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西の森に行く道は、森に近付くにつれて通る人も少ないのか、地面が均されてないせいで歩きにくくなってくる。
先にアビリオとユラが並んで歩いて、そのちょっと後ろを紫央が付いて歩いた。
紫央は前を歩く二人を見る。
ユラがアリビオの隣を必死でキープしてるのが見ててわかるので、あの中に一緒に並びにくい。
時々アリビオが振り向き、後から付いてきているか紫央を確認してくれている。
時刻は夕方になっていて、辺りがだんだんと暗くなってきていた。木の根が地面からせり出し、それに躓かないように歩かなければならない。
前を見ると、ユラがアリビオの腕に掴まりながら歩いている。
いいな、歩きやすそうで....あの反対側に行きたいけど、やじろべえみたいで絵面が怖いから止めよう。
それよりこの位置からアリビオに危険がないか見張っておいたほうが賢明かな。
自然いっぱい残ってるけど…本当にクランの被害が出てるのかな。
紫央は一つの疑問を抱いていた。
クランはどうやって獣人の世界に持ち込まれたんだろう...箱庭からはイズエラーに引っかかって無理だよね。
「紫央、見てください」
紫央は、言われた通り顔を上げる。
さっきまでの草木の鬱蒼とした光景が嘘のように、草も生えていない砂地が円状に広がっていた。
その広さは、25メートルプールくらいある。
「こういう状況に気付いてから、どんどん拡がってちょうど今日で一週間なんです」
アリビオが不安そうなユラを労るように声をかける。
「狐族の方々は不安でしたよね。これ以上被害が広がる前に、俺らでできることはやってみます」
アリビオが、背負っているバックパックから小さな瓶を取り出し地面に置く。
瓶の蓋を取る。
紫央とユラが見つめる中で、ポケットから石のようなものを2コ取り出して2、3度打ち付けると、灰色の石が赤くなる。
それを素早く瓶に入れると、次第に瓶の中に入っていた粉が熱せられて煙が辺りに拡がっていく。
喉が渇きそうな甘ったるい匂いが充満してきた。
「紫央、明日の朝、またここに戻りましょう」
アリビオが紫央の背中に手を当てて、その場を離れるよう誘導する。
「ユラさんも急いで、家に戻ってください」
3人はもと来た道を辿る。
帰りも同じ道を通ったが、行きと違いアリビオが歩きやすい足場を選んでくれていたので楽に戻れた。
もう目前にユラとサンの家が見える。
「あの、アリビオさま。よろしければ今夜は我が家にお泊まりください。この辺りは領主さまのお屋敷以外には、宿泊施設はございませんので」
アリビオは少し考えこんで、紫央の方を見る。
「私は、よくわからないのでアリビオさんにお任せします」
小さな声でアリビオにだけ聞こえるように伝える。
「では、今夜はお邪魔させてください」
「はい!」
「あの、突然伺ってお家の方は大丈夫なんですか?」
事前の連絡無しにお泊りって大丈夫なのかな...
「先程、サンに伝えているので大丈夫です。あなたが来てくれたらサンが喜ぶと思います」
「紫央、ここはユラさんのご厚意に甘えましょう」
ユラがアリビオを見てはにかむ。
ユラの案内で紫央とアリビオはユラの家に向かった。
ユラの家の外観は、白の細い板を重ね張りしてある外壁に、傾斜のある緑の三角屋根に小さな窓が付いている。
外壁には、白やグリーン、水色などの明るい色が使われていて、全体的に明るくて可愛らしい家だ。
「おかえり、ユラ」
ユラに似た雰囲気の女性が扉を開けて出迎えた。
金色の髪に、狐族特有の薄いピンク色の耳がピンと立っている。
「ママ、ただいま。サンに伝えていたけど今夜この方たちが泊まるからよろしくね。西の森の異常に対応してくださるみたいなの」
「サンから、聞いたわ。狭いところで、大したおもてなしもできませんが、ゆっくりなさってください。すぐお食事で大丈夫ですか?」
「突然押しかけてすみません、お世話になります」
アリビオが頭を下げたので、紫央もアリビオにならった。
「アリビオさま、お部屋にご案内しますね。ママ、サンは部屋?」
「2階にいるとの思うわよ、お客様を部屋にご案内したらユラは手伝いに下りておいでね」
紫央は、玄関で靴を脱いで部屋に上がった。




