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紫央はアリビオを見上げた状態のまま、硬直していた。


全身の火照りを嫌というほど自覚する。



口移しって...口移しって...


紫央は勢いよく顔を背ける。


耳まで熱い...落ち着け私!


それと、いつまでこの状態?!


この両腕の拘束を外して欲しい…


紫央は恥ずかしいので顔を背けていたが、強い視線を感じアリビオの方に顔を向ける。




アリビオはベッドに腰掛けたまま、紫央の手の拘束を緩めることなく、じっと紫央を観察するように見つめる。


紫央に口移ししたせいで、濡れてしまった自分の口角を、親指の腹で拭う。



なっっっーーーーー!!




紫央はロホの実の果汁を口移しされたことよりも、アリビオの色気ダダ漏れの仕草に当てられた。



「くぅう.....もう、なんなのこの人....無理でしょ」

紫央は蚊の鳴くような声で(つぶや)く。



アリビオが紫央の目が正常に戻ったことを確認して、腕の拘束をようやく解く。


「失礼しました」


仰向けに寝たままの体制が恥ずかしかったので、紫央は急いで起き上がる。


視線が合わないように、(うつむ)いたまま後ろに後ずさりすると、壁に背中が触れる。


まだ見てる気がする...


ゆっくり顔を上げてアリビオの方を見る。


やっぱりまだ見てる...


紫央は、アリビオの綺麗な金の瞳に(とら)われる。


「どこまで、覚えていますか?」

「え、あ....どこまで....」


.....この状況で、じっと見てるから何かと思ったけど、状況確認してるだけか。


落ち着かなきゃ、相手はデリット神の恋人。


世界を(つな)ぐ扉の管理をする使者さま!


私とは生きている世界が違う。


こんなシチュエーションでも、何も起こるわけないから!!

そうよ!その通り!!


よし、セルフマインドコントロールバッチリ。



紫央はしっかりアリビオを見返す。

そして、謝罪をする。


「記憶がしっかりあるのは、果実酒を飲んだところまで…です。すみません」



そして、あなたに口移しされたところもしっかり記憶がありますけどね〜!!



ヤバ...思い出してしまった....



うるさいぞ心臓ーーー!!



よし、活を入れたらメンタル戻ってきた。





扉をノックする音とともに、返事を待たずして勝手に開く。


「アリビオさま、お風呂にどうぞ」


ユラが暗闇の中にいる二人を、目を凝らして見る。


「もう酔いは覚めたようなので、紫央が先にお風呂をいただいてください。ユラさん先に紫央を案内してくれませんか」


アリビオはベッドから立ち上がり、果汁で濡れた紫央の唇に気付き、親指の腹で優しく拭うとニコリと微笑んで部屋を出ていった。




紫央は瞬殺された。



アリビオの...距離感がわからない...

私のことが好きなのだろうか...


ここに来て2度目になる問いかけを自分にした。




翌日の朝、紫央はアリビオからロホの実をもらって食べた。


朝食を済ませて支度をする。



玄関先で紫央はアリビオと一緒に、ラナに挨拶をした。

「ラナさんお世話になりました」

「お料理とても美味しかったです」


「たった一日だったけど、なんだかずっと一緒にいたみたいで寂しいわ。二人ともまたきてね」


「また遊びにこいよ、紫央」


「うん、楽しかったサン。ありがとう」

紫央がサンの髪をクシャッとしてニコリとした。


サンは紫央の手を払うことなく、されるがままに放っておく。



「学者先生とは現地で待ち合わせているので、行きましょうか」

ラクスがアリビオを(うなが)す。


「ユラも行く、パパいいでしょう」


ラクスは娘がアリビオを気に入っているのを知っていたので、反対はしなかった。


「邪魔にならないように気をつけるんだぞ」



西の森へは、ラクスが先頭でアリビオとユラが並ぶように歩いている。


紫央は遅れて少し離れて付いていく。



ドキドキしてきた...『生殖機能の剥奪』と唱えるんだったよね。


うまくいくといいな....


昨夜のことがあり、紫央はアリビオとなんとなくだが距離を取っていた。


美形の供給過多だわ...




15分ほど歩いた所で、目的地に着いた。

目の前には、昨日確認した砂地が円状に広がっている。


紫央は駆け出して、3人より先に現場を見る。


昨日と違うのは、クランという生物が集まって眠っていることだ。


紫央は間近で見たクランに感動した。


「か、かわいい...フレンの言う通りすごく可愛い!!」


フォルムは兎っぽいかな?


兎の耳が少し大きくて、地面に引きずるほど長い。


ふわふわで触りたい....


『フニュウ…』


一匹だけ目がうっすらと開いた。

黒目がちな瞳は、まだぼーっとして睫毛まつげをパシパシと瞬き、また眠りにつく。


「やあん!なんってかわいいの!」

紫央は、あまりの可愛さにテンションが上がった。ここにきて一番テンションが上がった。


「鳴き声まで可愛いなんて、天使!」


テンションの高い紫央を見て、3人が唖然とする。


周囲を見ると30匹ほど眠っている。


千匹もいないけど....いいのかな。



アリビオが紫央の近くまで来ていたようで、声が直ぐ後ろから聞こえる。

「紫央、ここにいるクランはすべて子どものようです。繁殖してると聞いたので、俺らは何匹か番で持ち込まれたのかと思っていましたが...」


「これですべてなら...多分ですが、持ち込まれたのは妊娠中のクラン一匹だったようですね」


「じゃあ、ここにいる子たちで全部?」


「はい、恐らくですが....。昨日の香りで全て呼び寄せたはずなので…千匹もいないようですね。良かったです」


一回の出産で30匹も生まれるんだ....


