18
ずっと続いていた猛暑がようやく落ち着き、清々しい秋晴れの中、私達の最後の運動会の日がやってきた。
いろいろな事情があって、今では半日と短縮されてしまったけど、盛り上がりは以前と変わらないと思う。
「私達の学年、毎年赤組が優勝してるからね。今年こそは絶対に白組が優勝しよう!!」
いつも体育とかどうでもいいと、口でも心の声でも言ってる香澄ちゃんですら、このテンション。
でも、そういういつもと違うテンションがなんだか心地良い。
「頑張ろうね!!」
私も柄にもなく拳をギュッと握りしめた。
前半の競技は、まずまずの出来。
徒競走は陸上部のエースの子と一緒になってしまい2位だったけど、綱引きは白組が圧勝した。
185対120で、大きくリードしたまま前半を折り返す。
しかし後半、他学年の赤組が団体種目で連勝を重ね、265対258と7点差まで追い上げられてしまう。
勝負は、選抜リレーに持ち越された。
入場中、お父さんとお母さんの姿が目に入った。2人とも心配そうな顔をしている。
でも、それは勝負を決する重要な競技だから……というわけじゃない。
『凛花、本当に怪我だけはしないでくれよ。ピアノのコンクールが近いんだからな。』
「はぁ……」
夏休みのコンクールで私は優秀な成績を収めることができ、結果、更に大きなコンクールに出場することが決まった。
だから、こんな思い出作りでしかなく、先のない行事でけがでもしたら……というのがお父さん達の気持ち。
確かにその考えはわかるよ。わかるけど……
私にとっては運動会だって同じくらい大切なんだ。
だから……心から応援してほしかった。
後から思えば、この時にはもう集中力が切れていたんだと思う。
「凛花、出ろ!!」
『何やってんだ、早くしろ!!』
大希君の声で我に帰る。
やばい、スタート遅れた。
バトンパスがつまり、1位から2位に落ちる。
でも、まだ追いつけるはず!
いつもより一生懸命腕を振る、足を前に出す……それが良くなかった。
頑張りすぎた私は、遠心力によりコーナーの外側に引っ張られる。
それに抗おうとした次の瞬間……
ズキン!!
左足が悲鳴をあげた。肉離れだった。
幸いにもアドレナリンのおかげで痛みはそれほどなかった。
けど、うまく足が前に出ない……
「ご……ごめん……」
私は最後の力を振り絞り、無田君にバトンを渡す。
あんなに練習したのに……なんで……
そしてそのまま倒れた。
いつの間にか、順位は最下位だった。
「凛花、大丈夫?
とりあえずこの後の競技は休むのよ。終わったらすぐに病院に行くからね。」
『だから言ったでしょ!コンクールも近いのに怪我なんて……全く、運動会なんてろくでもないわ!』
「……ごめんなさい、心配かけて……」
私はグッと唇をかみしめる。
頑張ってきたものを発揮できなかったこと……
そのせいで、運動会をろくでもないものだと思わせてしまったこと……
悔しさが込み上げてくる。
お母さんが救護室から出ていった後、聞こえてきたのは容赦ない心の声の数々。
『リレー、1位だったら白組優勝だったのにね。』
そんなこと……わかってるよ。
『あそこでけがって……みんな言わないけど、正直ないよな。』
けがしたくてしたんじゃない……
勝ちたかったから、放課後だって休み時間だってあんなに頑張ったのに……
頑張りを評価してほしいわけじゃない。
でも……何も知らずにただただ責められるのは辛いよ……
けどね、一番辛いのは……
「表現……やりたかったなぁ。」
「そんな足でできるわけないでしょ。」
ビクッ!誰!?
恐る恐る後ろを振り返る。
「無田君……」
嘘……誰かなんて、声でわかってた。
ただ、何を言われるかわからなくて……
怖くて……
「バトンパス、うまかったよ。」
「でも……私のせいで負けちゃった。」
「東堂さんが頑張ってたの、僕は知ってる。」
かぁっと目頭が熱くなる。
一番欲しかった言葉を、無田君が言ってくれるなんて。
でも、恥ずかしくて顔を上げられない。
お礼、言いたいのに……
「間もなく最終競技、プログラムNo.24、6年生による表現、『未来へ』です。6年生は、入場位置に移動してください。」
放送がかかった、招集の時間だ。
けれど、彼は動かない。
「あの……無田君、召集……」
「東堂さん、フラッグ貸して。」
「えっ!?」
言われるがままに自分のフラッグを差し出すと、代わりに彼のフラッグを渡される。
「行ってくるね。」
『東堂さんの分まで、頑張ってくる。
だから、ちゃんと見ててね。』
そして、無田君は行ってしまった。
放心状態の私を置いて。
演技が始まった。
無田君は……正直、やっぱり上手には程遠い。
でも……一生懸命頑張ってる。
あんなに嫌がってた表現を、息を切らしながら、必死に……
そんな姿を見ていたら、なんだか涙が止まらなくて。
月斗君……ちゃんと心の声、聞こえたよ。
ありがとう……大好きだよ。




