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11)作業場の罪人

本日、一話目の投稿です。罪人目線で、冒頭あたりが不快かもしれません。







 前世は、ろくでなし女だった。

 姉の旦那を填めて離婚させた。

 けれど、女はひとつ過ちを犯した。

 男は女を最後まで愛することなどなく、憎悪し続けたということ。

 まさか、可愛らしい自分が憎まれているなんて思いもしなかった。体調不良はただの病気だと思っていた。その病を癒やすために男が薬を個人輸入で仕入れてくれているのだと信じていた。

 毒を飲まされ続け、体はぼろぼろになっていった。

 男から引き離される刹那。両親が来ていた。

 女は、男の叫びを聞いた。

 妻を返せと。姉の名を呼びながら。涙ながらに。

 ああ、愛されるわけがない。

 女はずいぶん以前に一度、結婚して離婚していた。

 前の夫にも憎悪された。

 大したことはしていない。家のローンの金を使い込んだだけだ。車のローンの金も使い込んだことがある。ボーナス払いができなくなったと怒鳴られた。喧嘩したときに夫の仕事の書類をトイレに突っ込んだこともある。

 他のことは忘れた。

 とにかく、離婚することになった。

 だから、幸せそうな姉夫婦を壊してやった。

 男に毒を飲まされて病んだ体はろくに動けなくなっていた。

 母に見捨てられ、父が介護してくれた。

 ひたすら介護してくれた。

 父と母の会話を聞いた。ずっと聞いていた。他にやることもない。

 耳に入ってくるテレビの音と両親の言い合いと、それだけだ。

 あの優しい夫婦を不幸のどん底に落としてどうやって罪をあがなうというの、そう母は繰り返し言っていた。繰り返し、繰り返し。優しい娘を不幸なまま死なせてしまったと。

 子供が欲しいと言っていたのに、と。孫が生まれて、幸せな家庭となるはずだったのに、と。

 だからなんだというのだ。運が悪かっただけだ。自分のせいではない。女は反省などしなかった。

 ただ病み衰えて死んだ。

 夢でみた前世はひどいものだった。すべてを夢でみられたわけではない。ところどころの場面がときおり記憶に残る。それをつなぎ合わせて、かろうじてぼんやりした物語のように伺い知るだけだ。

 そんなものは、現世の自分には関係がない。今の自分自身を生きるだけで精一杯なのだから。

 現世では、アミは貧しい男爵家に生まれた。先々代男爵が代々勤めていた侯爵家でミスをして首になり、以来ノアシュ家は貴族とは名ばかりの生活をしている。アミの父が病死してからはさらに貧しくなった。

 貧しくて貧しくて、庭の畑を耕して家事をして、幼い妹と弟の面倒を見た。家族の面倒をみるのはとても手がかかる。ご飯を食べさせなければならない。風呂にいれて体を綺麗にしてあげなければならない。母は刺繍の内職で手一杯だ。

 自分の妹と弟なのだから愛しいとは思う。それ以上に手間だとも思う。けれど、面倒をみるのは当たり前だ。あの子たちを飢えさせたくなかった。病気で苦しむのをみたくもない。だから、世話をする。

 ご飯とお風呂は基本だ。纏い付く幼子たちを寝かし付けると、ほっとする。寝顔をみると、今日もなんとか終わったな、と思う。そのときが一番、安らぎのときだった。

 成績が良かったので奨学金をもらった。学園を出たら働いて妹や弟たちに美味しいものを食べさせてあげようと、そう思っていた。

 学園では貧しい男爵家の自分はさげすみの対象だった。嫌味を言われ、謂れのない悪口を言われた。そんな自分に優しくしてくれる友人ができた。マナリアのことが好きだった。

 良い家の家政婦の仕事も紹介してくれた。それまでは小さな商家で働いて、稼ぎが悪かったのだ。

 執事と恋人になり、余分に金をもらった。横領した金だなんて知らなかった。

 マナリアが嘘付きだなんて知らなかった。侯爵家の娘に食べさせていた豆はただの嫌がらせだと思っていた。味見したら不味い豆だったが、毒ではなかった。

 違法なものなんて知らなかった。だから、北の作業所にやられた。

 現世ではまともな人間になったつもりだった。欺されたのが悪かった。

 この作業所で罪を償おう。一生かけて。今度は欺されない人間になろう。

 ああそういえば前世で人を欺した、と思い出した。そうか、人を欺すってこんなに酷いことだったのか。

 ようやくわかった。

 今度は大丈夫。

 もう欺さない。欺されない。


 北の作業所は綺麗なところだ。冬は極寒の地で凍てつく寒さだけれど、短い夏の間はどこよりも景色が良い。遠くに青い山々が見え、施設の隣を流れる川も青い。塀の向こうに季節の花が一面に咲き、風の向きで香しい匂いがする。

 仕事はとてもきつい。でもアミにはなんともない。幼いころから畑を耕していたのだから。畑の果菜を炒めた料理は弟や妹たちが好きだった。パンに挟むと美味しいから。

 だから、ここの作業はなんともない。商家で働いていたときも、倉庫の在庫管理をしろと言われ、実際は重い木箱を運んで在庫の整理が主な仕事だった。

 だから、なんでもないのだ、この作業所の仕事なんて。

 貴族の令嬢が多くいる。わけありの作業所だ。

 ここに来て、どんなわけありかわかった。世間に戻せない囚人が多くいるのだ。「ヤバいこと」を色々と知っている囚人だ。だから、ここで寿命を迎えてほしいのだ。

 貴族崩れの女たちには、ここで体を壊してほしいんだろう。

 でも、アミは平気だ、

 幼い体で畑で鍬を振るっていたころより楽だ。

 マナリアをたまに見かける。暮らす棟が違うので滅多に見ない。どんどん窶れて、よぼよぼになっている。同じ歳なのに。

 きっと彼女は出られない。

 アミも出られないかもしれないが、ここは嫌いじゃない。

 景色が清らかで、窓から眺めるのが好きだ。

 一日が終わり体を洗い、寝る前の一時。幼い弟や妹たちを寝かしつけたあとみたいに、今日も終わったと安堵する。

 遠い暗い、真っ暗な夜の景色を眺めながら。




また今夜20時に、二話目を投稿いたします。

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― 新着の感想 ―
 アミがそうだったのかあ。  今世のアミのいろいろを思うと、この結末がよかったなあと思います。前世のやらかしをきちんと思い返して酷いこと認識したと思うし、それを正当化しようとしてないし。なんというか、…
前世の業が今世にあまり残らなくて良かったです。 アミが頭脳の足りないスペックで、貧乏な環境こそ前世の業なのではと感じました。又、そのスペックのせいで今の状況な事もある意味前世の業。 だけども今世では、…
あ、アミがそうだったのか。 うーん、前世の諸悪の根源が今世では言っちゃなんだけど序盤のやられ役みたいだったのはなんか意外でしたね。 ラスボス枠とかじゃないんだ…。
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