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6)新入生歓迎会(2)




 会場に入るといつものようにエリの隣に座り二人でプログラムを開いた。

「竪琴の合奏ですって。私、弦楽器が好きなの。楽しみ!」

 エリが嬉しそうだ。

「弾けるの?」

 レアはプログラムに視線を落としたまま尋ねた。

「貴族令嬢が最低限、弾ければ恥ずかしくない舞踏曲三曲は弾けるわ」

「ホントに最低限ね」

「そうなのよ。ああいうのは親が無理矢理、練習させるべきだわ。後から『もっと弾けたら格好いいのにな』って子供は後悔するものよね」

「今から練習すればいいんじゃない?」

「もう駄目よ、そんなことよりやりたいことがありすぎるんだもの」

「私、中級程度なら竪琴を弾けるわよ。ピアノのほうはもうちょっといける」

 レアはエリが喜ぶなら弾いてあげようかと思った。

「今度うちに来て」

「うん」

 司会者が舞台に登場したのでレアたちはお喋りを辞めた。

 竪琴の演奏から始まった。出し物は一つ一つは短時間だが歌劇の一場面が歌われたり、演奏も難易度がそれなりに高い曲ばかりでとても見応え聞き応えがあった。

 最後は生徒会の出し物だった。

 生徒たちの声援が上がり耳が痛いほどだ。後ろの上級生たちからの声だ。甲高い女生徒たちの声がすさまじい。すごい人気だ。

「鼓膜が破れそうだわ」

 レアが思わずぼやくと、エリも頷いた。

「淑女にあるまじき声よね」

「マナー教育ってこの学園しないのかしら」

「歓迎会はきっと無礼講なのよ」

「無礼講って、こういう意味だっけ」

 司会者が何度も「静粛に」を繰り返し、ようやく始まる。生徒会の出し物は寸劇だった。今、王都で評判の恋愛ものだ。その山場の部分を生徒会役員たちが演じた。

 会長のサシャ王子はごく地味な魔導士役だったが、それなのに女生徒たちの叫声がすごかった。

 寸劇が終わると「では、占いの時間です!」と司会者が壇上から客席に声をかける。

 生徒会の劇は占い師と貴族の紳士の恋だった。それにちなんでいるらしい。ちなみに、ヒロインは副会長が女装して演じていた。とても綺麗だった。

 相性占いコーナーの占い師は庶務の生徒だった。「すごく当たる星占いを調べてきましたのでご期待ください」とにこやかに説明をしている。

 公になっても良い質問をしてくださいね、と呼びかけながら、占い希望者が投じた半券の箱から一枚、引いた。

「無難なことしか聞けないわね」

 とレアはこそこそとエリに話し掛けた。

「そうね。手相占いで次の試験のヤマとか聞いたらだめかしら」

「駄目に決まってるじゃない。先生もここにいるんだから」

 番号がくじで決まり、幸運な生徒が壇上に上がる。

 頬を染めて緊張した様子の新入生だ。

 婚約者の彼との相性を頼んでいる。

「わぁ、責任重大だ」

 と庶務の役員。そう言いながらも楽しげに生年月日を聞き出し、魔導具に数字を打ち込んでいる。魔導具に星座占いのプログラムを仕込んでおいたという。さすが生徒会役員、優秀だ。

