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ずっと続いていた猛暑がようやく落ち着き、清々しい秋晴れの中、私達の最後の運動会の日がやってきた。

いろいろな事情があって、今では半日と短縮されてしまったけど、盛り上がりは以前と変わらないと思う。


「私達の学年、毎年赤組が優勝してるからね。今年こそは絶対に白組が優勝しよう!!」


いつも体育とかどうでもいいと、口でも心の声でも言ってる香澄ちゃんですら、このテンション。

でも、そういういつもと違うテンションがなんだか心地良い。


「頑張ろうね!!」


私も柄にもなく拳をギュッと握りしめた。



前半の競技は、まずまずの出来。

徒競走は陸上部のエースの子と一緒になってしまい2位だったけど、綱引きは白組が圧勝した。

185対120で、大きくリードしたまま前半を折り返す。


しかし後半、他学年の赤組が団体種目で連勝を重ね、265対258と7点差まで追い上げられてしまう。

勝負は、選抜リレーに持ち越された。



入場中、お父さんとお母さんの姿が目に入った。2人とも心配そうな顔をしている。


でも、それは勝負を決する重要な競技だから……というわけじゃない。


『凛花、本当に怪我だけはしないでくれよ。ピアノのコンクールが近いんだからな。』


「はぁ……」


夏休みのコンクールで私は優秀な成績を収めることができ、結果、更に大きなコンクールに出場することが決まった。


だから、こんな思い出作りでしかなく、先のない行事でけがでもしたら……というのがお父さん達の気持ち。



確かにその考えはわかるよ。わかるけど……


私にとっては運動会だって同じくらい大切なんだ。


だから……心から応援してほしかった。



後から思えば、この時にはもう集中力が切れていたんだと思う。


「凛花、出ろ!!」

『何やってんだ、早くしろ!!』


大希君の声で我に帰る。

やばい、スタート遅れた。


バトンパスがつまり、1位から2位に落ちる。

でも、まだ追いつけるはず!


いつもより一生懸命腕を振る、足を前に出す……それが良くなかった。

頑張りすぎた私は、遠心力によりコーナーの外側に引っ張られる。


それに抗おうとした次の瞬間……



ズキン!!


左足が悲鳴をあげた。肉離れだった。



幸いにもアドレナリンのおかげで痛みはそれほどなかった。

けど、うまく足が前に出ない……


「ご……ごめん……」


私は最後の力を振り絞り、無田君にバトンを渡す。



あんなに練習したのに……なんで……



そしてそのまま倒れた。



いつの間にか、順位は最下位だった。





「凛花、大丈夫?

とりあえずこの後の競技は休むのよ。終わったらすぐに病院に行くからね。」


『だから言ったでしょ!コンクールも近いのに怪我なんて……全く、運動会なんてろくでもないわ!』


「……ごめんなさい、心配かけて……」


私はグッと唇をかみしめる。


頑張ってきたものを発揮できなかったこと……

そのせいで、運動会をろくでもないものだと思わせてしまったこと……


悔しさが込み上げてくる。



お母さんが救護室から出ていった後、聞こえてきたのは容赦ない心の声の数々。


『リレー、1位だったら白組優勝だったのにね。』



そんなこと……わかってるよ。



『あそこでけがって……みんな言わないけど、正直ないよな。』



けがしたくてしたんじゃない……


勝ちたかったから、放課後だって休み時間だってあんなに頑張ったのに……



頑張りを評価してほしいわけじゃない。


でも……何も知らずにただただ責められるのは辛いよ……



けどね、一番辛いのは……



「表現……やりたかったなぁ。」


「そんな足でできるわけないでしょ。」


ビクッ!誰!?

恐る恐る後ろを振り返る。



「無田君……」



嘘……誰かなんて、声でわかってた。


ただ、何を言われるかわからなくて……

怖くて……



「バトンパス、うまかったよ。」


「でも……私のせいで負けちゃった。」


「東堂さんが頑張ってたの、僕は知ってる。」


かぁっと目頭が熱くなる。

一番欲しかった言葉を、無田君が言ってくれるなんて。


でも、恥ずかしくて顔を上げられない。

お礼、言いたいのに……



「間もなく最終競技、プログラムNo.24、6年生による表現、『未来へ』です。6年生は、入場位置に移動してください。」


放送がかかった、招集の時間だ。


けれど、彼は動かない。


「あの……無田君、召集……」


「東堂さん、フラッグ貸して。」


「えっ!?」


言われるがままに自分のフラッグを差し出すと、代わりに彼のフラッグを渡される。



「行ってくるね。」

『東堂さんの分まで、頑張ってくる。

だから、ちゃんと見ててね。』



そして、無田君は行ってしまった。

放心状態の私を置いて。



演技が始まった。

無田君は……正直、やっぱり上手には程遠い。

でも……一生懸命頑張ってる。

あんなに嫌がってた表現を、息を切らしながら、必死に……


そんな姿を見ていたら、なんだか涙が止まらなくて。



月斗君……ちゃんと心の声、聞こえたよ。




ありがとう……大好きだよ。










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