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18)真相(2)

本日、二話目の投稿です。



 ロザはこんな意味のわからないことをやらされることに苛立ってならなかったが、父に怒鳴られるという醜態をさらすのも避けたかった。

 椅子に座る一人目の男の腕にロザが触れた。皆の触れ方は見ていたのでそれを真似ておいた。

 なにも起こらない。

 カレルは詰めていた息を吐いた。

 二人目。

 やはりなにも起こらない。

 カレルは二人目が殿下だろうと推測していた。二人目の男の腕が一番、色白だったからだ。一人目は三人の中でもっとも筋肉質な腕をし、三人目は少し日焼けをしている。一人目と三人目は騎士見習いかなにかではないかと思われた。

 そのため、カレルは半ば試験は終わりだと安堵していた。これで殿下に自白剤を飲ませられる。試験の次の段階に進む計画まで脳裏に浮かんだ。

 ロザが三人目の腕に触れた。

 ふいに、三人目の男が「う、うぅ」と小さく嘔吐く。

 ロザは驚いて手を引っ込めたが、男はそのまま「うぅ」と嘔吐き、「ゴホッ」と嘔吐した。

 口元を覆う男の手が痙攣するように震えているのが見て取れた。

 すぐに控えていた侍従と治癒師が男を支え、口元を拭い清浄をする。

 ロザは「な、なんなの! こんな汚らしい病人になぜ私が触れさせられるのよ!」と怒鳴り散らした。

 カレルは茫然自失の有様で言葉も出なかった。

 場は騒然としたが、法務官は淡々と「試験を続ける」と言い放つ。

 三人目の男はそのまま、吐瀉物の処理が終わったのち元の椅子に座った。

 再度、試験は続けられた。

 一人一人、協力者たちが椅子に座らされた者に触れていく。

 女性の協力者が触れたとき、またも同じ反応が三人目の男に起こった。

 手足を震わせ嘔吐く男から、女性は慌てて退く。

 治癒師と侍従は先ほどと同様に殿下の世話をした。

「もうよろしいでしょう。試験は終了します。殿下の症状は確認されました。ロザ嬢は虚偽の証言をしたとここに立証されました」

「な、なにを言っているの! こんな茶番で! あり得ないわ。出鱈目もいい加減にして!」

 ロザはわめき立てたが、答えるものはいなかった。

 防音の結界は解かれ、試験を見守っていた者たちがざわめく音が謁見の間に溢れる。

「ロザ。自白剤を飲みなさい」

 諦めたカレルが命じるが、ロザは目を剥いてさらに怒鳴った。

「なんの権利で! そんなことをこの私に命じられる者はどこにもいないわ!」

「そうする約束だった。飲みなさい」

「嫌よ! お断りするわ。公爵令嬢のこの私が! 冗談じゃないわ!」

 ロザはさんざん怒鳴り散らし、あげく謁見の間から走り出ようとした。

 カレルは娘を切り捨てることにした。

 ロザが嘘をついていたことは証明された。つまり、王子に対して夜這いをかけ「愛し合った」と言ったことは嘘だった。サシャは女に触れることはできない。

 ここまで自白剤を嫌がるということは、他にも犯罪行為をしていたのだろう。メリエ家を守るためにもう娘は捨てるしかない。

「ロザを捕らえて自白剤を飲ませてくれ」

 カレルにとっては苦渋の選択だった。

 出入り口を護っていた近衛は難なくロザを捕らえた。

 ロザは取り押さえられたまま、治癒室の者が用意していた薬を吸い飲みを使って無理矢理、飲まされた。

 ロザは死に物狂いで抵抗したが、仕舞いにゴクリと喉を鳴らして薬を飲み込んだ。

 しばし薬が効くのを待つ。

 ロザは捕らえられた格好で薬を吐こうと必死で嘔吐こうとしたが、上手くいかないままに十分ほどが経った。

 誰もなにも言おうとしなかった。長いようで短い時間だった。

 サシャたちは目隠しを外された。

 一番目と二番目の若い男性は速やかに立ち上がり、隅に控えた。王宮勤めの者のようだ。

 近衛の諜報部幹部と法務官が部屋の隅で打合せをしている様子だったが、ロザの薬が効き始めると法務官が尋問をするために前に歩み出た。

 カレルは「こんな大人数の前でやるのか」と愕然としたが、ここで騒ぎ立てる気力はもうなかった。

 法務官はロザの前に立つと尋問を開始した。

 書記が筆記具を手に構える。魔導具での記録も始めた。

「ロザ・メリエ嬢。サシャ殿下の乗った馬車が横転し、殿下が宿に運ばれ、あなたが殿下の元を訪れた際、実際にはなにがあったのですか」

 尋ねられたロザは、すでに薬で酩酊に似た状態になっていた。

 はい、と答える声は先ほどの声よりも弱々しかった。

「殿下は寝ていたわ。声をかけたのに、熟睡されていて反応はありませんでしたわ」

「あなたはそれから、なにをされたのですか」

「殿下の服を脱がせたわ。重いので大変だったわ。でもなんとか脱がせて、殿下と『愛し合う』ために刺激してみたのですけどどうしても無反応で、私も服を脱いでキスをしたのに彼は目を覚まさなかったわ」

 あまりに生々しい証言にその場にいたものの多くは呆気にとられた。それは「愛し合う」という行為ではないだろう。

 カレルは己の娘が娼婦に見えた。「やはり人払いをさせるべきだった」と後悔したが、もう遅い。今更、止められないし結果は同じだろうと奥歯をぎりりと噛みしめた。

 その後も貴族令嬢とはとても思えない所業を意識のない王子にさんざん試みたがサシャは目を覚ますことはなく、あげく侍従がドアをノックし始めたので止むなく裸のまま王子に寄り添うように掛け布団の中に入り込んだという。

