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「では、お二人のお名前を伺っていいですか?」
紫央は領主夫妻の名前を尋ねた。
先程クランに力を使ったときに感じたことだけど、唱える時に、名前を入れた方がイメージしやすい気がするんだよね。
「ユネカと申します」
夫人が先に答えた。
「アンドラスと申します」
狐族は濃淡はあれど、金色の髪の毛の人が多い。
そんなことを思いながら、目の前のユネカを見た。
頭の中で名前と顔を思い浮かべる。
人に使用するのは初めてで、少し緊張しているのか脇にうっすら汗をかいているのを感じる。
臭ってないよね...
「あの、額に触れますね」
ユネカが少し前のめりになって、額を差し出した。
この様子では、アンドラスの方は妻にのみ原因があると思っているようだけど...私にはどっちが原因かわからないから両方にかけなきゃね。
「ユネカさんとアンドラスさんの生殖機能の正常化もしくは付与」
二人の額に同時に指を触れる。
アンドラスは、紫央の指先が自分の額にも触れたのに驚き目を見開く。
七色のダイヤモンドダストのような光が、紫央の体から滲み出て指先に集約して、夫妻の額に吸い込まれていく。
時計の針がカチッと動いたような感覚がして、額から指先を離す。
「なるほど、二人に施すのか。確かにどっちが原因かわからないよな。しかも正常化か付与って…」
「使いこなしてるんだな…驚いた」
リストが横で感心しながら、頷いている。
大変、また喉が渇く……
「....が欲...し..」
紫央から、かすれた声が出る。
急に喉が渇いて声があまり出ないし、口を開くのが辛い。
アリビオが紫央の状態を察して、小瓶からロホの実を取り出す。それから一度口に含んで、齧ってから半分だけ紫央の口腔内に指で押し込んだ。
「....ん」
おぉ!一気に体の奥底から、満ち足りる感じがする。
紫央が落ち着いたのを確認して、リストが口を開く。
「じゃ、交渉成立だ。狐族の領主さん頼んだよ」
アンドラスとユネカが頷いた。
交渉ってクランのことを言ってるのかな?ちゃんと頼んでくれてるよね?
紫央がアリビオを見る。
アリビオが紫央の視線を受けて、ニコリと微笑む。
「御礼に今夜はおもてなしをさせて頂きたいのですが...今夜はお泊りいただけますでしょうか」
「そうですね、ここから獣人国の扉がある所まではかなり距離があるので、明日の出発にしましょうか、紫央」
「お前、ここに直接黒の門を繋げばいいだろう?」
「正規ルート以外の扉で移動となると、どれくらいの負担が紫央にかかるかわかりませんから」
「今夜はこちらにお邪魔させていただきます」
アリビオが領主夫妻に微笑んだ。




