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「白い光の中に、山並みはもえてー。」
6年生を送る会も終わり、いよいよ卒業式練習が始まった。家でも音楽室でも何度も弾いた曲だけど、やっぱり体育館で弾くと全然違う。
すごく卒業を意識させられる。
「この広い。」「この広い。」「「大空にー。」」
やばい……泣きそう。今からこんなじゃ、本番どうなっちゃうんだろう。先が思いやられる。
「練習1回目で完璧……さすが東堂さんですね。素晴らしいです。」
みんなの前で音楽の先生に褒められ、顔がほてる。
ふと朝田さんと目が合った。みんなと変わらず拍手している。
『4月から憧れの中学校!早く卒業したいなー!!』
うん、本当に本当に、合格してくれてよかった。
続いて、証書授与の練習に入る。うちの学校は、呼名に対し返事と一言言うスタイル。
「東堂凛花!!」
「はい!!中学校でも、ピアノを頑張ります!!」
と、こんな感じ。先生達は恐い顔で見てるし、声が小さいと止められてもう一度になるから、緊張感がやばい。これが嫌で欠席する子もいるらしいし。
「無田月斗!!」
「はい!……」
返事は、いつもよりは大きな声……なんだけど、一言がない?
「東堂さん、一歩下がって礼。」
校長先生役の先生に声をかけられ我に帰る。慌てて下がって礼をし振り向く。
『なんで一言なかったの?』
『月斗、こういうミスほとんどしないのに、珍しい。』
いや、多分これはミスじゃない。
彼は一言以外は完璧に証書授与をこなし、何事もなかったかのように壇上から降りていった。
その後は特に大きなトラブルもなく、卒業式練習は終わった。
みんなが各々、給食準備やパイプいすの片付けをする中、私はピアノの片付けを行う。
「なんで言わなかったんだ?」
あれ、この声は……
舞台袖から聞こえてくる声に、いけないとわかりつつ聞き耳を立ててしまう。
「何を言えばいいのかわからなくて……」
やっぱり無田君だ。怒ったり戸惑ったりする先生達の心の声の中に、感じるのはもやもやした気持ち。
「そんなに悩む必要はないのよ。ただ、自分が将来に向けて言いたいことを言えばいいの。」
それは違うと思う。
私達子供だって、卒業式がどれだけ大切な行事かはわかってるつもり。だから、いつもはちょっとやんちゃしてる子達だって頑張ってる。
それに、本番はお父さんお母さん……家族だって見にくるんだ。悩まないわけがない。
黙りこくる無田君。痺れを切らした教務主任の先生が、彼が一番気にしていることに触れてしまった。
「親御さんも、無田の晴れ姿を楽しみにしてるはずだぞ。だから頑張れ。」
「どうせ見に来ないし……」
今度は先生達が黙りこくる番だった。
帰り道。
私はなんて声をかければいいんだろう。どの言葉も地雷を踏みそうで……というか、そもそもなんで知ってる?ってなりそうだし。
「ねぇ、東堂さん。話、聞いてたでしょ。」
「ふぇ!?な、なんのこと?」
ばれてる!?なんで?どうして??
「動揺しすぎだよ。それに東堂さん、僕の方から見えてたし。」
「……ごめんなさい。」
全力で謝罪する私に、「まぁ、いいけど。」と一言。
歩調が徐々に遅くなり、止まった。
「どうすればいいと思う?本当に、言いたいことがないんだ。」
彼のこんなに悩んでる姿を見るのは、初めてかもしれない。
頼られてる。だから、応えたい。
でも……心の声が聞こえないから、月斗君の欲しい言葉がわからない……
「そんなに簡単に…決められないよね。」
こんな当たり前のことしか言えない自分が情けないよ。
私の言葉に小さく頷くと、また歩き出す。斜め後ろをついていく。
「明日が来なければいいのに。」
何も言えない私の代わりに、リーンと叶鈴守が鳴った。
次の日、月斗君は学校に来なかった。




