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第1話 目覚めたら、デスゲームが始まった

――カチ、カチ、カチ。


耳の奥で、秒針のような音が規則正しく響く。


目を開けた瞬間、視界がにじんだ。


「……どこだ、ここ……」


まぶたの裏に残る暗闇と、蛍光灯の白が、まだ頭の中で混ざっている。


「家で寝ていた……はずだよな。……夢でも見てるのか?」


見上げれば、いつもの木の天井ではない。

無機質なコンクリートが、この異様な状況を物語っている。


匂いも違う。

家の寝室の柔らかい匂いではなく、金属と油が混じった冷たい工場の匂いが鼻をつく。


「……痛っ!」


身体を起こそうとして気づいた。

背中に当たるのは布団ではなく、冷たく平らな金属の台。

腰のあたりに硬いベルトが食い込み、身体が固定されている。


「おい!なんなんだよ、ここは!……真希!どこにいるんだ!」


妻の名前を叫ぶ。だが声は虚しく反響するだけだった。


「くそっ……何が起きてるんだよ……!」


視線を動かすと、目の前に奇妙な機械があった。


ドーム状の透明カバー。

その内側を、青白い光のラインが神経回路のように絡み合い、脈打つように明滅している。


束ねられた太いケーブルが床に伸び、脇のモニターには心拍のような波形が流れていた。


「グッモーニン、パパ達!そろそろ目が覚めたかい?」


不意に、天井のスピーカーから男とも女とも分からない声が降ってきた。


「……誰だ? パパ達って……俺以外にもいるのか?」


周囲を見渡すが、人影はない。

しかし、この空間のどこかに他の“パパ”たちがいるのかもしれない。


「あなたたちは、選ばれしパパとなり、育児ゲームの参加権を得ました!おめでとうございまーす!……あれ? 反応薄くない? もっと喜んでほしいんだけどなー」


「……何言ってんだ、こいつ……」


「『なんでこんな目に遭ってるんだ! お前は誰だ! ここから出せ!』とか考えてるでしょ? うーん、思うのは勝手だけど、拒否はできないんだよね。だからほら、育児ゲームしよ! 早く早く!……じゃあお願いしまーす!」


ガチリ、と手首と足首のベルトが締まる。


背後のドアが開き、白衣を着た人影が現れた。

マスクとゴーグルで顔は隠され、表情は読めない。


その人物は無言で近づくと、俺の頭にドーム型装置をかぶせた。


「おい!やめろ!離せ!!」


抵抗は無意味だった。

装置が頭を覆った瞬間、光が滲み、意識が遠のく。


装置の内側から、青白い神経のようなラインがせり出し、頭蓋の奥へ入り込んでくる感覚。

鼓動が速まり、金属の味が口の中に広がる。


次の瞬間、視界が真っ白に弾けた。


重力が消えたように、全身が宙に浮く。

落ちていくのか、昇っていくのかすら分からない。


白が薄れ、色彩が流れ込む。


気づけば、見知らぬ部屋の中に立っていた。


ベビーベッド、メリー、ベビーチェア、バウンサー、オムツ、ミルク……抱っこ紐まで。


赤ちゃんのいる家庭を再現した部屋だ。

だが、ここが現実ではないことを、肌の奥が知っている。


「え……なんだ、これ」


つぶやいた声がやけにクリアに響く。


その声に重なるように、場違いなほど陽気な声が部屋にこだました。


「ねえねえ、驚いたでしょ? ここは赤ちゃんのいる部屋を模したVR空間なんだよ! すごいでしょ? これ作るのめちゃくちゃ苦労したんだから!

あ、パパ達は実際にここにいるわけじゃないよ。さっきヘルメットみたいの被ったでしょ? あれが脳に直接作用して、まるで実在するみたいに感じられるの! 超超超最先端技術ってやつ!」


「……仮想現実……」


恐る恐る、部屋にあるものへ手を伸ばす。

触れた感触は本物そのもの――脳が錯覚しているのか?


「どう?感動したでしょ! やばすぎるよね! でね、ゲームの説明するね。今からパパ達には育児ミッションに挑戦してもらいます! これがSTAGE1! たくさんのSTAGEがあるから、絶対勝ち残ってね!」


「勝ち残る……? 勝ち負けがあるのか?」


「しかもね、こっちではパパ達の脳波をモニターで見られるんだ。で、その育児の様子を100人のママがジャッジします!」


「はあ!?」


「ママ達は厳しいよ〜! 下手したら容赦ないからね! で、ジャッジの結果“不適格”と判断されたパパは……ここで死んでもらいます!」


「……死ぬ?」


「当たり前でしょ! 育児できないパパなんていらないし、邪魔なだけだもん!」


「おい……命懸けってことか……」


そして、声のトーンが急に冷たくなる。


「でもね、普段からママと一緒に育児してたら......別に難しいことじゃないでしょ?」


その瞬間、参加者たちの顔が曇る。


「そうだよね? ママさん達!」


“どうだか。うちの旦那はスマホゲームばっか”

“やれるもんならやってみればいいと思うわ"

“ミルク中に『俺の飯は?』って言ったバカもいるし”

"これ全員死ぬんじゃない?"


どこからともなく、審査員ママ達の罵声が飛ぶ。


「おやおや、怒ってる怒ってる! ほら、見返してやれよ、パパ達!俺たちだって、育児ぐらいできるって言ってやれ!あ、そろそろ時間だね。じゃあ始めよっか!」


部屋が明るくなり、目の前に泣いている赤ちゃんが現れた。


「STAGE1はこれ! 60分以内に泣き止ませて寝かしつけてね! もちろんAIで作られた精巧な赤ちゃんだよ! 本物だと思って接してね。まさかここで全滅なんてないよね?」


俺の名前は桐山蓮斗。

赤ちゃんの寝かしつけは……一度もやったことがない。


「それじゃあ――STAGE1、スタート!」

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