「あそこの中心見ろよ、アリビオ。少しサイズの大きいのがいるぞ」

不意に、また後ろから男の人の声がする。


その声にラクスが反応した。


「学者先生...」

ラクスが学者先生と呼んだ男は、中肉中背の水色の短髪で、アリビオと紫央のそばにきて、中心にいるクランを指さす。


紫央が、学者先生と呼ばれた男の指の先を見る。

「本当だわ、あの子ちょっと大きい」


「あれが、母親ですか...リスト」

アリビオが学者先生と呼ばれた男性に普通に話しかけた。


「だな。クランが発生したと聞いて先に現地入りしていたんだが、お前が今言ったとおりだな。今回はたまたま妊娠中のメスが一匹持ち込まれたみたいだな」


リストが、アリビオを見て含み笑いをする。

「今回はデリット神に感づかれる前に来たんだな。で、お前が対処するのか?会合中とはいえ、よく箱庭から出られたな」



「デリット神?」

アリビオの近くにいたユラが、リストの言葉を聞いて目を大きく見開いた。


ユラの瞳がアリビオを見つめて揺れる。


「ん?」

リストがユラの雰囲気から、アリビオに好意を持っていることを察する。


「言ってないのか...呆れたな。狐のお嬢さん、こいつはデリット神の扉の使者さまだ」


「...............」

ユラは可哀想なくらい動揺して言葉を失した。後ろでラクスも目を丸めている。


紫央は急に固まってしまった二人を、不思議に思い見ていた。


え、使者だとそんな動揺する感じなの?

使者ってどういう立ち位置なんだろ。



「で、どうするんだ。処分するのか?処分するなら一匹くれ。持って帰って繁殖能力の研究をしたいんだよ。次こんなことがあったとき救えるといいからな」


「リスト、今回は処分しません。紫央、お願いします」


「あ、はい...」

紫央が一歩前に出る。



クランがいる範囲を、確認するように両手を広げる。


よりしっかりイメージがしやすいようにと、紫央なりに考えたことだが、その動作はそれを見ている他の者には神秘的に映った。



大きく息を吸う。マリー神に言われた忠告を守って力を使う前に唱える。



範囲のイメージ大事!ゆっくり落ち着いて唱えなきゃ。



「クランの生殖機能の剥奪」



紫央が唱えると、紫央の体が淡い七色のダイヤモンドダストのような光で満ち、それがそのままクランを包み込んでいく。


ラクスとユラが驚いて紫央を見た。



リストが目を丸める。

「はっ...これは....マリー神の加護付きってことか!ということは、あの子が扉のトラブルでデリット神の箱庭に来た子か」


「リスト、流石ルバ神の使者ですね。正解です」


リストが、紫央に聞こえないようにヒソヒソと話す。

「今回の扉のエラーは、過去にないことだろう。ルバ神も関心を寄せていたからな。少しなら俺の方にも情報が入ってる。へー、あの子が....可愛いな。しかし来てそうそうマリー神に気に入られるとは...」



「俺はお前より3日ほど前にここに来て、領主の屋敷に滞在して今回の件を調べてたんだよ。そしたらお前が来るって情報を仕入れて、今日合流したわけだな」

「まさか、こんなまどろっこしい方法を取るとは」


「彼女の発案です」


紫央の体から発光していた煌めきが、次第に収まっていく。

「しかし彼女…よくマリー神の加護まで得られたな。デリット神の加護付きということはデリット神の使者だろう?2重で加護をもらうって聞いたことないな。興味が湧いたぞ」

「リストの研究対象にしては駄目ですからね」



「体調はどうですか?」

アリビオが能力を使った紫央を心配して声をかける。


「大丈夫そうです」


「紫央、ちょうどいいので彼を紹介しておきます。智慧の神の使者リストです」


「嬢ちゃん、よろしくな」


「紫央です、よろしくお願いします」


ラクスとユラが3人を遠目に見ていた。


「お前ら領主の屋敷に寄っていけ、ちょっとマリー神の加護をもらったあんたに頼みがある」

アリビオが諦めたように、頷いた。


アリビオがラクスとユラの方に行き、説明をする。

「ラクスさん、ユラさん、クランという生物はこれ以上繁殖することはないので草木を消滅させることはもうないと思います」


リストも説明に加わった。

「コイツら、よく食べるのは妊娠中と生後3日目までなのでね。後は普通の範疇でしか摂食しないから、このままここに置いていても大丈夫だと思うがどうする?処分するならアリビオがするけど」


紫央はリストの発言に耳を疑った。まだ処分の選択肢があったの??



「処分って...?」

ユラは、不穏な言葉が出て確認する。


「お前なら、冥府に扉を繋げるだろ?ここなら箱庭内じゃないし、折よく今は会合中だ。バレないだろう」


少し離れた場所で、聞き耳を立てていた紫央は耳を疑った。


冥府って...処分って....まさか。



「冥府って殺処分する気?!今の話じゃもう無害でしょう」

紫央が声を荒げた。


ユラが紫央の剣幕に驚く。


「...あの、大丈夫です。もう無害なら」

ユラが紫央を気遣うような視線を送る。


紫央はユラの気遣いにわかりやすいくらい喜んだ。

「ユラさんもこう言ってくれてるし、処分なんて言わないですよね?」



アリビオが紫央を落ち着かせようと、頭をポンポンする。


「そうですね、どうせ領主のところに行くのですから、クランについては話を通しておきましょう。じゃ、ラクスさん、ユラさん俺らはここで失礼します」


ユラとラクスは、使者3人に深々と頭を下げる。


「頭を上げてください。ラクスさんの一家にはお世話になりました。今後も普通に接してくださると助かります」


アリビオが、恐縮しているラクスとユラに穏やかに声を掛けた。








































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