かかけたい曲あったらスマホで音出してだいじょぶだよー」


「僕は特に」


「…じゃあ私が流す」


 と言うと高月はポーチからスマホを取り出し、音楽を流し始める。その間に諏訪は神栖の首元にタオルを巻き、カットクロスをかけた。ここら辺は流石一人前の美容師、慣れた手付きであっという間に済ましてみせた。

 そしてシザーケースからハサミとダッカールを取り出すと、神栖の頭髪チェック。


「お、ツーブロ入れてんのかー。いつも何ミリでやってるー?3?」


「3でお願いします」


「はいよー。あ、その曲。米津さんでしょあずちゃん」


「流石。よくわかったね」


「わかるよー。特徴的な歌声してるもん。何の主題歌なのー?」


「ガンダム」


「すごい。あずちゃんガンダムも観てるのー?」


「作品数多いから単発でところどころだけど、面白い」


「ガンダムなー。そうなんだよめちゃくちゃ多くてさー。神栖君は観てるー?」


「いや観てないです」


 ガンダム。とにかく長寿タイトルなだけあって作品数がめちゃんこ多い。それ故にガンダムファンに何から入るべきか、オススメを聞いてもまさに十人十色。一人一人答えが違うなんてことはザラである。だからそういった作品はある意味、思いたったが吉日。ただ目に入ったものを手に取ってみるというのも悪くない選択肢なのかもしれない。


「ウチの店長も好きなんだよねーガンダム。いつか観ようと思ってるんだけど、なかなか手を付けられなくてね?」


「へー。でもやっぱ人気なんですね、ガンダムって」


「らしいよー?店長さー、前この美容室にガンダムのプラモデル飾りたいとか言い出してさー。流石にココの世界観崩れるから皆でNG出したんだよねー」


「なんなんスかそれ。でも良いんじゃないですか?いっそのことアニメ推しの美容室ってことにしたら」


「まあそれならそれでウチも飾りたい推しとかいるけどー。でも美容室ってオシャレな空間って認識の人が多い訳じゃん?そこにアニメ文化取り入れて、変に“とっつきにくい場所”って思われてもヤだしー」


「ふーん、なかなか難しいもんですね」


「そうなんだよー。経営戦略って考えること多くて頭痛くなってくるんだよね。もし君が専門学校に進学したら多分授業で戦略についても勉強するだろうから、今のうちに予習しておくのもひとつだよー。てか神栖君、将来の夢ってある?」


「唐突ですね…考えたことも無かったです」


 将来の夢。読者諸君は何を思い浮かべただろうか。将来と一括りに言っても、その時期は受験期だとか転職を考えようとしている時期だとか、あるいは老後についてだったりとか色々あるだろう。

 神栖御琴はつい昨日まで夢も、自分自身すらも棄てていた身。将来について考えたことが無いというのもまた、無理もない話だ。


「まあそんなもんだよねー。ウチも美容師目指そうって思ったの受験ギリギリの頃だったし。神栖君ってバンちゃんのことはもう知ってるんだっけ?」


「本宮さんですよね。昨日バトりました」


「バトル!?!?で、どっちが勝ったの?」


「まあ、負けたからこそ今僕はここにいるんですよね」


「えー…神栖君ってデュアルスキラーなんだよね。昨日君が帰った後聞いたよー?バンちゃんはどうやって勝ったの」


「爆発起こされて酸欠になりました」


「酸欠……あの人もエグいことするな〜……。てか爆発に巻き込まれて無傷の神栖君も何なの」


「デュアルスキラーです」


「それは聞いたー」


「ちなみに諏訪さんの異能ってなんなんですか」


「おっ、ウチに興味持ってくれたー?」


「まあ」


「ウチの異能はね、予知。この先に起こる未来がウチの目には見えるの」


「異能ガチャ大当たりじゃないですか。テストの答案とか見れそう」


「ふふーん、私にはこの後神栖君がどんなスタイルになってるのかもわかるのです」


「どうなってるんですか。リタッチと毛先整えるだけでそんな変化無いでしょ」


「…………。」


「――――?」


「……髪がボロボロになってウチが神栖君にめちゃくちゃ怒られてる未来が……」


「オイ」


 彼は思わずツッコんでしまった。だが、諏訪はそんな神栖少年を笑い飛ばす。


「あははははー!んな訳無いじゃん!ウチ、予知が出来るって言ってもせいぜい数十秒先が限度なの。そんな未来見えちゃいないよ。それにウチだって美容師としての腕には自信がある訳だし。心配すんなってー。神栖君、結構からかい甲斐がある子だなー?」


