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案内された部屋は、2階の一人部屋だった。

「ここを使ってくださいね」



紫央が案内された部屋には、白地に小花柄の壁紙が貼ってあり、部屋を明るく可愛らしく見せている。


一人用のテーブルと椅子が置いてあり、部屋の半分くらいをベッドが占めている。


「すごく、可愛い....」


紫央は、ベッドに腰掛けて掛ふとんをめくった。

シーツがパリっとして皺もなく敷かれている。


「それに清潔感がある」


扉をノックする音が聞こえる。


「どうぞ」

誰かな...アリビオかな?


「紫央、(めし)だって行こうぜ」

扉を開けて入って来たのはサンだった。



「サン、今夜はお世話になります。よろしくね」


「おう、聞いたぞ。うちの母ちゃん飯うまいから早く行こうぜ」


紫央はサンの案内でダイニングルームに向かう。




6人掛けの長テーブルには、サンの父親らしき男性とアリビオがお酒を酌み交わし、傍から見るとかなり打ち解けてみえる。アリビオの隣にユラが座ってお酌をしている。


サンが呆れ顔で父親とアリビオを交互に見る。


「父ちゃん、気に入ったやつにはすぐに酒勧めるんだよな。こっち座ろう紫央」


長テーブルの座席には父親、アリビオ、ユラと一列に座っているので、サンは自分が父親の対面に座り紫央に隣に来るように言った。


「サンくんとユラさんのお父さま、今夜は急だったのに泊めていただきありがとうございます」

紫央が父親にお礼を言った。



「構わないさ、それよりサンが面倒かけたみたいで悪かったね。良かったらお嬢さんも飲まないか?」

サンの父親が空のグラスを紫央に渡し、酒瓶を見せる。


紫央は一瞬躊躇(ちゅうちょ)した。


お酒...飲めるかな。

カクテルみたいに甘いのならいけると思うけど...


ついこの間、飲める年齢になったが__


紫央はお酒が得意ではないので一瞬躊躇(ちゅうちょ)した。


「ラクスさん。紫央は、先ずはナラさんの手料理のほうが気になるみたいですから。俺が代わりにそれをもらいます」


アリビオって、もうサンのご両親を名前呼びしてるの?!

打ち解けるの早い…


アリビオはラクスの手から、お酒の入ったグラスをスマートに取り上げて、水を飲むようにすっと飲み干してしまった。


一連の動作は自然に行われて、嫌味がなかった。自分の一瞬のためらいを見逃さずに、察してくれたことを紫央はかなり嬉しく思った。


ラクスは上機嫌で紫央に語る。

「ナラの料理は最高だからね。たくさん食べてね、お嬢さん。しかし、アリビオくんは素晴らしい飲みっぷりだね」


紫央は、ちょっと心配になった。

空の瓶がすでに2本転がっている。多分だけど、一升瓶サイズに見える。


なにかあったらまずい...


「サン、ここのお酒って強いの?度数どれくらい」

小声で隣に座ったサンに聞く。

「オレに酒のこと聞く?紫央が気になるならちょっとだけ口付けてみるか?」

「ん〜…そうだねぇ」


目の前の、料理からいい匂いがしてくる。


お肉の焼いたのや、サラダやスープ、カルパッチョにスクランブルエッグやらが色とりどりにテーブルに並んでいる。

先に胃に何か入れてから少し飲んで見るかな....


紫央には、二日酔いの経験が一度だがある。


アリビオはあの赤い実しか食してないなら、二日酔いとかなったことないよね....

それとも使者さまは二日酔いなどにはならないような構造なのかな...


紫央の横でサンが気を使って取り皿に料理をよそってくれる。

「ほら、とりあえず食えよ」

「あ、ありがとね」


紫央は手元にあったフォークで刺して、肉を口に入れる。

甘酸っぱいような味付けで、さっぱりしていて臭みもなく、柔らかくて美味しい。


なんの肉かわからないけど、なんか鶏肉っぽい?


「とっても美味しい!」

紫央の一言にサンを始めユラや、サンの両親も口元をほころばせる。


「だろう!母ちゃんの料理はうまいんだよ」

サンが得意気に紫央を見る。


「お口にあってよかったわ」

カウンターキッチンで、まだ料理をしているサンの母親が嬉しそうに言った。


紫央は、サンの取り分けてくれた料理を一通り口にする。


目の前のアリビオを見ると、お酒を飲みながら結構な量を食べている。

横でユラがアリビオのために、せっせと取り皿に取り分けている。


玄関の呼び鈴が鳴り、手の離せないラナに変わりラクスが席を立った。


ちょうどユラが母親から手伝いに呼ばれて、席を離れた隙きに、紫央がアリビオのお酒の入ったグラスを掻っ攫った。


「紫央?」

アリビオとサンが不思議そうに見つめる中、紫央はグラスに口を付けた。


アリビオの目が見開かれる。


「う.......」


口に入れた瞬間、紫央は眉をしかめる。


カクテルの味しか知らない紫央は、喉が焼けるような酒を口にしたのは生まれて初めてだった。


先程、水を飲むようにすっと飲み干したアリビオを思い出して紫央はアリビオを怪訝な目で見つめる。


アリビオは頬杖をつくと、紫央をゆっくり5秒ほど見つめる。


それからクスッと小さく笑うと、紫央からグラスを取り上げる。


アリビオの妖艶でとろけるような甘さを含んだ挑戦的な眼差しは、『ほら、無理だったろう』と口で語らなくとも目が雄弁に語っていた。



紫央は息が止まると思うほど魅入った。


完璧すぎるでしょう...アリビオさん。



紫央は男の人に、あんなふうな目を向けられたことは今までなかった。


やっぱり酔ってるんじゃないの??


隣のサンも顔を赤くして挙動不審になっていた。


そうだよね、そうなるよね!


紫央はサンを見て安心した。


サンは自分を見てニコニコしている紫央にバツが悪くなり、思い出したように紫央に提案する。


「サン、そういや母ちゃん用の甘いやつもあるぞ。ねーちゃん果実酒取ってくれよ」


お手伝いが終わって席に戻ろうとしたユラが、キッチンに戻って果実酒の作ってある瓶とグラスを持ってきた。


「それなら口当たりがいいから、飲めるかもね」

サンの母もキッチンから声を掛ける。


瓶には黄色の丸い果実が20個くらい沈んでいる。

サンが氷が入ったグラスに、お玉みたいなもので果実酒を(すく)って注ぐ。



紫央は、口にして驚いた。

「甘くて美味しい...」


梅酒っぽいかな...これは美味しい。


「ふ...ふふ。サンもっとちょうだい」

紫央のこのかわいいおねだりに、サンが顔を赤くしてグラスに波々注いだ。


アリビオが紫央の様子を監視するように見る。



「いや〜、今領主さまの遣いの方がきて報告してくれたんだが、驚いたことに耳長の小動物が、草が無くなった砂地に一箇所に数十匹集まって眠っているらしい」

「学者先生の見たてでは、どうやらその小動物が緑を食い尽くした犯人らしいんだよ」


ラクスが戻ってきて、アリビオに報告する。


「その小動物はクランといいます。明日の夕刻まではどなたも持ち出さないように、触らないようにと通達してください」


アリビオの指示にラクスが急いで席を立って、領主の使いを追いかけた。




































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