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マリー神が遠ざかったのを確認して、コラードが口を開く。


「じゃあ、とりあえず商人が来た時に、クランの処理をしてくれる者の手配を頼む?」


「待って...」


紫央は、野良猫のことを思い出した。



「実は、私の世界に野良猫を去勢手術して繁殖を防ぐという考え方がありまして....もちろん自然の摂理に反します。でも殺処分よりは良いのでは......獣人国も守れます。クランも助かります」


何匹いるのか知らないけど、一斉処分は可哀相な気がする...全部は無理でも....フレン似のコたちを助けたい。


「あの、もし手配できるなら動物の医師のような方を....」


3人が紫央の発言に口を噤んだ。



あれ...私の言葉きちんと変換されてないのかな...

去勢手術とかないのかな...


3人の視線が紫央の後ろに注がれる。


なに?私の後ろになにかあるの...


紫央がゆっくりと振り返る。



「それは、私が協力できそうよ」

いつのまにかマリー神がそこに立っていた。


紫央はビクリとした。

さっきの3人の反応を思い出したら、バレたら不味かったのでは...

ぺらぺらと、事の全容を喋っちゃた。


紫央は、説明するのに集中していて、マリー神の気配に気付かなかった。


「獣人国が、デリット神に壊されたら私も紫央も困るもの。今回だけ紫央の案に乗ってあげましょう。どう?百人力でしょ」

マリー神が紫央にウインクする。


可愛い....可愛いけど...


まだ、読んでもないのに、マリー神の中では私が獣人国の恋愛小説ファンの仲間入りしてる....


「医師は必要ないわ。私が紫央に加護をあげましょう」


「加護....」

3人が口を揃えて言う。


アリビオが目を見開き(つぶや)くその横で、コラードとフレンが驚きで固まった。


紫央は一気に不安になった。

この空気感はなんだろう...


マリー神のご機嫌な感じと対照的に、嫌な予感しかしない。




マリー神が満面の笑みで、紫央の額に指で触れた。


柔らかい光が紫央の体を包む。


これ、マリー神から感じる春のような気配だ…



「私は、婚姻の神よ。生殖機能の付与と剥奪くらいお手の物よ。今、私がしたように指で額に触れながら生殖機能の剥奪と唱えるといいわ」


「下等生物くらいなら一箇所に集めて視界に入れれば唱えるだけでもいけると思うけど、あなたは未熟で、力の使い方に迷いが出るといけないから、必ず唱えてね。丁度いいから、アリビオで練習してもいいんじゃない?」


「練習...?!私がアリビオさんの生殖機能を剥奪するんですか」

紫央は、ついアリビオの下半身付近に視線を落としてしまい顔が赤くなる。


アリビオが、紫央の視線に気付き顔を赤くする。


コラードが、そんな紫央とアリビオを見てニタニタと笑ったせいで、アリビオに脛を蹴られ、フレンから肘鉄をくらっていた。




「マリー神、丁度いいとは....?」

アリビオがすうっと息を吸い、半目でマリー神を睨む。


「獣人の女の子は、情熱的よ。特に兎族、一夜限りの....」

マリー神がパッと口に手を当て、紫央の表情を見る。


紫央は軽蔑したような目で、アリビオを見ていた。

「そのために、アリビオさんの生殖機能を剥奪しておくんですか....」


紫央は隣の幼馴染を思い出した。

あのバカが聞いたら喜びそうな能力だわ...



「紫央!間違えたわ、誤解よ、誤解。アリビオはコラードと違って来る者拒まずだったわ。自分からは狩らないのよ」


アリビオが、ぎょっとした表情でマリー神を見る。


フレンとコラードは一歩下がった。


「来る者拒まず...アリビオさんなら餌に群がる蟻のように女子が(たか)ってくるんでしょうね....それを全部相手にしてるって、さすが、デリット神の使者さまだわ。スケールがデカイ....」


紫央はハッとして周りを見る。


「また口から出ちゃった!昨日温泉入ったのに....」


「....さきほど、マリー神から加護を授かったせいで神力が乱れているんですよ」

アリビオの声が心なしか冷たい。



「ア、アリビオさんが、分け隔てなく受け入れる心の広い人だと言うことですよね、いいと思います。若いのですから」

紫央はアリビオから微妙に視線を外しつつ告げる。


これで、フォローになったかな。今アリビオさんに見捨てられるわけにはいかないから、フォローしておかないと。


アリビオの冷笑が返ってきた。


マリー神がコラードを見て、春の微笑みを送る。

「コラード、後はよろしくね」


「僕?!ここで僕ですか....」

コラードがアリビオをチラッと見上げる。



「そうそう。獣人国に行くなら、明日がいいわよ。明日は私たちの『神の寄り合い』なの。お誂え向きでしょう。邪魔が入らないわよ。じゃ、今度こそ帰るわ。扉まで送ってね」



「送る」

アビリオがエスコートしようと、差し出した手に冷気が(まと)う。


「....き、今日は、紫央に送ってもらうわ、ほら次のゲストが来たわよ〜」


2人は深く頭を下げてから、アリビオを引っ張って来客を知らせる黄色の扉の方へ向かった。





紫央は金色の扉の方に向かって、マリー神と並んで歩く。


「紫央、あなたに言っておくことがあるわ。獣人国へは、アビリオと2人で行くことになるわ。3人の中で唯一戦闘能力も組み込まれているのがアビリオなのよ。ただアビリオだけは絶対に傷つけては駄目よ」


「は....はい」

マリー神の表情が真面目だ。


金の扉の前に着いた。


「今回の加護は、貸しよ」


貸し?

神様が貸しとか言うんだ...


紫央の考えを読んだようにマリーが言った。

「ふふ...私は俗世の恋愛小説が大好物なの。俗っぽいのよ、良かったわね、私のような神がいて」


マリー神が、金の扉を開けた。


紫央は目を薄く開く。


眩しい....

紫央は目の前に手を(かざ)す。


「あの....マリー神さまは、恋愛小説を読むために戻られたのでは?」


紫央は気になっていたことを聞いた。


「そのつもりだったけど、4人でなにやら深刻な顔をしているから気になって戻ったのよ」


「でも読書よりも、もっと楽しそうなこと話してるんだもの。ふふふ...明日頑張ってね」


何やら意味深なセリフを残してマリー神は帰っていった。












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