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「アリビオさま、お酒強いんですね」
ユラがアリビオにサラダを取り分けて渡す。
「そうですね。俺の世話ばかりでは申し訳ないので、ユラさんもちゃんと食べてください。せっかくのラナさんの手料理が冷めてしまいますから」
「ラナさんも、そろそろこちらで一緒に召し上がりませんか。片付けは俺も手伝いますから」
ラナが、アリビオの気遣いに嬉しそうに微笑む。
「じゃ、せっかくだから私もまざろうかしら」
ラナが席に付くと、アリビオが果実酒の瓶をサンから取り上げて、ラナに注ぐ。
「ママ...いいな。ユラにも注いでください。アリビオさま」
ユラも空のグラスをアリビオに差し出す。
「ユラさんは飲めるんですか?」
「ねーちゃんはどっちかていうと強いほうだからな」
サンが横から口を挟む。
「うちは私も主人もお酒強いから、遺伝かしら」
それを聞いてアリビオがユラにも果実酒を注ぐ。
ユラが嬉しそうにグラスに口を付ける。
紫央は、サンの方に体を向けてニコニコしながらサンをずっと見ていた。
グラスの果実酒が減ると、サンが継ぎ足してくれていたので、また注いでくれると思いグラスを半分空けて待っていた。
一生懸命に溢さないように果実酒を注ぐサンを見て、昔の記憶が蘇り小さい頃の妹を思い出していた。
サンが、アリビオから果実酒の瓶を返してもらおうと、手を伸ばす。
「サン、紫央にはそろそろサラダを取ってあげてください」
アリビオがやんわりと止める。
「そうだな、母ちゃんのサラダもうまいからな」
アリビオが、紫央の手からそっとグラスを取り上げるが、紫央はそれに気付かず、紫央のために一生懸命サラダをよそうサンを、ニコニコしながら見ている。
サンが、サラダをテーブルに置くと同時に、紫央はサンに手を伸ばした。
「ありがとう〜!」
紫央が急にサンを抱きしめる。
紫央の頭の中には、年の離れたかわいい妹がおままごとで紫央に『どうぞ』してくれた映像が再生中だった。
かわいい〜!
「え、紫央。お前バカ離せよ」
サンが真っ赤な顔で恥ずかしがった。
それを見てユラがクスクス笑う。
「ママ見て、サンったら照れてる〜」
「もう、このままサンのお嫁さんにきて欲しいくらいね。かわいいお嬢さんだしね」
「なんだ、どうしたんだ?」
戻ってきたラクスが紫央とサンを見て目を丸める。
サンも口では離せと言いながら、紫央をそのままにしている。
「さっきの伝えてきたよ」
ラクスがアリビオに伝えた。
「ラクスさんありがとうございます。明日の朝、対処に向かおうと思います」
「それに同行させてもらえるかい?」
「構いませんよ、行く前に声を掛けます」
「学者さんも同行したいそうなんで、家を出る30分前に教えてくれると助かる。あちらに連絡するから」
アリビオは少し考えて返事をした。
「学者.....わかりました」
「しかし、サンはえらくこのお嬢さんに気に入られたな。サンも後3年もしたら番を決められる年だからな。サン、今のうちにお嬢さんにお願いして番候補になってもらったらどうだ?ハハハ...」
アリビオがサンを見る。
「サンはまだ5才くらいですよね?」
「サンは10歳になったよな?アリビオくんは大きいからな、サンが小さく見えたんだな。まぁ、狐族は番を決めるのが早いんだよ」
「ユラはまだなんだがね。うちは同族じゃなくても気にしない主義なんだよ、アリビオくん」
ラクスの援護射撃とも言える発言にユラが頬を染める。
「紫央はいずれ帰るところがある人なので、難しいかもしれませんね」
ラクスとユラがなんとも言えない微妙な顔をする。
アリビオが立ち上がり紫央のそばにいく。
サンに抱きついていた紫央の腕を少し強引に離し、自分の方へ引き寄せた。
「紫央、飲みすぎましたね。部屋に戻りますよ」
紫央が掴まれた腕を見て、そのまま視線を上げる。
「アリビオさん、私は酔っていません。そろそろお風呂に入りたいと思います。サン一緒に入ろうね」
「グッ…」
サンが咽た。
「これは、かなり酔っています。サン本気にしては駄目です」
「してない!!」
サンが真っ赤な顔でアリビオに言う。