 カレルはもう充分だと思ったが、法務官はさらに踏み込んだ質問へと進めた。

「殿下の馬車を暴走した馬車が襲ったが、その暴走車は不自然な事故で乗員が全滅した状態で見つかった。ロザ嬢はこれに関わっているのか」

「私が命じてやらせたのよ。ごろつきを使って殿下の馬車を襲わせたあと。ごろつきは闇組織の連中に頼んで殺させたわ」

 十七歳の娘がやったとは思えない所業だ。あまりのことに誰もがロザの顔を凝視した。人形めいた娘の顔が不気味に思えた。

 法務官のみが、淡々と質問を続けた。

「なぜ殿下の馬車を襲わせた」

「私が夜這いをかける機会を作るためよ」

「実行犯らをなぜ殺させた」

「ごろつきなんか信用ならないからよ」

「その信用ならないごろつきに、お前は仕事を頼んだのだろう」

「後から揺すられたり裏切られてばれたりしたら困るわ。ごろつきの言うことなんか誰も信用しないだろうけれどね。闇組織は殿下の馬車を襲う仕事なんか、してくれないんだもの。でも、闇組織の連中は人殺しをしたのだから信用できるわ。ばれたら困るのはあいつらもだからね」

「では、殿下の馬車が通る道をどうやって調べた」

「王室管理室に私の手下がいるのよ。ぜったい裏切らないやつよ」

「なんという名だ」

「ルーベラ・コーラよ」

「どうやって従わせている」

「あの女、夫を殺したのよ。浮気ばかりするから。それに、賭場で借金を作ってくるってね。王室管理室に言うことを聞きそうな者を調べさせたら出てきた女よ。ルーベラに毒を渡してやったの。ルーベラはそれを使ったわ。でもあの女、失敗したのよ。夫は寝たきりになって手間がかかるから仕事を辞めるとか言い出して。だから、火事になった振りをして焼き殺せって命じたのよ。上手く誤魔化すのを手伝ってやるからって」

 またもその場にいた者たちは息を呑んだ。

 もはや宰相の顔色は血の気が失せ死体のようだった。

 法務官は、これは余罪がありそうだと考え、打合せにない質問をした。

「お前は、他にどんな悪行を働いた」

「他に? 気に入らない女の馬車に毒虫を仕込んだくらいかしら。肌を腐らせる毒を持ってるやつよ」

「真か」

 法務官は思わず目を見開いた。

「そうよ。貴族女は二人やってやったわ。侍女は一人、顔に毒虫を這わせたの。侍女は試験のためね。三人とも自殺したわね」

 謁見の間にいた全員が、ちらりと宰相に目をやった。

 宰相はただ目も口もあんぐりと開いて絶句していた。

「他にはなにをやった」

「そうね。悪行とまではいかないけど。庭師の息子を貯水池に落として殺したくらい」

 どう考えても悪行ではないか、と誰もが思ったがこの女にとってはそうなのだろう。


 法務官はもうすでに胸くそが悪くてならなかったが、細かい確認作業を続けた。被害者の名や、やり口の詳細や動機を聞き出す。その作業はロザに飲ませた自白剤の効きが衰えてくるまで続けられた。

 王子を狙った動機は言わずもがなだが一応、尋ねられた。

 サシャの容姿が好みだったため手に入れたかった。王子という地位も自分に相応しいと考えていた。

 ロザはサシャの婚約者レアに毒虫を仕込んでやろうと用意したが寮の警備は思ったより厳重で、レアには護衛がついたために手こずっている、と暴露した。

 サシャの顔が怒りで歪んだ。

 最近、父である宰相に「サシャ殿下はもう諦めろ」と言われた。そんなころ、ルーベラからはサシャの視察の情報が入ってきたため凶行に及ぶことにした。サシャ王子の婚約が決まったとしても挽回できるとロザは信じていた。宰相も「相手の女には多々問題がある」と言っていたからだ。

 宰相が考えを変えた理由に、国王は思い当たる節があった。

 宰相の手下がカリヤ家の事件記録を違法に調べようとした件と、王室管理室に手を出した件は裏を取ろうと王宮は動いていた。

 それを察したのだろう。カレルは娘を大人しくさせようとした。だが、ロザは聞く気はなかったようだ。

 最後に法務官は、宰相はこれらの事件に関わっているかを尋ねた。

「関わってるに決まってるじゃない。私の手駒はメリエ家の者たちよ。知ってるか否かといったら、馬鹿な父は知らないかもしれないけどね」

 娘に嘲笑われ、カレルは表情を消した。

 その後。

 カレルは国王に告げた。

「私には毒杯を賜りたく存じます。その邪悪な娘は厳正に処罰していただきたいと宰相として願います」

 王は、宰相は案外まともな男だったのだな、と意外に思った。



お読みいただきありがとうございました。

明日も朝9時と、夜20時に投稿する予定です。

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― 新着の感想 ―
いやなに毒杯を賜るってお前が言ってんだよ毒杯は慈悲だぞ
いや、いち貴族としては「まとも」であっても、宰相、そして公爵家当主としては無能きわまりないですねぇ……
いや、宰相仮にまともでも無能ですよこれ。レア父の同類になっちゃう。実際娘の悪評はめっちゃあるのにスルーしてたし、自分の悪評スルーしてるレア父にかなり似てる気がしてきた…。
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