「やかましいです」


「あずちゃーん、これが神栖君の扱い方ね?ちゃんと話聞いてるー?」


「は、はい……ちゃんと聞いてる……です。」


「よし、こんなもんかなー?神栖君、ウチの施術の出来はどうだい?」


 ワゴンの脇に掛かった2面鏡を取り出すと、諏訪は正面の鏡越しに全体像が見えるよう傾ける。


「どうなることかと心配しましたけど、大丈夫です。バッチリです」


「それは良かった。じゃあ次はカラー、ブリーチからやるけど、神栖君てカラー剤シミるタイプ?」


「いや、多分大丈夫だと思います」


「おっけー。一応ギリ根本は外しとくけど、もしシミたら教えてね」



――――――――――――――――


 その後も諏訪は慣れた手つきでブリーチ、そしてカラー染めをこなしていく。放置時間中のお食事会も終えて、ついにお流しタイム。時刻は21時を過ぎた頃だが、神栖少年にはもう少しだけお付き合いいただこう。


「よし、ちゃんと染まってるみたいだから流すよー。神栖君、せっかくだしトリートメントとヘッドスパもしてあげるよー」


「じゃあお願いします。」


「任せなさい。お姉さんのヘッドスパは評判がいいんだぞー?あずちゃんも、しばらくシャンプー台に居るから一緒においで」


「はぁーい」


 こうして諏訪に案内され、神栖と高月の2人はシャンプー台へ。諏訪が施術をする隣の座席に高月はちょこんと座り、いざまったりトーク再開。シャワーホースへ手を伸ばし蛇口を捻ると、ジャーっと勢い良く水が流れ出る。


「お湯加減いかがですかー?と言ってもブリーチ剤流した時と変わんないか」


「大丈夫でーす」


 神栖の返答を確認すると、諏訪は頭部全体にシャワーを回し掛け、そのままシャンプーに移る。


「シャンプートリートメントもね、いっちばんたけぇヤツ使ったる。感謝しなよー神栖少年」


「わかってますって」


「しっかし銀髪なんてよくやるよねー。いつからやってんの」


「高1の夏からですね。それまでは赤とか紫とか」


「かれこれ1年近くやってんのかー。赤ってバンちゃんみたいな感じ?」


「本宮さんよりも明るめですかね。ダークレッドというよりも真っ赤です」


「へー、真っ赤な髪の神栖君もなんか新鮮で良いね。あずちゃんはやっぱり銀髪がお好みー?」


「御琴君がやりたい色ならそれで良いけど、やっぱ銀髪って凄くいい」


「だってさ。神栖君銀髪やめる時は最後にカヲル君カットさせてちょうだいよ」


「まあそれは気が向いたらで…」


「頼んだよー?あ、そうだ。施術終わったらさ、出来上がりを写真に撮ってブログ出しても良い?ウチ、メンズの固定客がまだ少なくてさー」


「それなら別に良いですよ。顔は写るんですか」


「ありがとー!お顔はモザイクいれるよー。ウチらの業界も個人情報には厳しいからさ」


「わかりました」


「でも実際、顔出ししても全然おっけーなくらいルックス良いよねー。将来モデルさんとかどう?身長何センチ?」


「それはどうも…175です」


「175って言うとクラスでも高めじゃないー?」


「どうでしょう。しばらく学校行ってなかったんでわからないですけど、デカいヤツは190とか居た記憶が」


「はえー、190ってもう呪術とかJOJOの世界観じゃんね?バスケとかやってんのかなあ」


「さあ?でも異能は身体強化系とか聞きました、ソイツ。発現した異能によっても身体の成長とか関係してくるんでしょうかね」


「かもねー。てかそうだ、異能で思い出した。神栖君、バンちゃんのお手伝いするってのはどう?」


「唐突っスね……。本宮さんのってバーテンダーってことですか?」


「ううん、違う。何でも屋さん。バーテンダーの方は多分パイセンからの許可が貰えないと思う」


 あー……と、彼は思い出したかのように声を漏らした。思えば本宮、峯が神栖に接触したのも、何でも屋としてだったか。


「でも僕がですか?というかそもそも、峯さんはなんであんなのと連んでるんです?」


「あんなのって随分な言い草だなあ。まあ神栖君としてはあまり良い印象も無いのかな?」


 あはははー、と笑って見せながら彼女は再びシャワーホースを掴み、シャンプーを洗い流してゆく。そして彼女は困ったような笑みを浮かべながら、


「峯ちゃんとバンちゃんって大学の先輩後輩って関係でね。峯ちゃんて2年の時に大学辞めちゃったんだけど、辞めた後も色々お世話してもらってたらしくてさー。それで恩義感じてるらしいんだよねー」


「へー。2人って付き合ってるンスか?」


「いや?今は2人ともフリーっぽいけど、学生時代はそれぞれ別に彼氏彼女いたよー。バンちゃん、結構年上のお姉さんに可愛がられるタイプらしい」


「なんか意外ですね」


「そうお?ところで神栖君は彼女とか居んのかよー?」


「居ないですよ。居たこともない」


「おっ、ソイツは良いじゃん。あずちゃーん、神栖君彼女居ないってー」


 ぶふっっっ!?!?


