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紫央は親子を見送った後、しばらくぼーっとして立っていた。
人が海の中に溶け込むように入っていくのを目の当たりにして、紫央はすぐに脳が理解できずにいた。
「紫央、大丈夫ですか?」
アリビオの声が遠くで聞こえる。低くて落ち着いた声が紫央の耳に届く。
肩を揺さぶるような感覚で、意識を戻した。
目の前に焦点が合ってくる。
金の瞳が心配げに紫央を覗き込んでいた。
アリビオの深緑の髪が、少しだけ金の瞳に掛かっている。
「紫央、ぼんやりしてましたが....」
アリビオの背中越しに軽い口調でコラードが話しかけてくる。
「まだ、体が適応できてないんじゃない?仕事は早かったんじゃないの〜?紫央ちゃんフレンにこき使われたんでしょ」
ピンクの髪に赤紫色の瞳のコラードは、見た目は可愛いが、人をからかって楽しむ癖があるようだった。
「フレンこき使うなよ〜、珍しくデリット神の興味を引いた子だよ。大事に大事にね」
フレンがムッとして言い返す。
「まだ、見学で仕事してないわよ」
デリット神が、私に興味??私の何に興味を持ったのか....気になる。
紫央は二人の話が気になり、フレンとコラードの方を向く。
「コーラド、フレン静かにしてください」
アリビオが、後ろで好きなように喋っているコーラドとフレンを注意した。
「それより、さっきもいだ果実をこちらにください」
「あ、そうだったね」
コラードが持っていた籠から、りんごを取り出してアリビオに手渡す。
「はい。アリビオ、えらく紫央ちゃんに構うな。珍しい〜」
アリビオが、コラードを無視して、受け取ったりんごを、紫央に手渡した。
「りんご....なぜここに?」
「紫央の世界のものと味が一緒だといいんですが...」
紫央がりんごを受け取る。
「そのまま齧っても問題ありませんよ」
言われるままに紫央はりんごをひと齧りした。
「私の世界にあるりんごと同じ味です」
「それはよかったです。元々、紫央の世界もデリット神の世界のひとつですからね。私たちは姿形も似ているし、血の色も同じです。紫央の家族も遠いところにはいますが、デリット神がつなぐ扉の世界の一つです。どうでしょう、そう考えて少しは寂しさが紛れませんか...」
ん??
「なんで、私が寂しいって感じているってわかったの?」
「それは...」
アリビオが言いよどんでいると、少し離れたところにいたフレンが寄ってきた。
「アリビオ...紫央に真実の目を使ったの?」
「真実の目?」
紫央はわけが分からず首をかしげる。
コラードも話を聞いてニヤリと笑いながら、近付いてきた。
「紫央ちゃんに教えてあげるよ。アリビオは真実の目っていう加護が特別に与えられているんだ。アリビオはデリット神の特別だからね」
アリビオはコラードが余計なことを言う前に、『真実の目』の説明を簡単に紫央にする。
「時々嘘をついてイズエラーにかからないように巧妙に持ち込み禁止のものを運ぶ商人がいるのです。それを見極めるためにもらった能力なんですが、使用すると相手の感情に同調してしまうので、ほとんど使うことなかったんですが...」
一通りの説明を聞いて、アビリオがその能力を用いて紫央の感情に同調したことが判明した。
紫央が目を見開いてアリビオを見る。
「大丈夫です...もう同調は切れています。ほんの2、3秒しか使用していないです」
人の感情を読んで同調する能力ってこと…?!
「アリビオさん、私の心を勝手に覗くのはやめてください!」
恥ずかしい...!!
こんなふうに気持ちを覗かれるなんて無理....
アリビオが紫央の剣幕にシュンとする。
「すみません、俺...」
しまった!!
ジャングルのような森にまで入って、りんごを取ってきてくれた人に偉そうに言っちゃった!
「あ、えっと...強く言い過ぎました。すっっっごく恥ずかしかっただけなんでもう大丈夫ですから、ねっ」
紫央は恥ずかしかったことを強調しておいた。
緑の扉が光る。
コラードが緑の扉の方に向かう。
「はい、後にしようね。お二人さんゲストだよ」




