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そこは以前、私達が運動会の練習をしていた公園。中心に植えられた桜の木に沈み始めた太陽が重なり、幻想的な風景を生み出す。

その下のベンチに、彼は座っていた。


「月斗君……」


「あれ、東堂さん。こんにちは。ずる休み、ばれちゃったね。」


私は、月斗君の隣に座った。


「お母さんと会ったよ。月斗君のこと、色々話しちゃった。ごめんね。」


「そっか……」


日が落ちるにつれ、どんどん影が伸びていく。

私は待つよ。だから、ゆっくりでいいから……


「東堂さんに、僕のこと……話してもいい?」


「うん。」


また、少しの沈黙。

視線は合わないけど、心はちゃんと私に向いてくれてる。心の声は聞こえないけどわかる。そして……




「僕ね……心の声が聞こえたんだ。」



「えっ……えーっ!?」


どんな話でも受け止めるって心に決めてたけど、想定の斜め上すぎて……

ということは、もしかして私の心の声も全部聞こえちゃってるの!?月斗君に対する想いも!?


「大丈夫だよ。言ったでしょ、『聞こえてた』って。もう聞こえてないから。

でも、そんなに焦るってことは、知られたらまずいことでもあるのかな?」


「べ、別にそんなのないよ!」


「そっか。」と彼は穏やかに笑う。こんなに柔らかい表情、初めて見たかも。


「僕の能力にいち早く気づいた父さんは、すごく喜んだんだ。相手の心を読めるなんて、政治家にとっては喉から手が出るほど欲しい力だからね。いろんな場所に連れて行かれて、いろんなことを聞いたよ。」


「うん。」


「正直、政治家同士の話なんて小さい頃の僕にはわからなかったし、何より聞いたことを伝えるだけで父さんは喜んで褒めてくれたから……僕はそれが嬉しかったんだ。」


「そっか……」


今とは真逆のお父さんとの関係。でも……


「でもね……僕のことを邪魔に思う人もいたんだ。兄さん達だ。」


「……。」


何も言えなかった。

だって、想像してたから。その先のことも……


「兄達はなんでもできた。それに加えて努力もしていた。なのに、何もせず生まれつきの能力だけで父さんに認められる僕のことが嫌いだったんだ。だから……」


「いじめられた。」


彼は小さく頷いた。


一定数の人達と上手に付き合うことで……良い子でいるだけで、その他の一定数の人達から嫌われる……ねたまれる……


ましてやそれが生まれ持った能力のおかげだと知られていたら……


けれど、彼の場合は仕方なかったんだと思う。だって、そうしなきゃお父さんに見てもらえなかったのだから。


「殴られたり、蹴られたり……悪口を言われたりするのもきつかったけど、一番きつかったのは心の声でも同じように言われること。本心から『嫌いだ。』『邪魔だ。』って思われるのは、さすがに辛くて……徐々に心を閉ざすようになった。

そしたらさ、段々心の声が聞こえなくなってきたんだ。」


もうその先は聞きたくない。辛すぎて、苦しくて、悲しくて……



でも、受け止めるって決めたから……



「心の声が聞こえなくなるにつれ、父さんの僕に対する興味もなくなっていって……

最後に聞こえたのは、


『出来損ない。』


父さんの心の声だった。小3の時だったかな。」


実の父親に本心から『出来損ない』と言われる……心を閉じるには十分すぎる理由。

自分のことじゃないのに……月斗君はもっと辛いはずなのに……


「ごめん……私が泣いちゃだめなのに……ごめんね……」


「ううん……僕はもう泣けないから、東堂さんが代わりに泣いてくれて、なんだかちょっとすっきりした。」


涙があふれすぎて話すことができない私を、彼は隣で静かに見守ってくれた。



きっと月斗君は、お父さんに認めてもらいたいんだ。


特別な力じゃなくて、月斗君自身のことを。



「ねぇ、月斗君。卒業式で、お父さんに伝えようよ。月斗君が頑張ってること。」


「僕の頑張りなんて、兄さん達に比べたら……」


「頑張りは人と比べるものじゃない。

勉強も、運動も、日々の生活も……月斗君、頑張ってるよ。私、1年間見てきたもん。」


今日初めてぴたりと目線が合った。私は心の底から言葉を紡ぐ。



「きっとわかってくれるよ。だって……親子だもん。」


「……ありがとう、東堂さん。」



この言葉が正しかったのかはわからない。彼の閉ざされた心の声を、私は聞くことができないから。




でも……だからこそ、本心からの言葉を伝えることができたんだ。









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