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「それじゃあ、修学旅行はこの班で行くからな。」
「「はーい!!」」
運動会から半月、11月半ばの修学旅行に向けての準備が始まった。
6年間の学を修める旅行ということで、みんな気を引き締めて準備にあたる……と思いきや。
『夜、絶対寝ないぞー!!』
『トランプはバレなきゃいいよね。』
『絶対彼女作る!!』
『旭君と同じ班だ!最高!!』
学を修めるには程遠い心の声達。
奏ちゃんはぶれないなぁ。
「凛花は怪我がまだ治ってないだろ?俺と月斗で色々持ってくるわ。」
「ありがと。」
うちの班の男子達は頑張ってるなぁ。まぁ、将斗君は若干心の声が気になるけど。
「将斗君、優しいね。凛花ちゃんに気があるみたいだし、付き合っちゃえばいいのに。」
「えぇ!?そんなんじゃないよ。」
同じ班のさつきちゃんの言葉に、首をぶんぶん振る私。
『絶対にお似合いなのに、将斗君と凛花ちゃん。』
だから違うんだって!私が好きなのは……
「日向ちゃんは誰が好きなの?」
「えっ、私!?私は……」
自分に話を振られると思っていなかったらしく、あわあわする日向ちゃん。
顔を真っ赤にしてうつむいた後、ちらりと斜め前に視線を向ける。
その可愛らしい仕草を、さつきちゃんは見逃さなかった。
「もしかして……無田君!?」
「ん?呼んだ?」
ちょうど張本人が戻ってきたことで、今度はさつきちゃんがあわあわ。
対して日向ちゃんはさらに顔を赤く染め、ギュッと手を握りしめる。
私は……とっても複雑な気持ちだった。
だって……
「ねぇ、凛花ちゃん。ちょっといい?」
掃除が終わり一息ついていると、斜め後ろから日向ちゃんに声をかけられた。
何の話かは心の声でわかってる。
気持ちを悟られないように、笑顔、笑顔……
「どうしたの?」
「あの……凛花ちゃんって、無田君と仲良しだよね。下校も一緒みたいだし……付き合ってるの?」
日向ちゃんの心臓の音、『ドキドキドキ』って聞こえそう。
「家が近くだから一緒に帰ることはあるけど……付き合ってないよ。」
私の心臓の音は、『ドクン、ドクン』と静かに、ゆっくり。
冷静に、いつも通り、バレないように……
「そうなんだね。じゃあ……無田君のこと、好き?」
一番聞かれたくなかったこと。
「好きじゃ………ない。」
ピタリ。鼓動が……消えた。
私は嘘をついた。
だって……しょうがないじゃん……
今の私に、彼のことを好きだと言える勇気はないんだもん……
対照的に、パァッと表情が明るくなる日向ちゃん。
彼女の鼓動が跳ね上がる。
「そっかぁ、よかった!
凛花ちゃん相手じゃ、諦めるしかないもん。」
「そんなことないよ。日向ちゃん、かわいいし。」
好きな人を好きって言える強さもあるし……
嘘つきな私とは正反対だ……
「じゃあさ……協力してもらってもいい?
凛花ちゃんと無田君、仲良しだからいろいろ聞けるでしょ?」
「うん……もちろん!」
心の声は、聞こえない。全部本心なんだ。
日向ちゃんの純粋な言葉に、私は同意するしかなかった。
「ねぇ、無田君……好きな人って、いる?」
桜の葉はところどころ黄色く染まり、道には落ちた葉が積もり始めている。
「急に何でそんなこと聞くの?」
彼はけげんな顔をする。
そりゃそうだよね。ごもっともな解答だ。
でも、正しい切り出し方なんてわからないし……
私は何も答えない。無田君も前に向き直る。
答えてくれないかな?
まぁ、それならそれでいい。日向ちゃんには教えてくれなかったと伝えよう。
「好きな人は……いるよ。」
「えっ、いるの!?誰?」
想定外すぎて立ち止まってしまう。
正直、「いない。」って言われることを恐れてた。4月から半年一緒に過ごしてきて、私はこんなに好きなのに、無田君は何とも思ってないということを知るのが怖かった。
そして99%そう言われると思ってた。
だから……
「聞いたの東堂さんじゃん。そんなに驚かなくても。」
私の顔をじっと見つめ、言葉を続ける。
「心の声は、聞こえないの?」
「うん。」
こういう会話……恋話の時って、絶対に心の声が聞こえるのに、やっぱり彼の声は聞こえない。
「そっか……じゃあ、秘密。」
その後、無田君は何も答えてくれなかった。
ううん、そうじゃない。
私が何も聞かなかったんだ。
日向ちゃんは、月斗君が好き。
月斗君は、誰かのことが好き。
私は……月斗君が好き。でも、日向ちゃんを応援するって言っちゃった……
これからどうしよう……
修学旅行を前に、もやもやは膨らむばかりだ。




