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アリビオは談話室から弾丸のように飛び出していった紫央の背中を見送ったあと温泉に向かった。
入浴後に紫央の部屋を訪ねる。
紫央は寝ぼけ眼でドアを開けた。
「....誰ですか?」
「遅くにすみません、明日のことを少し話しておこうと思って...」
アリビオの洗い髪から、爽やかな柑橘系の香りがする。
アリビオさん、一気に目が覚めましたよ...
入浴後のイケメンの威力...すごい。
紫央はアリビオの洗いたての髪の香りを意識した。
「これって吸っていいの??罪なんじゃない?」
「紫央?」
アリビオが怪訝な顔をして紫央を見る。
「あ、なんでもないです!はい....」
「出発は、明け方です。ロホの実を食べたら緑の扉の前で、待ち合わせましょう」
ロホの実...
紫央も毎朝あれを口にすると、お腹が空かない体質になっていた。
「あの...クランを見つけて、その都度加護で生殖機能を剥奪していくのですよね。何匹...匹でいいのかな?何匹くらいいると思っていたらいいんですか?」
「おおよそですが、百はいると思います。なのでいちいち探していたら時間が足りません。マリー神の協力があっても、抜け出すのは3日が限度です。クランの好きな香りがあります。それを焚いておびき寄せましょう」
なるほど...アリビオがいろいろ考えてくれていたようだ。
頼れるイケメン。
「万事、よろしくおねがいします」
「クランを、処分せずに済みそうでよかったです。では、おやすみなさい」
紫央は帰ろうとするアリビオの袖を掴む。
アリビオの視線が、紫央が掴んだ袖に縫い止められる。
「アリビオさん、私たち恋愛小説から獣人の知識を仕入れたけど大丈夫なんですか?....ああいう俗物的な読み物って誇張されてたりしてませんか?」
「俺は一応、一般的な獣人国の知識はあります。彼らの物の考え方などは、恋愛小説でもいいかと思って読んでみました。__紫央、俺のことはアリビオと呼んでください」
「え、アリビオさんと呼んでますが....」
急に何?
「ただ、アリビオと」
アリビオがじっと紫央を見る。
「で、でも...」
マリー神が『アリビオが紫央に構っている』と言ったことを思いだす。
まさか...私を好きなんてことは...
紫央は目の前のアリビオを見た。
背が高く均整の取れた体つきに、柔らかそうな深い緑の髪。艶めく金の瞳にすっと通った鼻筋。上品な唇。
うん、ないない。
気にした方が負け。
言っちゃえ!
「アリビオ、おやすみなさい。明日よろしくおねがいします」
アリビオが優しく目を細める。
「ええ、紫央おやすみなさい。また、明日」
「う、美しい...寝れるかな」
「紫央...吐露してます」
アリビオが微笑む。
「ですね、つい...」




