沈黙の苦笑(自虐の画面)
自虐ネタ。
それが彼の武器であり、アイデンティティだった。
職場の飲み会では、自虐ネタで場を和ませる。
「俺、コミュ障選手権があったら準優勝だよ。
このジャンルでも一番にはなれない」
「母ちゃんに“失敗作じゃない”って言われたとき、逆に泣いたわ。優しさが痛い」
みんな笑う。
だけど、その笑いは薄く、空気はどこか冷たい。
誰も「そんなことないよ」とは言わなかった。
それが、少しだけ彼の胸を締めつけた。
昔から、そうだった。
中学の頃、好きな子に「面白いよね」と言われた。
調子に乗ってギャグを連発したら、「やっぱ変な人だね」と言われた。
それから彼は、「おもしろい」を信じなくなった。
大学のサークルコンパ。
緊張して噛んだ言葉をごまかすため、一人コントを始めた。
笑われたけれど、ただ「変な人」だと思われただけだった。
「目立つのは怖い。けど、無視されるのはもっと怖い」
そうして彼は、自分を笑いものにすることでしか
誰かとつながる術を持たなかった。
その夜も、いつもと同じだった。
「俺が評価されたのは、誰かがクリックミスしたからだな」
誰かが笑い、彼も笑う。
でも、心はどこか虚しかった。
その時だった。
——世界が、止まった。
ざわめきも、グラスの揺れも止まり、音は消えた。
動かない笑顔たちの間で、彼は立ち上がった。
ふと目に映ったスマホの画面。
自分のSNSの過去ログが静かに語りかける。
> 「自分のこと笑ってれば傷つかない」
「誰も本気で心配してくれない」
「でも笑わせている間だけは、独りじゃない気がする」
冗談に見せかけた、本当の声。
「……笑ってるふりをしてただけなんだろうな‥‥」
傷つくのが怖くて、先に自分を傷つけていた。
自分を守るための、皮肉なバリアだった。
でも、本当は。
誰かに一度でいいから、言ってほしかった。
「そんなこと言うなよ」と。
——世界が、動き出した。
グラスが揺れ、笑い声が戻ってくる。
彼は静かに言った。
「……全部、ウソです。俺は案外いいやつです」
隣の後輩が戸惑いながらも、微笑んだ。
「僕、先輩好きっすよ」
その言葉に胸が軽くなる。
自分を守るための笑いではなく、
心からの言葉がようやく出せた日だった。
彼は、はにかみながらも笑った。
自分自身への嘲笑じゃなく、本当の笑顔だった。
——その日、世界は3分間だけ止まった。