「ラナさんよろしければ、お水をください。明日の仕事は紫央がメインです。彼女がこの状態では大変なことになります」
アリビオが紫央を縦に抱いた。
ユラが、アリビオに縦抱きにされた紫央を見て目を見開く。
「2階に連れて上がるので、部屋にお水をよろしくお願いします」
紫央はずっとふわふわしていた。
階段を上がる時の振動が怖くて、アリビオの頭をぎゅっと胸に抱いた。アリビオが息を呑む。
「アリビオさん、背が高いからこの体勢の抱っこは怖いんですよ。もっとしっかりとギュッとしてください。フワって抱っこしたらダメです」
「もっと強く抱きしめてもいいんですか?俺が力を強く入れたら、紫央は折れちゃいますよ」
「折れるほど力を入れて抱きしめるのはだめです。でもアリビオさんは、そんな無体なことはしません。いつも私に優しいです」
「抱きしめるのはいいんですね」
アリビオが紫央の言い分に含み笑いをする。
部屋に着いて、アリビオがベッドに紫央を下ろすと同時にユラが水の入ったボトルとコップを持ってきた。
ユラがベッド横のサイドチェストに水を置く。
「ユラさん、俺は部屋に酔い醒ましを取りに行くので紫央をお願いします」
アリビオが部屋を出ていって、ユラはグラスに水を注いで手渡す。
「...お水どうぞ」
紫央は笑顔で、グラスを両手で受け取る。
「ありがとうございます」
「あなた、本当は酔ってないんじゃないの?」
「?....最初から、私は酔っていないと言ってます」
ユラが目を丸めた。
「そうね...アリビオさまは心配性なのかしら...」
「どうでしょうか...私は出会って一月も経っていないのでよく知りません」
「仕事で来たのよね?二人はどこから来たの?」
「私たちは....」
ノックの音とともにアリビオが戻ってきた。
紫央がユラにグラスを差し出した。
「お水をもっとください…喉が渇きます」
アリビオが紫央の発言に、素早くベッドの側まで来る。
「紫央の世話をありがとうございます。後は俺が引き受けるので。ユラさんはラナさんの方を手伝ってあげてください」
「え…」
ユラはアリビオと紫央の二人を交互に見る。
「あの、紫央さん酔ってらっしゃるようだし、私がいたほうが...」
「俺も、ラナさんの手伝いにすぐ下りますので、ユラさんは先に行って手伝ってあげてください」
ユラは納得いかなかったが、母親の手伝いを放置してここにいては、アリビオの心象を悪くすると思い、渋々ラナの手伝いに行くことにした。
「アリビオさま、すぐに下りてきてくださいね」
ユラがアリビオに念押ししてラナの手伝いに行った。
アリビオは、小瓶からロホの実を取り出して紫央に見せる。
「紫央、これを食べるんです」
「アリビオさん、私はお水が欲しいのです。ロホの実はいりません」
「紫央、お願いします。ロホの実を食べてください」
「ダメです、私はお水が欲しいし、お風呂に入りたいの。なんでここに連れてくるんですか」
「ロホの実を食べてくれたら、お風呂に入っていいですから」
「サンと一緒に入りたいの…」
潤んだ瞳でアリビオを見上げる。
紫央の中で、サンはまだ可愛い妹に置き代わったままだった。
アリビオがベッドの端に腰掛ける。
「今の紫央に許可するわけにはいきません。しょうがないですね、実力行使です」
アリビオが指で摘んだロホの実を、紫央の唇に押し付ける。
「これで、喉の乾きが治まりますから。いい子だから、口を開けて」
「ん〜…」
紫央が顔を背けて暴れる。
アリビオが紫央の両腕を一纏めにして拘束する。
勢い余って、紫央がベッドにドサリと倒れ込んだ。
アリビオが紫央の両腕を拘束した状態で、上から見下ろす。
「アリビオさん痛い...腕が痛いから離してよぉ。ウー乱暴者〜!!」
紫央が体をひねって暴れる。
「こら、暴れない。仕方ないですね....」
アリビオが、指で摘んでいたロホの実を自分の口に含み、空いた指で紫央の鼻を摘んだ。
「ぷはっ…」
紫央が息苦しくて口を開けた。
「苦しかったですね」
アリビオが摘んでいた紫央の鼻から指をパッと離す。
紫央の口が開いた隙に、咥えていたロホの実を半分に齧ると果汁だけを、口移しで紫央の口腔内に流し込む。
「んぅ....」
ロホの実の果汁が紫央の口腔内に広がる。




