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02



「さようならー。」


「今日早帰りだし、ずっとゲームできるぜ!!」


下校のチャイムが鳴り、みんな教室から飛び出していく。

心の声はほとんど聞こえない。

言ってることと思ってることが一致している証拠だ。


「凛花ちゃん、また明日ね。」


「うん、また明日。」


真美ちゃんのあいさつに返事をして、私も立ち上がる。

今日は荷物も軽いし、早帰りだし嬉しいな。

私の家、結構遠いんだよね。一緒の方向の人もほとんどいないし。


ふと、反対隣に目を向ける。無田君はゆっくり帰りの準備中。

心の声は……やっぱり聞こえない。


「無田君、じゃあね。」


「うん、じゃあね。」


私からあいさつするなんて、珍しいこともあるもんだ。

ランドセルを背負うと、教室をあとにした。



うちの学校の良いところは、桜の木がいっぱいあるところだと思う。この時期の満開は圧巻だ。

まぁ、先生達は散った花びらを掃除したり、毛虫の対応で薬を撒いたりしなきゃいけないみたいで、嫌がってるみたいだけど。


私の家は、学校から続く桜並木道の先だ。

基本一本道だから迷うことはないんだけど……やっぱり遠い。


桜の花を見ながら、時折落ちてくる花びらをつかもうと手を振る。

そんな無邪気な私の横を、スタスタスタと誰かが通り過ぎていく。


私は慌てて手を引っ込める……見られたかな?

別に子供なら誰もが一度はやったことがある遊びだし、恥ずかしいことではないんだけど……

頬が熱くなるのを感じながら、心の声に耳を傾ける。


『……』


何も聞こえない……

ということは、まさか……


「無田君?」


紫色のランドセルがピタリと止まる。その上に、桜の花びらが一枚。


「また会ったね。えーと……同じクラスの……」


えっ、名前、覚えてくれてないの?

と若干のショックを受けながら、でも今日会ったばかりだしと思い直す。


「東堂です。東堂凛花。」



少しばかりの沈黙。それは心の声も同じで……



桜の花びらを舞わせる、柔らかな風の音しか聞こえない。


「そうだ、東堂さんだったね。ごめん、名前を覚えるのが苦手で。」


「大丈夫だよ、今日初めて会ったんだから。

無田君も家、こっちなの?」


いつもなら心の声を聞きながら相手の欲しい言葉を送るんだけど、聞こえないから無性にドキドキしてしまう。


私、変なこと言ってないかな?


「うん、この道をまっすぐ。結構遠い。」


「じゃあ、私と一緒だね。」


一緒に帰ろう、なんて誘ったわけではない。

ただ、なんとなく同時に歩き始める。


そして沈黙。うぅ、空気が重たい……

でも一緒に歩き始めてしまった手前、ここで別れるというのもなんだか違う気がして。



「6年生で転校って、大変だね。」


私は思わず口を押さえる。

必死に話題を探していたら、気になっていたことが口から出てしまった。


触れられたくないことかもしれないのに……

心の声が聞こえなくて、私、おかしくなってる……


相変わらず心の声は聞こえない。代わりに返ってきたのは……


「別に……親の都合だからどうしようもないし、仲の良い友達がいたわけでもないし。」


感情を一切感じない言葉に、思わず立ち止まってしまう。



本心だから、心の声が聞こえないんだ。



でも、その本心があまりにも無機質で、私は彼のことを怖いと思ってしまった。


立ち止まった私を置いて、彼はどんどん先に進んでしまうので、慌てて小走りし、隣に並ぶ。


私が隣にきても、目線は変わらず前のまま。

前髪に隠れたその瞳に、私の姿は映っていない。


なんだかそれが寂しくて、ちょっと腹立たしくて……




「私ね……みんなの心の声が聞こえるの。」




後から思えば、なんでこんな大切なこと、初対面も同然の彼に言ってしまったんだろうって疑問に思う。


親にも、もちろん友達にも話したことのない、私だけの秘密なのに。



でも、やっぱり彼の瞳に私は映らない。心の声も聞こえない。


なんの反応もない彼に、信じるわけないかと思い直す。「冗談だよ、忘れて。」と口にしようとしたその時だった。


「じゃあさ……僕が今思ってること……分かる?」


「えっ?」


初めて視線が交わる。

その表情は、なんとも形容し難い気持ちを表していて……怒ってる?戸惑ってる?


「……ごめん。無田君の心の声は、何も聞こえない。」


正直に答えた。

だって、どんなに耳を澄ましても、彼の心の声は聞こえてこなかったから。


そんな私に対して、フッと少しだけ笑みを浮かべる無田君。




「東堂さん、すごいね。大正解だよ。


僕はね……心がないんだ。」




そして、今度は彼が立ち止まる。


「僕の家、ここだから。またね、東堂さん。」


私は何も答えられなかった。

そんな私のことは意に介さず、門を開き、中に入っていく無田君。



こんな人が、この世界にはいるんだ……



彼の背中を見送りながら、私は静かに心の中で、そうつぶやいたのだった。







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