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神殿の前に広がる広大な敷地には、箱庭の存在意義でもある扉が青空の下、一定間隔でずらりと並んでいる。


この扉がずらりと並んでいる場所を通称『扉の広場』という。



紫央は今、扉の広場に来ている。



「紫央、おはよう〜!眠れた?ロホの実はちゃんと食べたの?」


「フレンさん、おはようございます。ロホの実は言われた通り食べました。でも、なにか噛みたい……」


「あなたがそう言うから、アリビオとコラードが森の方まで探しに言ったわよ」



近くには森があり、多種多様な生物が存在していることで、この箱庭の生態系を維持している。


あの森って入って大丈夫なのかな....けっこうジャングルっぽいけど。

紫央は森の方を眺める。


「何か食べたいけど…お腹が空いているわけではないんです。今のところ空腹っていう感じはないんですよね〜」


「ロホの実のおかげね。朝一つ口に入れたら次の日の朝まで持つから」



ロホの実かぁ....便利だけど慣れるまでは、口寂しい。



あの赤い実一個で、空腹にならずに栄養もとれているって、万能だ....でも、空腹感は感じなくても...食べた気がしない。



そういえば、加護っていつもらえたんだろう?あの実を食べたことで獲得したのかな?



「少しずつここの生活になれるようにサポートしてあげようってみんなで話したの。扉の管理の仕事もここでの生活の一部だからちょっとずつ教えるね。何もしないと紫央退屈しちゃうでしょ」



視界の隅で何かがちらついた。設置されている扉の一つ、赤い扉が光る。


フレンがそれに気付いて、赤い扉の前に駆け寄る。


「紫央、こっちにおいで。ゲストがきたよ。使者である私たちが扉を開けることで、この箱庭と繋がるから」

紫央も言われた通りフレンの傍らにつく。



フレンが赤い扉を開け、扉の向こう側にいる親子に話しかける。


「おはようございます、扉の広場にようこそ〜」


「よろしくお願いします」

母親が挨拶をする横で、手を繋がれた男の子はフレンをじっと見ている。


可愛い、5歳くらいかな?


二人ともシルクのような質感の外套を羽織って、トランクを持っている。




フレンと親子の会話を聞いていると、親子はマギカ国とかいう魔法の国から来た旅行者のようだ。



魔法の国っ!



「魔法の国って、魔法が使える人がいる国ってこと?!えーすごい!」


母親と子どもが紫央の発言に後退りする。


「紫央、落ち着いて。ゲスト、びっくりしてるからね....ごめんねこの子、箱庭に来たばかりで」

フレンがしゃがんで、目線を男の子に合わせて微笑む。



母親に手を繋がれた男の子が、フレンを見て目を輝かせた。

「ママ、このお姉さん、マギカ国の王女様よりかわいいね〜」



「ぼく、ありがとう。私の名前はフレンだよ。私の容姿はね〜、扉の創造神デリットの(へき)が盛り盛りに詰め込んであるんだよ」


「へきってなあに〜?」

母親が苦笑しながら、子どもに説明する。


「デリット神の好まれる外見が、フレンさまのような容姿ということよ。可愛らしい容姿の方がお好みでいらっしゃるのね」


フレンの見た目は、色白の可愛らしい顔立ちで、卵色のサラサラのストレートのロングヘアに、藍色の瞳を持っている。


ここの使者に共通しているのは、きめ細かい色白肌だということと、(ひさし)かってほどの長さの睫毛だと思う。




目元はみんな二重だけど、瞳の色が一緒だからアリビオが一番デリット神に似ているかも。


3人の共通点は、デリット神の癖だったんだね。



神様だから下々の言うことなど気にもなさらないだろうが....癖の暴露って。私ならちょっと嫌だな...


「あっちのお姉ちゃんもそうなの?」

男の子がフレンに聞いた。


「あのお姉ちゃんは、デリット神のお手製ではないんだよ。ちょっと特殊な人かもね...」

フレンがちらっと紫央に視線をやる。


紫央は蜂蜜色の瞳に、灰色がかった茶色の髪だ。

髪質が細く、陽に透かすと瞳と同じ金茶にも見える。


肌の色も雪のように白いわけではなく、剥いた桃のような色味だった。



「特殊...?フレン私、特殊なの?」


日本では、容姿は中の上くらいだと思う。ここに混じると中の下か...?特殊な容姿では無いと思うけど...