「あー、でました! 相性は七十五点! とってもいいです」

「え? 百点じゃないのに?」

 と新入生の子。

「百点なんて出ないんですよぉ、そんな奇跡的な数字ないですから。六十点以上ならかなりいい点です。四十点以下だったら、ちょっと止めたほうがいいかもって忠告したよ」

「うわ、そうなんですか」

「えーとね、彼は少ーし軽そうに見えるかもしれないけど、実は恋愛感情は重いからね、浮気はぜったい駄目だな」

「し、しません!」

 新入生はぶんぶんと首を振る。

「あはは、そうだよね、そう答えるよね、でも、ホントだから。浮気っぽいのも駄目。軽いじゃれ合いみたいなのも彼には御法度」

「えー、そんな?」

 楽しい受け答えがしばし続いて「んなわけで、良い相性です! 注意事項を忘れずに! 相性星占いでした!」と締めくくられた。

 なかなか面白かった。

 次はいよいよ手相占いだ。なんと、占うのは生徒会長だった。おかげで歓声がすさまじい。

「王子殿下に手を握られるなんて、不敬じゃない?」

 エリが不安そうにレアにそっと尋ねる。

「いや、まさか。ただの手相よ。占ってもらいたい?」

「恥ずかしすぎて駄目だわ、やっぱり。奇声を上げそう」

「ぷっ」レアは吹き出した。

 会長はくじの箱に手を入れるとガサガサと音をさせてくじを引いた。会場中が固唾を呑んで見守る中、手にしたくじを高く掲げ「百十八番」と読み上げた。

「え?」

 レアは百十八の半券を思わず凝視した。

「レア、大当たりじゃない」

「いや、大外れっていうか」

 殿下のファンたちに妬まれそうだ。王子が占い師と知っていたらレアは応募しなかった。

「呼んでるわ、行かないとプログラムが進行しないわよ」

「行かなきゃよね、奇声を上げても笑わないでよ」

「我慢するわ」

 レアは止むなく立ち上がった。すぐに案内役の生徒がレアを手招いた。

「半券を確認させてください」と言われ、手にしていた半券を見せると壇上へと導かれる。

 緊張しながら舞台へと上がっていくレアに、会場からなんとも言い難い罵声じみた声が聞こえてくる。レアには、気のせいか怨嗟の声に聞こえた。

 すると、殿下の声が響いた。

「静かに、静まって座ってくれ」

 他の生徒会メンバーも「騒ぐ生徒は講堂を出てほしい」と口々に言い、ようやく講堂は静寂に包まれた。

 すっかり静かになると再度、サシャが声をあげる。

「無作為に選んだ結果だ。妬んだりしないように。もしもそう思われるような挙動のあったものは生徒会の要注意人物リストに載せるから、そのつもりで」

 脅すような口調に会場中が緊張したように重くなる。

 サシャはレアと視線が合うと麗しく微笑んだ。一歳年上と聞いているが、たった一歳違いとは思えない色っぽい笑みだった。

「君、こちらに」

「はい」

 レアはなるべく明るく返事をして階段を上がった。せっかくの余興だ。楽しい雰囲気のほうがいいだろうと、レアなりに気を遣った。

 レアは図書室で自己紹介したが、忘れられたらしい。

 少し寂しかったが、もうあれから半月は経っている。彼のような多忙な人気者が覚えていられるわけがないか、と考え直した。

 手招きされ、舞台を歩く。

 サシャに「ここに座って」と導かれ、舞台中央に設えた机と椅子を指し示された。レアは言われるままに席に着いた。

「では、占ってほしいのはどんなことかな」

 サシャに優しく尋ねられ、レアは緊張しながら口を開いた。

「あの、今、将来のことで少し悩んでいます。文官を目指すのが良いのか。それとも、魔法を使う仕事が合ってるのか。魔法のほうは学園に入って適性を見て貰ったら悪くなかったので迷い始めました」

「なるほど、君はとても真面目だね。で、将来について悩んでるんだね。では手を見せて」

 サシャが誘うように手を差し伸べる。会場からまた声が上がりかけたが、他の生徒会役員たちが注意して手を上げるとすぐに静まった。

 レアは胸の鼓動が跳ねるように暴れているのを感じながら、おずおずと手を差し出した。

 サシャは真剣な様子でレアの手をとり見詰めている。

 会場がしんっと静まり返った。

 しばしのち、サシャは「そう、だね」と前置きのように呟いてから語り始めた。

「君の真面目な性格は手相にもちゃんと出てるね。それから、とても知的だ。文官は合ってると思うよ。でも、魔法の能力もあるね。うーん、悩むはずだね。どちらも悪くないんだ」

「そ、そうなんですね」

 レアはずばりと言われなかったため「また迷いそう」と思った。

「それから、ああ、結婚運がとてもいいね」

「えぇ? いいんですか」

 レアは予想もしていなかった言葉に目を見開いた。

「うん。いいよ。子供運もいい」

「こ、子供運?」

「そう。ええと、子供運っていうか良いお母さんになりそう。つまり、幼子を大事にしそうな感じ」

「あ、確かに結婚はいらないけど子供は可愛いなって思います」

「え? 結婚、いらないの?」

 サシャがレアの手を見詰めていた顔を上げた。

「は、はい。あの、結婚はなんというか、男性って浮気するっていう、そういう印象があって」

 レアはつい自分の考えを暴露してしまった。

 会場から「えぇー」「ひどいなぁ」「そうかな」「そうそう」「そのとーり」などと勝手なヤジが飛ぶ。

「君は結婚運がとってもいいんだから、そんな心配はいらないよ!」

 なぜかサシャが力強く断言した。

「そ、そうですか、ね」

 レアが自信なげに答えると、サシャはなおも、

「君の旦那は浮気しない! 私が保証する!」

 と言い張った。

「え、いえ保証なんて、そんな恐れ多い」

 レアは思わず怖じ気付いた。

「心配しなくてもいいからね、幸せな結婚ができるから」

「は、はぁ」

「だから、安心して結婚してくれ」

 サシャはレアの手を握ったまま見詰めて言った。

 まるでプロポーズのように。

 会場がどよめく。

「は、はいぃ」

 レアは思わず応えてしまった。

 決して求婚に答えたのではない。ただ単に占いの結果に答えただけだが、あたかも公開プロポーズとそれに答えた令嬢のような台詞になっていたのはレアのせいではない。

 会場のどよめきが酷かったが、それもレアのせいではない。

 なんだか、これって余興じゃなかったらものすごく口説かれてる感じではと思いかけ、いや、だから余興なんだってば、と慌てて打ち消した。ひどい妄想だ。あるいは、自意識過剰か。

 レアは顔では頬笑みを絶やさないように気を付けながらも、女生徒たちのトゲのような視線を感じていた。


 その後。

 嫌がらせくらいはやられるかも、と覚悟していたのだが杞憂に終わった。生徒会のほうからかなり厳しく通達があったらしい。特に、取り巻きグループがしっかりと釘を刺されたため、なんとか普通に暮らすうちに日が過ぎた。

 それでもやはり、あの求婚みたいな台詞は余計だった気がする。あの最後の言葉さえなかったらさほど妬む人などいなかったのに、残念だった。



お読みいただきありがとうございました。

明日も朝9時と、夕方20時に投稿する予定です。

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― 新着の感想 ―
これ仮に将来王子以外の誰かと結婚して不幸になった場合も、王子は慰謝料的なモノを払ってくれるのかな? 王族が人前ではっきり保証してくれてるしぃ。
しっかりした強い女の子のお話みたいで楽しみです
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