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異能が現実のものとなったこの街の片隅で。  作者: 松葉天佑


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登校初日

 小鳥の囀り、そして青々とした木々の隙間から差し込む日差しが心地よく感じる6月、快晴の朝。そんな街並みの中に一人の高校生の姿。

 左サイドを耳にかけ、長く伸びた銀髪が美しい輝きを見せる、そんな中性的な印象を感じる少年―――神栖御琴である。


 彼は足早に横断歩道を渡ると、その先で悠然と構える高校へと足を踏み入れるのだった。


 今日が彼にとって、不登校明け初日の学校生活となる。




――――――――――――――――



「おはよう!早かったね。昨日はちゃんと寝れたかい?」


 時刻は8時10分。一段一段と階段を踏みしめて校舎二階に上がり、その先にある職員室へと向かおうとした所で、神栖の目の前に担任教師那須が突如として姿を現した。


 そう、那須の持つ異能、瞬間移動だ。待ちかねたという表情を浮かべる彼女をよそに、神栖は視線を逸らしながら、


「まあ遅刻したらヤバいってのはわかってたんで。あと、寝れたっス」


 神栖のこれまでの出席状況からして、1日たりとも遅刻や欠席が許されないというのは当然の事だ。

 だからこそ彼は那須に指定を受けた時間よりも早く登校した、というところである。


「よろしい。説明する事も色々あるからさ、早く来てくれて助かったよ」


 那須はそう口にしながら職員室隣の空き教室へと神栖を案内する。




 引き戸の鍵を開け、彼女に促されるまま神栖が入室すると、そこには教室の中心にポツンと配置された二つの席があった。

 二人はそれぞれ窓側に那須、廊下側に神栖といった並びで椅子に腰をかける。


 那須は手に抱えていたプリントの束を神栖の座る席に置いた。それに視線を向けると神栖は驚きの声を上げる。


「――――は?中間テスト?」


「そう。実は来週から始まるんだよね」


 今は6月。一般的なカリキュラムならひと月程前にテストは既に終えている頃だろうか。

 ただ、神栖の通う高校では二学期制が導入されている。一般的な三学期制とは異なり、一年を前期と後期の二つに分けている為、それに伴い定期テストが行われる回数や時期にも若干のズレが生じるのだ。


 勿論、二学期制ならば定期テストの回数も一学期分少なくなる為、世の学生からしたら泣いて喜べる事なのかもしれない。

 しかしテストの回数が減ればその分、一回一回の結果がより重く成績に反映される為、結局の所二学期制と三学期制、どちらが良いかと言われれば一長一短なのである。


 とは言え、神栖御琴は不登校となっていた身の上だ。

 もしも三学期制だったならば既にテストも終わってしまっていた為、今回に限れば二学期制である事に救われたと言った所か。


「でも僕勉強してないっスよ」


「だから今日から勉強するの」


 そう言って那須は、一枚のメモ用紙を神栖に手渡す。そのメモ用紙には、来週から行われるテスト全教科の出題範囲が事細かに記されていた。


「君のために全教科の先生方に頭下げて聞いてまわったんだから、感謝してよね」


 右端に熊のぬいぐるみが描かれた可愛らしいメモ用紙にびっしりと書き連ねられた出題範囲。

 ”ウス”と答えながらも、神栖はそれに目を向けると範囲の広さに思わず固唾を呑む。


 腰に手を当て、神栖の方へ人差し指を立たせた腕を突き出しながら、


「学校休むとこうなるんだからね。君にも色々あった事はわかるけど、これに懲りたらもう学校は休んじゃ駄目だからね。」


「わかってますって」


「あと、君が学校に置いてた教科書類はそこのロッカーに移動させといたから。ロッカーもまあ散らかさない範囲内で好きに使っていいよ」


 と、那須は教室後ろ側にあるロッカーを指差す。

 一通り言いたい事を伝えた様子の彼女は勢いよく立ち上がり、


「午前中は自習でクラスの方行かなきゃいけないんだけど、午後からは私が見ててあげるから、勉強頑張ってね!

暇そうな先生いたらこっち来るようお願いしとくから、失礼の無いように!」


 はあい、と神栖が返事をすると、2年3組へ向かうため那須は教室を後にする。神栖はそんな彼女を見送るとフーっと一息つき、元に置かれたプリントの束に目をやった。


「それじゃあ始めますか」


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