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19)エピローグ

本日、一話目の投稿です。




 レアはロザが薬を飲まされるまでは謁見の間にいた。

「信頼できる女性は拒絶反応が起こらない」という治癒師の証言が正しいことをテストするため呼び出され、簡単な説明を受け変装をさせられた。

 文官の男性の格好だった。髪を編み込みで小さくまとめ、半分は一つに縛って後に垂らし、編み込みした部分は鬘で隠した。王宮の侍女はとても上手だった。長めの髪を一つに縛った文官の髪型ができあがった。目には眼鏡をかけ、レアの悩みの種の大きめな胸は布で巻いて緩めの文官の制服で誤魔化した。背丈さえも靴で少し高めに偽装した。

 鏡で確認すると、少々平均より背の小さい眼鏡の文官が映っていた。

 協力者が謁見の間に入るタイミングで列について入ると、中央に王子に似た三人が座っている。目元が隠されていたために誰が王子かはすぐにはわからなかった。ロザ嬢が触れたときに嘔吐した三人目の男性がサシャらしかった。他の女性が触れてもやはり彼は嘔吐を繰り返した。

 レアが恐る恐るそっと触れたときは嘔吐したり震えたりする反応は起きなかった。そのことに心底、安堵した。

 レアは、ロザの証言は十六歳の女性には聞かせないほうがいいだろうと、刺激的な内容の可能性があったためそこからは部屋から出されていた。

 これらの経緯はロザにはわからないようにしていた。ロザが興奮状態になる可能性を考慮した。あの女は怒りで錯乱すると推測できたためだ。万が一、宰相がまだ抗うようだったらレアは変装を解く手はずだったが、彼が観念したので退出した。

 そういった事情で、レアは途中までしか知らない。

 文官青年の格好で男装していたので事情を知る人々しか気付いていなかっただろう。そっと文官の青年が部屋から出て行ったことは気付いた者がいたかもしれないが。


 客間で待たされていたレアの元に、ようやくサシャが訪れた。

「なにもかも終わったよ」

 とひどく疲れた様子だ。

「計画が上手くいくか不安もあったけど上手くいったよ。安心して力が抜けた気分だ。宰相は王宮内のどこに人を潜り込ませているかもわからないから」

「そんな状態なのね」

 レアは今更ながら寒気がした。

「まあね。実際、そういう人間もあの中には混じっていたと思う。ただ下手なことはできない状況だったから大人しくしてたんだろうよ。今はもう、メリエ家はお終いだから誰も味方などしない」

「サシャ様の馬車が襲われたところからロザ嬢が関わってたのね」

「関わってたっていうか、がっつり犯人だな」

 サシャはわかったことをなにもかもレアに教えた。

 令嬢の自殺の真相と、庭師の子を殺害した件でレアはさすがにショックを受けた。

「凶悪犯罪者だったのね」

 レアは恐ろしさに震えた。想像よりもずっと酷い。

「ああ、本当に。でも、表に出せる事件は少ないだろうな。私が襲われた件は王家は秘匿するって決めてるし」

 決定していたことは予め聞いていた。被害者の尊厳に関わる事件は、被害者が望めば裁判所は秘匿してくれる。

「王子が裸に剥かれて同衾させられた」ことは表に出さない。

 婚約披露宴の直前という時期に、そんな事件を公にすることはできない。なんら躊躇なく王家では決まっていた。

 闇組織が馬車の襲撃実行犯を殺した件も出せないかもしれないという。ロザの証言のみで証拠は一つも出てこないだろうから。

 令嬢が醜くされて自殺した件も、令嬢の遺族たちはもう騒がれたくないかもしれない。

「馬車の襲撃実行犯を殺した件とサシャ様の件を出せないとなると、ずいぶん公表できることが減ってしまうのね」

「そうなんだよ。実行犯殺害の件は、証拠がほんの一つでも出てくればいいんだけどな」


 ロザのやったことは裁判ののち、実際よりもやんわりとした事件として新聞に載ることになった。

『メリエ公爵家長女ロザ・メリエは王室管理室の職員ルーベラ・コーラによるティオ・コーラ殺害に関与していたことが取り調べによりわかった。ロザはルーベラに毒物を渡し浮気と借金を繰り返す夫を殺すよう勧めた。ルーベラは夫に毒物を飲ませたが、夫が気付いて吐き出したために殺害には至らず夫は寝たきりとなった。ロザは邪魔者となった夫を今度は焼き殺すよう勧める。ルーベラは火事を装い夫を焼死させた。ロザとルーベラは友人で、ルーベラはロザの依頼に応えて王室管理室内の情報をロザに渡す間柄だった。また、聴取の中でロザはメリエ家の庭師の子息マイルス少年を貯水池に落として殺したことも自供した』