 神栖と高月、過去1の動揺を見せる。お互い満更でもないんだから。


「こらー。いきなり吹き出したもんだからフェイスガーゼ飛んじゃったでしょ。ウチは別に神栖君の綺麗なお顔じーっと見つめてても構わないけどー」


「勘弁してくださいよ」


「わかってるってー。ほら新しいの。自分で掛けなさい」


 諏訪が棚から取り出した新しいフェイスガーゼを、神栖少年はそれはもう急いで自分の顔に掛け直した。コイツ、誤魔化し方があまりにも下手である。


「ったくー。自分から付き合ってるのかーって話しだした癖に顔真っ赤にしてんじゃねーよ」


「してませんよ!!」


「さっきガーゼめくれた時にしっかり見ちゃったよ。はあー、とことん可愛いヤツだなお前はー。あと今からトリートメントとヘッドスパいくよー。眠たかったら寝て良いからね」


「…………。わかりました」


「でさあさっきの話に戻るけど、バンちゃんのお手伝い、どう?」


「…………。」


「あれー!?もう寝ちゃったのかなー!?」


「寝てないですよ。ちゃんと起きてます」


「そ?なら良かった」


「正直僕にはよくわかんないです…。本宮さんの手伝いって言われても」


「わからない、かあ。でも良いんじゃない?わからないままやってみるのも。人生わからないことばーっかりだし」


「そういうもんですか?」


「うん。ウチだって将来の目標に美容師を選んだ時も、実際に美容師になった時だって、本当にわからないことばっかりだった。仕事もそうだし、なんでこんなことで人間関係ギスギスするのって悩みだったり。とにかくいろーんなことがわからなかった。

 でも人間ってそれで良いんだと思う。それが当たり前なんだと思う。逆に最初っから全部わかってる人がいるんだとしたら、ウチは正直怖い。みーんな何もわからない状態から、一歩ずつ石橋を叩いて渡って、時には橋が壊れちゃったり、一緒に落ちちゃったり。でもそんなことを続けながら、コツコツと経験値を稼いでいくのが人生かなーって。

 多分、バンちゃんの何でも屋さんが正しくそれなのかなって思う。何も見えない中、手探りで歩いていく。そんなところに、神栖君っていう光が現れたらバンちゃん達、凄く助かると思うな。この異能学区には異能を悪い目的に使う人も残念ながら沢山居る。そんな世界で、かつて君が抱いた正義感は確かに誰かの助けになった。その時の気持ちをもう一度思い出せないかな」


 そう、神栖はかつて、虐めを始めとした数多くの問題行動を繰り返す不良達を相手に戦った。1人で戦った。その結果神栖自身も心が傷付き、痛み分けという結果になった。だがそんな彼の行動にも、救われた者は確かに存在する。かつて己が握り締めた拳を、その思いを、もう一度思い出すことが出来るなら、


 フーッと、深く息を吐いた神栖は決断する。


「わかりましたよ。本宮さんの手伝い、やります」


「………。そう言ってくれると信じてたぜ、兄弟」


 その時、神栖の顔に覆われたフェイスガーゼが捲られる。


 突如シャンプールームの照明に照らされ思わず目を伏せる彼だったが、ガーゼを捲った主を目にして驚愕した。


「……は!?本宮さん!?」


「だーれが峯ちゃんと付き合うかよバーカ。俺は歳上が好みなんだ」


「いえーい!言質とれたねバンちゃん」


「おうよ!しっかしお前が自分でシート外した時は焦ったぜ。危うくドッキリする前に見つかるところだった」


「満更でもない神栖君の表情可愛かったよー?バンちゃんも見れば良かったのに」


「で、ちょくちょく目が合ってたけど、そっちの子が神栖君の彼女さんってことだよな!ウチの兄弟をよろしく頼むぜー」


「よろしくお願いします……」


 “彼女”というワードにまたしても顔を真っ赤に染め上げる高月と神栖だったが、そんな2人のことなんてお構い無しと言わんばかりに、


「それじゃ俺そろそろギルドに戻るな!あんまり長居してるとまーた峯ちゃんに怒られるから。じゃあな3人とも!あと神栖君、手伝いの内容はメッセージで送っといたから暇な時にでも目ー通しといてくれー!!」


