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グレイビーストの衝動  作者: 高山キナ子
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第1話

20XX年。独立し共和国化してからおよそ二百年が経つシミアンは、多くの人種と民族、そして獣人が入り混じって暮らすカオスな都市国家だった。

「よくやってくれた。上も喜んでいる」

その言葉を聞いたレオナは、報道後に株価が上がったんだろうなと思った。

レオナは上司であるフアンと連絡事項を交わしながら、虎の遺伝子を持つ獣人であるフアンの毛を眺め、規制線と似たカラーリングだなあといつものようにぼんやり思っていた。

シミアンの西区で立てこもり事件が発生したのは、二日前の朝方だった。

警察が現場に到着して犯人側との交渉に入ったものの膠着状態が続き、警察と契約している民間軍事会社アレクサンダー・セキュリティーに秘密裏に突入部隊の派遣要請が入った。

犯人は複数かつ銃器で武装しており、人質も未成年者を含め複数いる上、現場の建物内は狭く入り組んでいる。

事件発生をスマホのニュースアプリで知った段階で、アレクサンダー・セキュリティー特殊業務課第六小隊の隊長レオナ・モアは、ああこれうちに仕事来るわと思った。

案の定、特殊業務課課長のフラビオ・フアンは、誰も行きたがらないような現場に第六小隊の派遣を決定した。

レオナは副隊長の獣人フィニアン・バークと共に3人の隊員を率いて現場に向かい、警察と状況を共有しつつ突入の指示があるまで待機した。契約では待機時間は36時間までとなっていたが、警察から追加要請が入り12時間延長となった。そしてさらに6時間の延長が決まり、膠着状態が50時間を越えた頃、ようやく突入の指示が出た。

結果、第六小隊は犯人2人組を軽傷のみで確保し、未成年を含む人質5名全員を無事に救出した。

突入部隊を派遣したのはアレクサンダー・セキュリティーであるという報道があったわけではないが、ニュース映像等で隊員の装備を見れば明らかだった。死者を出さずに事件を終わらせたことで、閉まる直前のシミアン証券取引市場でアレクサンダー・セキュリティー株の買い注文が殺到し、株価が上昇した。明日以降はもっと上がるだろうから、会社上層部はウッキウキに違いないと思いながら、フアンへの報告を終えたレオナは第六小隊控室に戻った。

50時間という待機時間は長くはあったがさほど異常でもないし、3時間の仮眠を1回とれたのでいい方だった。それでも早く帰りたかったが、レオナはこれから報告書を作成しなくてはならない。

しかしその前に。

「バーク」

椅子にも座らず控室の床に座り込んでいたバークは、肩で息をしていた。

「薬は飲んだ?」

「はい…」

安全のためにあまり近寄らないでくださいとバーク自身から言われたレオナは、少し離れた場所からバークの様子を伺った。

バークは今、発情状態になっている。

基本的に獣人の性欲は人間とあまり変わらないが、ひとつだけ違うのは定期的に発情期が来ることだった。白狼の遺伝子を持つバークは、他の獣人と同じように発情期の間は数日にわたって強い性衝動に駆られることになる。しかし発情状態では社会生活が難しくなることから、ほとんどの獣人は十代の頃からホルモン抑制薬を服用することで発情を抑える。

しかし、突入任務のために待機していたバークは運悪くいつもよりも早く発情の兆候が始まった。それでも待機時間が延長されなければ薬の服用が間に合ったはずだが、延長に伴って現場は緊迫し、副隊長のバークが外れるわけにはいかなくなってしまった。しかしレオナもバークの状態は察しており、場合によってはバーク抜きの4人で突入する可能性も考えていた。結果的にはバークを含めて任務を遂行し、負傷も無く終えることができた。

社屋に戻ってきたバークはすぐに薬を服用したが、効果が出るのは早くても数時間後であるため、それまでどうにかやり過ごすしかなかった。

地下の医療部門に行ってホルモン抑制注射を打てばもっと早く収まるが、なにぶん発情期は女性の月経と同様非常にデリケートな事柄であるため、バークは飲んだ錠剤が作用するのを待つことを選択し、レオナもそれを尊重した。

突入に加わっていた他の3人を含め、第六小隊の隊員はレオナとバーク以外は全員帰宅したものの、バークの発情はどんどん強くなり、限界まで来ていることがレオナにはわかった。

レオナは、薬を服用しなかった場合の獣人の発情を目の当たりにしたことがあるからだ。

「バーク」

レオナに呼ばれて、バークは弱々しく顔を上げた。

「更衣室使って。もう誰も来ないだろうけど、念の為見てるから」

更衣室は、シャワー室やトイレ同様、防犯カメラ等の無い数少ない場所だ。

レオナの言わんとするところはバークも理解できた。

「すみません…」

「いいって。生理現象なんだから」

シャワー室かトイレに行くという手段もあるが、どちらも第六小隊の控室とは微妙に離れており、そこへ辿り着くまでに誰かとかち合うかもしれない。それに、第二次性徴以降ずっと発情期にはホルモン抑制薬を服用してきたバークにとって、薬を飲まずに迎える発情は初めてだった。そんな状態では何がどうなるかわからないため、他の社員も利用するシャワー室やトイレへ行くのは色々な意味でリスキーだった。

