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緑の扉から出てきたのは、獣人だった。


人の姿に耳と尻尾がある者と、全身が獣なのに普通に二足歩行している者の二人連れだった。


「こんにちは、どちらへ向かわれますか?」

扉を開けたコラードが確認する。


「マギカに用があって」



紫央は、目を丸めて咄嗟に口を両手で覆う。

「......っ」


全身が獣のほうが答えたので、紫央は思わず声を上げそうになった。


人の姿の方ならそこまで衝撃ではなかったが、あからさまに獣然とした風体のほうが口を利いたので、紫央にとってはかなりのカルチャーショックだった。


獣人がそれを敏感に感じ取ったのか、紫央は獣人と目があった。


失礼なことを...してしまったよね。


謝る?

でも、驚いただけで謝るのもおかしいのかな。




紫央はとりあえず、さっきフレンの言っていたことを、言うことにした。


「も...持ち物検査に、協力してくださいね」


「ああ、あんたは新しい使者さまかい?はじめて見る顔だが」

全身が獣のほうが気さくに話しかけてきた。


「今日からです、よろしくおねがいします」


「丁寧にありがとよ。オレは、ザイル。こっちはダルだ」

紫央は名前を聞くと、なんだか獣人との垣根が取れたような気がした。

「私の名前は、紫央です」


「シオさんか、かわいいな」

ザイルがニコリとした。こんな風体なのに意外と声も優しくて、かわいいと言われても厭らしさを感じない。

この獣人さん、好きかも....



「はいはい、ザイルさんこの使者は気に入っても持って帰れませんからね〜」

紫央の後で見守っていたコラードが口を挟んできた。


「え....」

え...持って帰ろうと思っていたの??


さっきのいい人認定が....


紫央は一歩後ずさった。


「紫央、コラードの悪ふざけです。ザイルさんもダルさんも良い方です。紫央はデリット神の庇護を受けてます。安心してください、持って帰るなんて無理ですよ」

アリビオが紫央にこそっと耳打ちする。



「こりゃ、まいった。そんなつもりでかわいいと言ったわけではないが...」


コラードのせいで、余分な恥かいちゃった。


「...ですよね!社交辞令だって、私は気付いていましたから」



これからは、コラードって呼び捨てしてやる〜!


相手はその気もないのに警戒するって、恥ずかしすぎる....



ザイルが紫央を見て微笑む。

「いや、可愛らしいと言ったのは本音だ。マギカや獣人国にはいない姿形だと思ってな。小柄で庇護欲が掻き立てられるよ。でも持って帰らないから安心しな。ハハハ....」



ザイルさん...なんていい人。



「はい!紫央、ここに手を当ててマギカって唱えて」

フレンが、イズエラーのスイッチを指でさす。


そうだった、さっきの親子の時もフレンがこのスイッチを押してた。


紫央が言われたとおりに手を触れる。

「マギカ」


「じゃ、中に入ってくださいね」

フレンが、ザイルとダルを誘導する。


二人が中に入ると床板が発光して、光が足元から頭上に向かって上がっていく。


無事に何事もなくスキャンが終わる。


その後は、扉の広場ヘ移動する。


「マギカの扉の色、わかりますか?」

紫央の後ろを付いてきていたアリビオが、紫央の横に並んで歩きながら聞く。


確かさっきの親子はマギカから来たって言ってた。赤い扉から来てたよね....


「赤い扉かな?」


「正解です」

アリビオが紫央に優しく微笑む。


おぉ。アリビオの笑顔だ。

超キュート!


そんなやり取りをしている間に、他の者は赤い扉の前にもう到着していた。


「シオさんが扉を開けてくれるかい?初仕事なんだろう。オレらをあんたの最初のゲストにしてくれ」


最初のゲストかぁ...すっごい、いい響きだな。


「は、はい!ザイルさんとダルさん、良い旅を....」

紫央が赤い扉を開ける。



扉の向こうに部屋があった。


騎士のような身なりの人が4、5人いて、部屋の中を警護している。


部屋の中央に大きなテーブルがあり、そこに書類を整理している人が座っていて、扉が開くとこちらを見てニコリとする。


赤の扉と同じ色のローブを(まと)ったその男性は席から立ち上がり、扉の側まで来ると丁寧に紫央に頭を下げる。


「使者さまお疲れ様でございます。獣人のお二人さま、ようこそいらっしゃいました」


「あ、お疲れ様です」

紫央も頭を下げる。


ザイルとダルが扉を(また)いでマギカに入る。


「ザイルさん、ダルさんまたね」


「シオちゃん見送りありがとな」

ザイルとダルは、笑顔で紫央に手を振る。


紫央は二人を見送った後、ゆっくり扉を閉めた。





紫央は、あの後4、5件のゲストをアリビオと一緒に担当した。


今は、与えられた部屋でのんびりして過ごしている。


ベッドで横になって、もらったりんごを(かじ)る。














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