 さらに新聞記事は続く。

『メリエ家の家宅捜索により前当主コルタス・メリエの犯罪も明らかになった。百十件の贈収賄事件と五件の殺人教唆だ。コルタス氏はすでに鬼籍に入っているが、メリエ家は責任を取る形で賠償金の支払いと爵位の返上に応じた』

 元メリエ公爵夫人は離縁し実家に帰った。十四歳の子息も一緒だ。

 ロザは北の作業所に送られた。

 カレルはすべてが済むのをまって毒杯を煽ったが、心労による病死と発表された。

 後味の悪い事件が収束したころ。

 サシャとレアの婚姻が行われた。


□□□


 結婚式は豪華すぎた。

 天使の羽のごとく滑らかな肌触りのシルクと手の込んだレース、金糸銀糸の刺繍。婚礼衣装は目がくらみそうなほど煌びやかなドレスだ。

 レアは質素かつシンプルなドレスがいいんじゃないかと自分的には思っていたのだが、お式の打合せの最初、王妃に「これを付けてね」とにっこり渡された一目で国宝級とわかるティアラとネックレスに貧血を起こしそうになった。

 とんでもなく大きい宝石が鎮座していた。

 こんな宝飾品は、質素なドレスにはまったく合わなかった。

 レアは「ドレスに本体が負けてる」と思いながらも豪華なドレスに身を包むこととなった。隣には王子様が頬笑んでいる。

 どうにも怖じ気付いてしまう。

 でも、彼が好きなのだ。どうしようもない。

 ドレスの試着では、サシャや王妃様や兄嫁様は「綺麗だ!」「とっても素敵」「似合ってるわ」と大喜びしてくれたのでレアはなにも言えなかった。

 エリだけは「わかるわ。結婚前ってそうなるらしいわよ」と頷いてくれた。マリッジブルーというものか。

 披露宴も当たり前だが豪勢だ。

 国王夫妻がにっこにこで、レアは「そんなロイヤルスマイルを大安売りしていいの?」と思ってしまう。きっと、あの宰相を追い出せたからだろう。

 レアはそんな風に軽く思っていたが、国王はレアの想像以上に想うところがあった。要らぬ力を持ったメリエ公爵家は何代も前から国にとって害悪でしかなかった。

 王としては少しでも力を削げれば御の字だった。宰相の娘ロザは酷すぎたが。それでも、もしもサシャが一目惚れした相手がレアではなく他の令嬢だったら、ここまでうまくいくことはなかった。

 宰相はいつものやり方で令嬢の家を潰していただろう。メリエ家は手広く力を持っていた。けれど、カリヤ家の領地では財源の主流はテルゼア豆だった。さすがのメリエ家も王立研究所との商いは妨害できない。

