09
「国会議事堂、すごかったね。議員さんとすれ違った時、興奮しちゃった!」
「私も!女性議員さんとか、超かっこよかったよね!」
国会議事堂の見学を終え、議員食堂でランチタイム。
メニューはもちろんカレーライス。
味も量もびっくりするくらい普通だけど、一般人ではまず入ることができない場所で食べるご飯ということもあって、おいしい気がする。
私は班の友達の会話を笑顔で聞きながら、水筒のお茶を一口ふくんだ。
ちなみに、友達の心の声に加え、議員さんらしき人達の心の声も聞こえるんだけど、内容はちんぷんかんぷん。
と思っていたら、たまーに恐ろしい声が聞こえてきて鳥肌が立ってしまうことも……政治って、怖い……
「それにしても、凛花ちゃん国会見学で無田君にめっちゃ質問してたね。議員さんになりたいの?」
急に話を振られ、しかも内容が内容だけに、思わずお茶を吹き出しそうになる。
「そ、そんなわけないよ!私が議員さんなんて、絶対に無理だよ。」
「そうかな?凛花ちゃんならなれる気がするけど。頭いいし。」
ぶんぶんぶんと首を振る。
あんな恐ろしい世界に足をつっこんだら、命がいくつあっても足りないよ。
「あと無田君!すごいよね、凛花ちゃんの質問にすらすら答えてたし。」
「私も思った!無田君ってあんまり目立たないけど、勉強も運動もできるし、最初の頃と比べて印象変わってきたかも。」
まずい……これは恋話に移行する流れだ。心の声がそっち方向に向かってる。
私は「ちょっとお手洗いに行ってくるね。」とその場を後にする。
『あっ、凛花ちゃん逃げたな。』って心の声が聞こえてくるけど、気にしない気にしない。
お手洗いを探してうろうろしていると、見知った顔が前から歩いてくる。
「無田君、お手洗いどっち?」
「あっちだよ。」
トイレの方向を指で示すと、何事もなかったかのように歩き出す無田君。
もう少し話したかったけど、あとで話せるからいいやと私もお手洗いに向かおうとすると……
「月斗じゃないか。」
「父さん。」
パッと後ろを振り返る。そこには議員バッジをつけた背の高いおじさんが立っていた。
口元は笑顔だけど、目元は無表情に見える……無田君と一緒だ。
「久しぶりの国会はどうだった?勉強になったか?」
「うん。」
「そうか。それならよかった。」
優しそうなお父さん……に見えるけど、無田君はいつもより緊張してる?
無田君のお父さんが、私の方に目を向ける。
「きみは……」
「あっ、こんにちは。無田君……じゃなかった、月斗君のクラスメイトの東堂凛花です。」
「東堂さん……きみがいつも月斗と一緒に帰ってくれている東堂さんか。
息子の相手をしてくれてありがとう。どうもこの子は人付き合いが苦手でね。兄達はそうでもないんだが。」
「えっ、無田君って、お兄さんがいるんですか?」
お父さんは眉をひそめる。対して無田君は無表情のまま。
でも、やっぱり……いつもとちょっと違う気がする。
その理由は、すぐにわかることになる。
『月斗のやつ、兄のことを話してないのか……
まぁ、仕方ないか。出来の良い兄達と比べて、落ちこぼれだからな。
まったく、どうしてこんな出来損ないが産まれてきたのか、理解に苦しむよ。』
サーっと血の気が引いた。
今までも自分の子供に対して酷いことを言う親はいた。
でも、この人はレベルが違う。
彼の存在そのものを否定している……
平静を装うんだ、凛花。笑顔を崩しちゃだめ。
でも……胸が痛い……
「おっと、もうこんな時間か。急がなければ会議に遅れてしまうな。
それじゃあ月斗、東堂さん、私はこれで失礼するよ。東堂さん、今度よかったらぜひうちに遊びにおいで。歓迎するよ。」
「ありがとうございます。」
社交辞令に対し、私も感謝の言葉で応じる。
「東堂さんお手洗い、あっちだよ。」
「そうだった。ありがとう。」
無田議員が去ってから、私は少しの間固まってたみたい。
無田君の言葉で我に帰る。
「ねぇ、無田君……」
「早くしないと、ごちそうさまに遅れるよ。」
そう言って、彼は言ってしまった。
無田君は……きっとお父さんにどう思われてるか気付いてる。
だからあんなに……
コンクリート打ちっぱなしの無機質な廊下が、まるで彼と父親の関係を表しているように見えた。




