4
緑の扉から出てきたのは、獣人だった。
人の姿に耳と尻尾がある者と、全身が獣なのに普通に二足歩行している者の二人連れだった。
「こんにちは、どちらへ向かわれますか?」
扉を開けたコラードが確認する。
「マギカに用があって」
紫央は、目を丸めて咄嗟に口を両手で覆う。
「......っ」
全身が獣のほうが答えたので、紫央は思わず声を上げそうになった。
人の姿の方ならそこまで衝撃ではなかったが、あからさまに獣然とした風体のほうが口を利いたので、紫央にとってはかなりのカルチャーショックだった。
獣人がそれを敏感に感じ取ったのか、紫央は獣人と目があった。
失礼なことを...してしまったよね。
謝る?
でも、驚いただけで謝るのもおかしいのかな。
紫央はとりあえず、さっきフレンの言っていたことを、言うことにした。
「も...持ち物検査に、協力してくださいね」
「ああ、あんたは新しい使者さまかい?はじめて見る顔だが」
全身が獣のほうが気さくに話しかけてきた。
「今日からです、よろしくおねがいします」
「丁寧にありがとよ。オレは、ザイル。こっちはダルだ」
紫央は名前を聞くと、なんだか獣人との垣根が取れたような気がした。
「私の名前は、紫央です」
「シオさんか、かわいいな」
ザイルがニコリとした。こんな風体なのに意外と声も優しくて、かわいいと言われても厭らしさを感じない。
この獣人さん、好きかも....
「はいはい、ザイルさんこの使者は気に入っても持って帰れませんからね〜」
紫央の後で見守っていたコラードが口を挟んできた。
「え....」
え...持って帰ろうと思っていたの??
さっきのいい人認定が....
紫央は一歩後ずさった。
「紫央、コラードの悪ふざけです。ザイルさんもダルさんも良い方です。紫央はデリット神の庇護を受けてます。安心してください、持って帰るなんて無理ですよ」
アリビオが紫央にこそっと耳打ちする。
「こりゃ、まいった。そんなつもりでかわいいと言ったわけではないが...」
コラードのせいで、余分な恥かいちゃった。
「...ですよね!社交辞令だって、私は気付いていましたから」
これからは、コラードって呼び捨てしてやる〜!
相手はその気もないのに警戒するって、恥ずかしすぎる....
ザイルが紫央を見て微笑む。
「いや、可愛らしいと言ったのは本音だ。マギカや獣人国にはいない姿形だと思ってな。小柄で庇護欲が掻き立てられるよ。でも持って帰らないから安心しな。ハハハ....」
ザイルさん...なんていい人。
「はい!紫央、ここに手を当ててマギカって唱えて」
フレンが、イズエラーのスイッチを指でさす。
そうだった、さっきの親子の時もフレンがこのスイッチを押してた。
紫央が言われたとおりに手を触れる。
「マギカ」
「じゃ、中に入ってくださいね」
フレンが、ザイルとダルを誘導する。
二人が中に入ると床板が発光して、光が足元から頭上に向かって上がっていく。
無事に何事もなくスキャンが終わる。
その後は、扉の広場ヘ移動する。
「マギカの扉の色、わかりますか?」
紫央の後ろを付いてきていたアリビオが、紫央の横に並んで歩きながら聞く。
確かさっきの親子はマギカから来たって言ってた。赤い扉から来てたよね....
「赤い扉かな?」
「正解です」
アリビオが紫央に優しく微笑む。
おぉ。アリビオの笑顔だ。
超キュート!
そんなやり取りをしている間に、他の者は赤い扉の前にもう到着していた。
「シオさんが扉を開けてくれるかい?初仕事なんだろう。オレらをあんたの最初のゲストにしてくれ」
最初のゲストかぁ...すっごい、いい響きだな。
「は、はい!ザイルさんとダルさん、良い旅を....」
紫央が赤い扉を開ける。
扉の向こうに部屋があった。
騎士のような身なりの人が4、5人いて、部屋の中を警護している。
部屋の中央に大きなテーブルがあり、そこに書類を整理している人が座っていて、扉が開くとこちらを見てニコリとする。
赤の扉と同じ色のローブを纏ったその男性は席から立ち上がり、扉の側まで来ると丁寧に紫央に頭を下げる。
「使者さまお疲れ様でございます。獣人のお二人さま、ようこそいらっしゃいました」
「あ、お疲れ様です」
紫央も頭を下げる。
ザイルとダルが扉を跨いでマギカに入る。
「ザイルさん、ダルさんまたね」
「シオちゃん見送りありがとな」
ザイルとダルは、笑顔で紫央に手を振る。
紫央は二人を見送った後、ゆっくり扉を閉めた。
紫央は、あの後4、5件のゲストをアリビオと一緒に担当した。
今は、与えられた部屋でのんびりして過ごしている。
ベッドで横になって、もらったりんごを齧る。