 間も無くチャリンチャリンという鈴の音が響き渡ると、彼の姿はもう既になくなっていた。


「全く、嵐のように去ってったねー」


「全くですよ、本当に」


「まあまあ、今からたーんとヘッドスパしてあげるからウチに免じて許してよ。お客様のリピート率驚異の100%なんだよー?おねんねさせたげる」


「それなら許します」


「良かった」


 その後神栖はものの1、2分で眠りにつき、諏訪と高月は彼の可愛い寝顔をたっぷりと堪能しましたとさ。




――――――――――――――――



「ほーらー、神栖くーん?そろそろ起きないとだよ」


「あと9時間」


「ウチに徹夜させる気かなこの子は」


 時刻は22時。熟睡通り越して爆睡かましてた神栖少年。だが寝るにはまだ早い。頑張ってくれ。


「起きないと顔に水かけるよー」


「そんなことされたらココのレビュー星1で投稿します」


「それは困るけど早く起きてー」


「大丈夫、起きてます」


「じゃあ椅子起こすよー」


 自動のシャンプーチェアに身を任せ身体を起こされた神栖はまだムニャムニャの夢心地のよう。彼は諏訪に諭されながら元いたカットチェアに腰を掛けた。諏訪はワゴンからドライヤーを取り出すと慣れた手つきで神栖の髪を乾かし始めた。


「しっかし神栖君、頭凝ってたねー。ウチビックリしちゃったよ」


「視覚操作は疲れますからね」


「でしょうねー。デュアルスキラーさんともなると異能使うだけでもかなり疲れるでしょ」


「わかります?」


「ウチも頭凝ってるって言われるもん。わかるよー」


 神栖はおもむろにスマホを取り出すと、1件のメッセージ通知が届いていた。恐らくは本宮からだろう。彼自身もそう考えながらメッセージを開くと、


「なんだこれ」


「んー?なになにー?」


 諏訪は彼が目を向けるスマホ画面を覗き込んだ。その内容は、



『依頼を引き受けて完遂する。時給2千円』



「あまりに淡白過ぎません?これ」


「あの人はそんなもんだよー。それよりも時給めっちゃ良いじゃん。キャバとかホストとかそのくらいの値段だよー?」


「それが返って不安になってくるんですけど」


「まあ大丈夫だよー。変なお仕事だったら峯ちゃんが続けてないもん」


 確かにそれはそうなのだけれども、かと言ってこの情報量の少なさはいささか不安にもなる。気にする程のことでもないというのは本宮の性格や峯を見る限り確かだが。


「ちなみにシャンプー台でのお説教なんだけど、実はパイセンの受け売りなんだよねー。ウチも神栖君と同じくらいの歳の時にパイセンからほぼまんま。そのままのお話を頂いたんだー」


「……は?文言までよく覚えてますね」


「あの人話が長いように思えてタメになることしか言ってないからね。ウチと峯ちゃんの2人はよくパイセンのお言葉をメモしてたんだー。あ、話が長いってのはオフレコで頼むね?」


「わかりました」


「そうそう、髪のセットはするー?今日はそのまま寝ちゃいたいか」


「そうですね、無しでお願いします」


「おっけー。じゃあこのままチャチャっと乾かしちゃうねー」


 間も無く髪を乾かし終えると、諏訪は再び2面鏡を取り出し、


「こんな感じです!今度はカヲル君カットさせてね?」


「気が向いたらで」


「はーい。よし!それじゃ身支度してー。もう遅いからとっとと帰るよ」



――――――――――――――――



 その後、諏訪達3人でしっかりと戸締り確認をし、お店の外へ。



「それじゃ神栖君!パイセンに怒られるから今日は早く寝て、明日も学校に行くこと!……と言いたい所なんだけど、あずちゃん送って行きなよ」


「え?まあ良いですけど」


「“まあ”じゃないでしょー?レディをちゃんとエスコートするのが良い男ってもんでしょ」


「わかりましたよ」


「それじゃお2人さん、良いお時間をー!私は逆方向だからここでサヨナラねー!」


 意地が悪く感じられる程にニマニマとした笑みを浮かべる諏訪。外野の皆々様はどうやら神栖と高月をくっつけたいご様子。駆け足で去っていく彼女の姿を見送ったのち、神栖と高月は帰路についた。

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