 おまけにカリヤ侯爵はもっとも宰相が影響を及ぼしにくい法務部の高官だ。並外れた堅物なので賄賂も効かない。

 さらに、ロザが下手に動いたせいで国防絡みの案件に抵触し、司法が隠そうとした情報にまで手を出そうとした。王室管理室の職員を手下にしたのもまずかった。

 そんなわけで王家は「レアは幸運の天使」と大歓迎していた。

 婚姻の儀式から始まり定番のパレード、披露宴と続き、レアは疲労困憊だった。

 全てがようやく終わり落ち着く間もなく初夜だ。

 レアは磨かれ、透き通った丸見えのネグリジェを着せられた。

 木綿の可愛い感じの寝間着が良かったが、そんなものは用意されていなかった。

 初夜に暖かいパジャマって選択肢はないわよね、知ってるわそれくらい、それはそうなんだけど、これはあからさま過ぎないかしら、とレアは諦めながらも思う。

 それから、どきどきとした胸を押さえながらベッドに腰掛けて夫が来るのを待った。

 そうだ。もう夫なのだ。実感がなかった。

 と思い返したとたん、小さなノックが聞こえ返事をする前にドアが開いた。

「待った?」

 お風呂上がりの色気のある湯気を立たせながらサシャ殿下が近付いてくる。

「いえ、そんなには」

「レア」

 彼はレアの隣に腰を下ろし、抱き寄せた。

「愛してるよ。ようやくだ、やっと」

 サシャの言葉に俯きそうだった視線を向けると、サシャは目を潤ませている。

 そうだった。彼はあの凶悪犯罪者みたいな女にさんざん言い寄られていたのだ。

「大変だったわよね、ずっとあの人に迫られて」

 レアは思わず彼の手に自分の手を重ねる。

「私の心の病がなかったら、きっと父は押し切られていた。あの頃はまだわかっていないことが多かったから。彼女の本性も含めて」

「そうなのね」

「私の病は王家の悩みの種だったが、今思えば神からの御守りのようなものだった」

 サシャが真剣にそんなことを言う。

 病が御守りだなんて普通ではない。けれど、そもそも状況が普通ではなかった。

 レアはそっと自分からサシャの首元に自分の頬を寄せる。

 サシャの角度だと、レアのすけすけ夜着の胸元から豊かな胸の谷間が丸見えだった。

 不味い。ここで鼻血でも出たら初夜が台無しだ。

 そう思いながらも、真っ白な新妻の胸から目が離せない。

「良かったです。サシャ様が逃れられて」

 レアはサシャの気も知らないで上目遣いで頬笑んだ。

「あ、ありがとう、レア。様はいらないからね。サシャだよ。夫婦なんだから」

 サシャはそっとレアに口づけをした。

 二人はその夜、無事に初夜を迎えた。

 レアは彼の温もりや優しさがなぜか初めてと思えず、懐かしく感じたのが不思議だった。

 明くる朝。

 気怠く寄り添いながら朝寝をしていると、サシャがレアを抱きしめてくる。

「子供ができたらいいな」

 そんな彼の呟きに、レアは思わず体をびくりと震わせた。

 前世の夢が思い出される。彼が「子供がいたら良いね」と言ったその後だった。それから大して日も経たないうちに、あの画像が送られてきたのだ。

「レア?」

 サシャがレアの顔を覗き込む。

「それは、なんだか、『ふらぐ』みたいで」

 レアは震える声で答えた。

「『ふらぐ』がなんだかよくわからないけど、私は浮気はしないからね。ぜったいにしないから。ぜったいだ」

 サシャの声がやけに真剣であまりに必死に聞こえる。

「サシャ」

 そうだわ、私、結婚運が良いんだっけ、とレアは思い出した。

 きっと、彼はしない。

 あのときも、もっと確かめれば良かったのかも、とレアはふと思った。

 ロザはサシャが眠っている間に浮気に見えるようなことをやった。サシャの同意もなく、無理矢理だった。

 前世の彼の写真は浮気にしか見えなかったが、本当だろうか。

 彼はとても優しかった。大好きだった。いつも彼も愛おしげな目で彼女を見詰めていた。

 確かめれば良かったのかもしれない。

 今更だけれど、もう遠い昔に終わったことだけれど堪らなく切なかった。


 数か月後。

 レアは念願の子宝に恵まれた。前世も含めて初めての妊娠だ。

 それとともにサシャの女性嫌悪症は徐々に収まっていった。

「きっと、ずっと悔やんでいたことが終わったからだよ」とサシャは言う。

 色々ありすぎたのでサシャの悔やんでいたことが何かはよくわからないが、健康になれたということよね、とレアも嬉しく思った。



お読みいただきありがとうございました。

本編は完結になりますが、番外編をあと2話投稿する予定です。

「関係者のその後」(今夜20時)と、「レアとサシャの番外編」(明日の朝9時)です。

よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
聖女さまにもレアの子を抱く姿を見せてあげてほしいなあ。
まあ、この二人がくっついてハッピーエンドはわかっていたことなので・・・ 王族でありながら女性と触れ合えない(ダンスとかエスコートとかですが)だけでなく王都を我慢できないという形で前世の罪をしょっていた…
あ、これで終わりなのね。結局王子の前世には気づかずはちょっと残念。 まぁ、全部知ってたら前世で夫を信じられなかったのを本気で後悔しそうではあるか。
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