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あれから1週間、日向ちゃんは休み続けた。


トイレに呼ばれるようなことは無くなったけど、横を通るたびに悪口を言われるし、私に話しかける子もほとんどいない。

先生は今の状況に気づいていないと思う。そのくらいうまくいじめられていた。


修学旅行後、無田君とは一度も一緒に下校していないし、話してもいない。


当たり前か。基本私から話しかけていたんだし。



そして月曜日。


「おはよー。」


日向ちゃんが登校してきた。目立たず、静かにって感じで教室に入ってきたけど、案の定女の子達に囲まれる。


「大丈夫?」「心配してたんだよ?」


温かい言葉が溢れる教室で、息をひそめながら朝の準備を進めた。



私は空気だった。



後で心の声を聞いて分かったことだけど、日向ちゃんの欠席は、インフルエンザによるものだった。

私に対しては、『無田君との関係性は教えて欲しかったな。』という思いはあったものの、怒ってはいなかった。むしろ、こんなことになってしまい、申し訳ない気持ちの方が大きかったみたい。



「よーしそれじゃあ、今日は大事な連絡をするぞ。卒業式のピアノ伴奏者についてだ。」


ドキリ。心臓が震える。こんな時に……


「1月の初めにオーディションをするから、やりたいと思ってる人は手をあげてくれ。

わかってると思うが、学年の代表だからな。日頃の生活も踏まえて、自分がふさわしいか考えるんだぞー。」


先生の最後の言葉に教室がざわめく。ちらちら私の方を見る子達もいる。


やりたいし、合格する自信もある。でも……


こんな状況で立候補なんて……



ビシッと挙手をしたのは、朝田さん。


「受験も大変なのに、さすがだな。朝田以外にいないか?」


『今回は私の一人勝ちね。この状況で東堂さんが立候補できるわけないんだから。』


ぎゅっと机の下で拳を握る。


悔しいよ……

目に涙が溜まっていくのがわかる。



「いなさそうだな。じゃあ、うちのクラスからは……」


「はい。」


先生の言葉をさえぎり手を挙げたのは……無田君?


「無田?お前ピアノ弾けたっけ?」


「いや、そうじゃなくて。なんで東堂さんが立候補しないんですか?」


さわついていた教室が水を打ったようにシーンと静まり返る。

心の声すらも聞こえない。


「まぁ、本人が立候補してないからなぁ。」


「でも、この学年で一番ピアノが上手いのは東堂さんです。」



ぽとぽと。涙が机の上に落ちる。

慌てて手の甲でぬぐうけど、止まらず溢れ出てしまう。


なんで……なんで……



「先生の言う通りよ!東堂さんが立候補してないんだから、無田君が言うことじゃないでしょ!!」


朝田さんが無田君の言葉に噛みつき、朝田さんの友達も「そうだ、そうだ。」と声をあげる。


「東堂さんが何も言わないから黙ってたけど……こういう状況に追い込んだ張本人がよく言うね。」


静まり返った心の声に、2つの怒りの感情。一つは朝田さん、もう一つは……月斗君?



ガタンッ!!

いすが倒れるのも気にせず勢いよく立ち上がり、月斗君をにらみつける朝田さん。

けど、彼も一歩も引く様子はない。


そんな中、もう1人挙手する人物が……


「俺も凛花が出るべきだと思います。なんたって全国大会銀賞だし、生活面も文句なしでしょ!」


将斗君……ありがとう……


将斗君の言葉で、空気が大きく変わった。


『確かに、凛花ちゃんが出ないのはおかしいね。』

『凛花ちゃんに悪いことしちゃったな。』


私の立候補に肯定的な声で溢れかえる。

朝田さんも敏感に察したのか、苦虫を噛みつぶしたような顔で着席する。



「わかったわかった。無田も将斗も座れ。東堂、どうする?」


みんなの視線が私に集まる。

泣いてるの、ばれちゃった……


でも、そんなのどうでもいい。大好きな人と、大切な友達が背中を押してくれたんだ。こんなに心強いことはない。



「私……やりたいです。」



教室が拍手で包み込まれた。





「久しぶりだね。」


「そうだね。」


約2週間ぶりの帰り道。なんだか言葉が出てこない。


桜の葉は3分の2以上が落ちていて、残った葉っぱも赤や黄色に紅葉している。

さみしい感じもするけど……温かい。


「ありがとう、背中を押してくれて。」


やっと振り絞って出した言葉。でも、無田君はいつも通りで。


「別に、本当のことを言っただけだし。」


うん、無田君ならそう言うよね。



けどね、本当に本当に……


「ありがと。」


今度は何も言ってくれなかったし、心の声も聞こえないけど、十分優しさは伝わってくるよ。



「ねぇ、無田君……もし良かったら、クリスマスイブの日、ピアノの発表会に来てくれませんか?」


感謝の気持ち、大好きな気持ちをこめて、月斗君のために弾きたいと思ったから。


「予定、確認してみないと行けるかわかんない。」


「うん、わかった。」


本当に本当に、相変わらずだなぁ。

でも、なんでか絶対来てくれるような、そんな気がしたんだ。



リーン、リーン。

2つの叶鈴守が、心地よい音色を奏でていた。







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