バークは更衣室に入ると、独りになった安心感で力が抜け、床に崩れ落ちるように座った。

壁に背を預け、バークは声の混じった息を吐く。

とにかく出したくて仕方ない。

バークはズボンの前を解いて、服の下から自らの雄を引き出した。

ここまでの発情状態になって何度出せば収まるかはわからないが、レオナがいてくれるのだから他に誰も来ないだろうし、落ち着くまで手で処理すればいい。

しかし、ふと、バークの鼻に覚えのある匂いが届いた。

これは。

レオナの匂いだ。

第六小隊の更衣室はひとつなので、レオナが着替える時だけはここには他に誰も入らないようにしている。レオナ自身は気にしないが他の隊員が気にするからだった。

ドクン

レオナがここで着替えることを想像してしまったバークは、自分の雄が欲望で脈打つのを感じた。

普段レオナの体で肌が見えるところといえば首から上と手くらいなのだが、レオナが服を脱ぎ、素肌を晒す姿がバークの脳裏に浮かぶ。

だめだ。

尊敬するそのレオナが扉一枚はさんだすぐそこにいるというのに。

バークは頭の中のレオナの姿を必死に振り払おうとした。

しかし、鼻で感じたレオナの匂いに体が反応する。

「隊長…」

目を閉じると、容易に裸体のレオナが思い浮かんだ。

もう、止められなかった。

「隊長っ…」

バークは自分自身を握り、手を動かす。

その快感は、より淫らな妄想を呼び起こした。

バークは頭の中で、レオナの脚を割り開き、硬い岐立を挿し入れる。

「あ、あ…」

気持ちいい。

バークは、手と同時に腰を揺らし、想像の中のレオナの内側を突き上げた。

「隊長……隊長っ…!」

好きです。

それは、口に出せなかった。口に出してはいけないと思った。

好きなんです。

ずっと前から。

心の中でだけそう叫びながら、バークは手に力を入れて絶頂を目指す。

「あ、ぁっ…隊長…っ…!」

腰が震え、バークは手の中に白濁を吐き出した。

しかし、一度出した程度ではやはり収まりそうにない。

未だ萎えず硬くそそり立つ自分の欲望を見ていたくなくて、バークは目を閉じた。

「バーク」

「!!!??!??!」

すると急にノックも無くレオナが更衣室のドアを開けて入ってきた。

バークは反射的に背を向けてもろもろを隠す。

「たっ隊長!何を」

「いや、ティッシュいるかなと思って」

そう言いながらレオナは顔色ひとつ変えずティッシュと、ご丁寧にゴミ袋まで持ってきた。

「あ、どうも……ではなくて!」

ノリツッコミみたいな反応でバークに吼えられてもレオナは平然としている。

「喘ぎ声の合間に隊長隊長呼んでおいて何言ってるの」

「き、聞こえてたんですか!」

バークは声を押し殺していたつもりだったので、まさか人間のレオナに聞かれるとは思っていなかった。

「聞こえるよ私聴力いいから」

そう言いながらレオナは更衣室の内側からドアを閉め、鍵をかけた。

「隊長、何を…」

どういうつもりか、レオナは背を向けたままのバークに近づいてくる。

「手伝う」

「は!?」

「早く済ませたいでしょ」

それはそうだが、手伝うという言葉の意味が掴み切れないバークはフリーズしてしまった。

「ほら。こっち向いて」

「無理です!」

無理で当たり前である。

しかし、キャンキャンと啼いてばかりの仔犬ちゃんに、報告書の作成が済み、ようやく業務を終了したばかりで、少々疲れているレオナは溜息を吐いた。

「まったく…手の掛かる部下だなあ…」

そう呟きながら、レオナはバークに後ろから抱きつく。

「え…」

憧れの存在であるレオナからのバックハグというシチュエーションに、バークはうっかりキュンとしてときめいた。

が。

「ぅあっ!」

突然背後からレオナに雄を握り締められてバークは跳び上がる。

「手伝うって言ったでしょ」

しかも、背後のレオナに囁かれて、バークは腰の奥がぞくぞくと震えた。

「だ、駄目です…!」

「いいから」

レオナの手に、握られている。

その光景と、背中から感じるレオナのぬくもりと、更衣室の残り香とは比べ物にならないほどのレオナの匂いに、バークの全身が熱で沸き立つ。

何より、自分ではない手で与えられる刺激は、発情したバークにとってあまりに強烈だった。

「我慢しないで…ほら…」

しかも、レオナの声が聞いたことがないほど優しくて、バークは頭の中から理性が溶けて消えていくのを感じた。

「あ…ぁ、あ…」

バークは無意識のうちに、レオナの手の動きに合わせて腰を振っていた。

「あ、あぁ…あっ……出、るっ…!」

二回目だというのに、出てきた量は先程よりも多かった。

バークは肩で息をしながら、快感の余韻と罪悪感で頭の中がぐちゃぐちゃになった。

その背後で、レオナは手にかかったバークの白濁をティッシュで拭き、ゴミ袋に放り込む。

「…隊長」

「ん?」

「い、いえ、何でもありません…」

口ごもって座り込んだままのバークの背中を見つめつつ、レオナは息を漏らして微かに笑った。

「…やっぱり、匂いでわかるんだ」

レオナの言葉に、バークはぎくりとする。

そして背後でレオナが何やらごそごそし始めたので、バークはおそるおそる振り向いた。

目に入ってきたのは、服を脱ぐレオナの姿だった。

「隊長何してるんですか!?」

「何って、汚れたら面倒だし」

平然と言いながら、レオナはためらいもなく全部脱いだ。

目の前に現れた実物のレオナの裸体に、バークの雄は否応なく反応する。

レオナはバークの制服の胸倉を掴んで自分に向き合わせた。

「っ…」

バークは、任務の一環で繁華街の宿泊所やその筋の店に行ったこともあるので、女性の体液の匂いを知っている。

目の前の裸体のレオナを見て、そして今まで知らなかったレオナの匂いを感じて、発情状態のバークが堪えられるわけがなかった。



 

[つづく]


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