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詩、或いは短い散文

詩集〜甘い砂糖だけが売れる世界のてんさい畑に転移したけど、私はゴーヤ齧って生きていく〜

作者: 日戸 暁


【表現について】

今の時代、詩的であるというのは

どういうことだろう

それは言葉の奔流で圧倒するということ

川の流れをそのまますべて

開けさせた口に1トンの砂糖と共に流し込むということ


今の時代、情緒的であるというのは

どういうことだろう

それは感情の乱高下で無意味に振り回すということ

今撫でていた雛を燃え盛る火に投げ込むということ


今の時代、感覚的であるというのは

どういうことだろう

それは極彩の電飾に目を焼かれ続けるということ

ただ明滅し続ける光が痛くて目から生理的涙が溢れる


なんと醜く虚ろな美しさだろう 


詩的とは言葉の潤い

流れる川から汲み取った、たった一掬いを味わうということ

あるいはコップ一杯の水に砂糖を一匙ゆっくり溶かすということ


情緒的とは感情の深み

蜂蜜を味わいながら、空になった蜂の巣を忘れないということ

華やかな歓びの下の、静かに湛えた悲しみに寄り添うということ


感覚的とは情景の厚み

文字の並びに世界を書き起こすということ

洗濯物の3文字に

石鹸の香りと風のそよぎと布の手触りを感じるということ



【説明は要る】

戦争というたった二文字に血のぬめりと人々の嘆きと愚かさを知ってほしいと思っても

だけれども今、

戦争の二文字に

武器の荒々しさと兵士の勇壮さしか思い描けない子もいる。


だから武器の格好良さ、兵士の勇敢さの下に深く沈むいくつもの悲しみと苦しみを

流れた血を

わざわざ記し描いて伝えねばならない


わざわざその伏せた痛みを引っ掻き回して

たくさんの悲鳴をその耳に聞かせねばならない


だがそれに耳をふさいで目をそらすのだ

説明なんて邪魔だと言って

戦争なんて分かってる、かっこいい武器でかっこよく戦い敵を倒す正義だと

言い張る


あぁ、私の言葉には、なんて力がないのだろう



【嫌われるもの〜人参を嫌う子に如何にして人参を食わせるか〜】

星型に切ってやれば興味は持つだろう

でも口に入れぬ

チーズに、向こうが透けそうなほど薄切りの人参を貼って与えれば

人参を食べたことに気づかず飲み込み、

ぼくは人参なんて食べていないぞ!という


なので厚みをもたせた人参を

チーズで覆って与えてみる

だが口に入れた瞬間にチーズだけ食って人参を吐き出す

そして、それ以降は

チーズを剥がして先に食べ、人参を綺麗に残す



【テンプレート】

色と形が違うだけの、砂糖菓子を

今の子は食べ続ける

いつもと同じで飽きたと言いながら

でも分かりやすい慣れた味ばかり食べる


メレンゲでコーティングしたビターチョコを差し出せば

目新しいから口に入れて

メレンゲを楽しんだあとに

苦みがきたら

それを吐き出して

やっぱり砂糖を舐めたがる

せめて、たまには黒くて硬いかりん糖

和三盆の御干菓子を食べたらいいのに


今日はピンクのハートのお砂糖菓子

明日は黄色のお星さまのお砂糖菓子



挙げ句の果てに

メレンゲなんて味がないなんてのたまうのだ

かりん糖は硬すぎて噛めないというのだ

和三盆の渋味を苦みだと言うのだ

もっともっと甘くなければ

刺激がわからないのだ


ケーキもドーナツも煎餅もチョコレートもあるのに

小さな砂糖菓子ではもう足らぬのだ

ならばもう砂糖壺ごと食っていろ


甘いものほど体を蝕み

骨身を溶かして虚ろにする


だが甘みは愛で苦みを毒と信じるならば

きっと薬を飲めないだろう

心も体も同じこと

いつか

甘いだけの虚しさに気づいたとき

砂糖の塊に飽きたとき


苦みを味わえるのだろうか



まぁ、もっとも私の差し出せるのは

ただのコップ一杯の水

湯呑みに入った苦い緑茶

あるいは、銀紙に包んだレーションぐらいだけれど!




【比喩について】

彼女の肌を何に喩えよう

陶器のような滑らかな肌は撫でれば絹のようなさわり心地で、

青い血管が透けるほどの白さでありながら、だが身のうちから光を放っているような瑞々しさを湛えている。


彼女の髪を何にたとえよう

金の糸を編んだような美しい髪は

夜は月光の色をそっくり譲られて

昼は陽光をそのまま梳いたかのようで

そう、きらきらとダイヤモンドか夜空の星を散りばめたように煌めくのだ。


違う。

違う。

彼女の金髪も肌の白さも

これでは伝わらない。

なぜなら、彼女に適う喩えるべきものがないのだから


比べることができぬなら、

ならばこれではどうだろう


彼女の白い肌は、

きめが細かくしみ一つなく、丁寧な手入れによって大切に守られているのが分かる

その張りと透明感のある肌は若さと健康そのものだ

そしてその金髪は

つやを帯びて、陽の光にも負けぬ輝きをまとう。

……いや、何かが違う。

言葉が足りぬのか。

否、詳らかに述べられるだけの言葉はないのだ。


彼女の金の髪。

彼女の白い肌。

彼女を擬えられるものなどこの世にない。

その美しさ、輝きの前では

私の言葉はあまりにも貧相だ



どんな喩えをもってしても

彼女を捉えきることはできない


どんな言葉を並べても

彼女を描き出すことは不可能だ

比喩は、言葉は、時に無粋だ


金の髪も白い肌も、

言葉で言い尽くせぬほどの“美しさ”

それが彼女をもっとも正しく表せよう


なぜなら

伝えるべきことは

髪がいかに素晴らしい金色であるかではなく

肌がどれほどに白いかということでもないのだから


伝えねばならぬのは

彼女が美しいということ

それに尽きるのであるから


髪の色も肌の色も

それらは彼女を構成する要素にすぎない

たとえその肌が褐色でその髪が黒髪であったとしても

その美は損なわれまい


もし色の鮮やかさにのみ美を見出すのならば

真っ白な陶器に金色の絵の具を塗りたくればいい



そして美とは

草原をわたる風

遠い異国の花嫁衣裳

照りつける陽の光

仔馬の初めての歩み

氷の凍てつき

提琴の音色

折れた剣

そして甘い毒


つまり美とは

文字を連ねて徒に語るものではなく

心のうちで識り、酔いしれてこそ

価値が立ち現れるのである

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