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「えーと…無田君、ダンス苦手?」
「ダンスなんて、踊れなくても困らないし……だから運動会は好きじゃないんだよ。」
相変わらず彼の心の声は聞こえない。
ということは、この言葉は心の底から思っていることだということ。
なかなかに重症だぞ、これは……
私は運動会の良さを熱弁するけど、全く共感する素振りはない。
しまいには、「東堂さんって、本当に教室にいる時とキャラが違うよね。」と言われる始末。
今回のこれは、要するに「うるさいよ。」という意味だろう。でも、負けられない。
小学校生活最後の運動会。どうにかして楽しんでもらいたい!こうなったら……
「じゃあさ、放課後一緒に練習しようよ。」
私から男の子を誘うなんて……一生分の勇気を振り絞った渾身の一撃。
「嫌だ。」
を、呆気なく撃ち落とされてしまった……
いや、まだよ凛花。諦めるのはまだ早いわ!
「じゃ、じゃあさ、リレーの練習もするのはどう?
ほら、私たち、選抜リレーでバトンを繋ぐでしょ?だから、練習したいなぁと思って……」
じっと冷たい視線を送られて、最後の言葉がしりすぼみになってしまう。
だめかーと肩を落とす私を見て、無田君が大きなため息をついた。
「……わかったよ、練習付き合うよ。でも、いくらやってもうまくはならないと思うよ。」
「えっ、本当?やった!嬉しい!!」
大逆転勝利に、思わず飛び上がってしまった。
そんな私のあられもない姿を見て、「本当に、キャラ、違うよね。」と呟くのであった。
「無田君って、基本何でもできるのに、どうしてダンスは苦手なの?」
まだまだ暑い9月の中旬。通しで一回踊ってみた後、ベンチで一旦休憩タイム。
無田君と私の家のちょうど真ん中あたりにある公園は、私が初めて自転車に乗れた思い出深い場所だ。
無田君も、練習のかいあってだいぶ踊れるようになったけど……
結構練習してるのに、そこまで上手にならないのが意外すぎて、ど直球に聞いてしまった。
出会った頃は、心が読めなくてあんなにビクビクしてたのに……人は成長?するものだ。
「東堂さんってさ、僕に対してなんだか失礼だよね……
まぁいいや。正直に言うと、苦手……っていうより、今までちゃんとやってこなかったの方が正しいかも。」
「つまり……さぼってたってこと?」
「やっぱり失礼だね。」と苦笑いを浮かべながら頷く。
「ダンスってさ、基本親に見せるものじゃん。でも、うちの親は運動会、観に来ないから。
やっても無駄かなって。」
ズキっと心が痛む。校外学習の時のお父さんの姿が頭に浮かぶ。
「お母さんは?」
「母さんは父さんの秘書だからね。
そもそも2人共ほとんど家にいないし。僕が体調崩しても、家には帰ってこないし。」
家事全般は、ほとんどお手伝いさんがやってくれているらしい。
無田君は……やっぱり何も思ってないみたいだけど、でも、それって……すごく寂しいと思う。
頑張っても見てもらえず、辛い時もそばにいてくれないなんて……
そこで、夏休みの一幕が思い起こされる。
もしかして、連絡先を交換してくれたのって……
あの時、私、一人だったから……
「そろそろ休憩は終わりにしよう。東堂さんのバトンパスもまだまだだからね。」
「それは何も言えない……ご教授、よろしくお願いします。」
彼の何気ない優しさに気づき、温かい気持ちになりながら、私は勢いよくベンチから立ち上がった。
運動会まであと少し、頑張ろう!!