「デリット神さまが、自分で創造したことのないタイプだと仰せだったから、デリット神にしてはそうなんじゃない?特殊でいいじゃない!この箱庭に、事故とはいえ紛れ込んですぐに謁見してもらえて加護を授かるって、私たち長くここにいるけど初めて見たよ。処分されなくてよかったね」



「お姉ちゃんも、キラキラしてないけど可愛い」

男の子が笑顔で紫央を見る。


紫央は考えた。


そうよね...私ここの使者の人みたいにカラフルじゃないものね...例えるなら、ここの人たちがキラキラした色鮮やかな宝石なら、渋みのある茶器のような雰囲気かも...そう思うと私の外見だって意外といいのかな?




フレンが親子を扉の広場から、神殿内に向かう。


「まず、荷物を検査しますから神殿内に設置してある『イズエラー』に荷物と一緒に入ってもらいますね」




扉の広場と神殿は道が繋がっていて歩いて2、3分くらいで、神殿の入り口に着く。


紫央も初仕事なのでとりあえずお客さんのように、親子の後ろを付いていく。



神殿内はかなり迷いそうなくらい広い。


荷物検査のための装置がある以外にも、憩いの場があったりゲストルームがあったり、使者のための居住スペースなんかもここにあったりする。



中庭には芝生が敷かれていて、池があったり、彫刻のオブジェが設置してある。


虹色の蝶が、池の周りを飛び回っている。


男の子が、はしゃぎながら庭を見て興奮している。



デリット神って、カラフルなのが好きなんだな...



親子が足を止めたので目の前を見ると、円柱状の見た目のマシンが3台並んで設置してある。



ガラス張りのようになっているので中が見えるが、中にはなにもない。


フレンが、装置についているスイッチに触れながら親子に質問する。

「今回の行き先は、どこですか?」


「プリアーシです」


「人魚の国ですね、いいですね〜!」


「人魚....??人魚いるの?!」


親子が再び紫央を怪訝な顔で見る。


フレンが空気を変えようと親子の注意を引く。

「はい!!荷物と一緒に、イズエラーの中に入ってください」


イズエラーと呼ばれる装置がエレベーターの扉のように開く。


親子が言われた通り中に進むと扉が閉まり、床が発光して足元から、頭上までスキャンするように上がっていく。



これが、イズエラーか....空港のボディスキャナーみたいな感じか...



時間にして5秒くらいで終わって、親子はイズエラーから出てきた。

「持ち物も、身につけているものもプリアーシに持ち込めないものはありませんでした、ではプリアーシに行くための扉に向いましょう」


親子が嬉しそうに顔を見合わせる。


検査が終わると、扉の広場に戻るようだ。




神殿から出ると、紫央の顔を清涼な風がひと撫でする。



紫央は、親子のやり取りを見て不意に家族を思い出して鼻がツンとした。


帰れる、大丈夫私は帰れる...家族だって、分身のおかげで寂しい思いをしてない...だから大丈夫。



フレンは親子にプリアーシについての説明をしている。

「....人魚の世界はですね、扉が繋がったら海の底ですから、呼吸管理等準備をきちんとしてから扉を開けましょうね」


親子が杖を出して何かを唱える。

体を外套ごと膜のようなもので覆う。


「準備できたわ、お願いします」

フレンと親子が水色の大きな扉の前に立つ。


よく見ると、親子のちょうどほっぺのところにエラが作られている。


「エラ?!ここにサメみたいなエラがある」

母親の方が困惑した目で紫央を見る。


フレンが紫央を引っ張って少し離れたところに連れて行く。


紫央は少し離れたところで、ことの成り行きを傍観していた。


フレンが扉を開ける。


目の前にオーシャンブルーがひろがる。


巨大なガラス張りの水族館の前に佇んでいるような感覚になる。

ただガラスはなく目の前にはたしかに海の中だ。


不思議な光景だった。扉の中に海水が入ってくることはない。


親子はフレンにお礼を言って、男の子がフレンと紫央に手を振って、荷物を持って、そこに入っていく。たぽんっと音がしたような気がした。


紫央は親子の体が海水の中に入り込んでいくのを夢のような感覚で見ていた。


フレンが扉を閉めるまでずっと見ていた。




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