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「それじゃあ、本当に気をつけてね。何かあったらすぐに連絡するのよ。」
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。お父さんと楽しんできてね。いってらっしゃい!」
お父さんとお母さんは、今日から一泊二日の夫婦旅行。私はお留守番だ。
行きたい気持ちもちょっとはあったけど、いつも頑張ってる2人にゆっくりしてもらいたくて、私は自ら辞退した。
「まぁ、明日の夜には帰ってくるし、私ももう6年生だしね。」
誰に聞かせるでもない言葉は、がらんとしたリビングに響き渡った。
「さてと……」
私はスマホを開き、メッセージを打つ。
『返事遅くなっちゃってごめん。ちょっと体調が良くなくて、お祭りには行けなさそうです。ごめんね。』
本当は体調は悪くない。でも、傷つけずに断る理由がこれしか思いつかなくて……嘘ついてごめんなさい。
3回見返した後、送信ボタンを押した。
「明日、何して過ごそうかな……」
外の並木道を見ると、屋台の準備が少しずつ始まっていた。
次の日。
なんだか体がだるいなぁと思っていたら、まさかの38度5分……
嘘をついたバチが当たったかな、なんて。
まぁ、どうせ今日のお祭りには行けないし、家でゆっくりしよう。
とりあえず解熱剤を飲み、布団をかぶってぼーっと天井を見上げてると、次第に視界がぐるぐるぐるぐる……
はぁ、もしあの時、月斗君とお祭りに行きたいって言ってたら、どうなってたのかな……
そんなことを考えながら、私は再び深い眠りに落ちた。
なんとも言えない心細さを抱えながら。
『ピーンポーン。』
インターホンの音で目を覚ます。
外はもう薄暗くなっており、時計の針は18時を指している。よく寝たなぁ。
体は依然としてだるいけど、朝よりはマシな気がする。目を擦って、大きく伸びをする。
『ピーンポーン。』
「あっ、そうだった。」
お母さん達がちょっと早めに帰ってきたのかな、なんて考えながら、ドアを開ける。
「はーい。」
「こんばんは、東堂さん。インターホンも出ずにドアを開けるのは、ちょっと危ないよ。」
えっ……無田君!?
私の頭は一気に覚醒。
と同時に、今の危機的な状況に気づく。
髪はボサボサ、パジャマ姿、しかも熱で汗だくときた……
年頃の女子として、これは終わってる。
「ちょっと待ってて!!」
ドアを閉め、急いで必要最低限の身だしなみを整える。「もー、なんで急に来るのよ!」と何度も何度も呟きながら。
「はぁ、はぁ、ごめん……お待たせ……」
「うん、大丈夫だけど……大丈夫?」
「うん、なんとかね……
それで、どうしたの?こんな時間に。」
服装は甚平……お祭りに行ってたんだろうけど、無田君ってこういうの着るんだ。意外だ。
「将斗から東堂さんが体調崩したって聞いたから……はい。」
差し出されたのは……りんご飴。
「お見舞い。体調どう?」
「えっ……あっ、朝よりは……じゃなくて、昨日よりは良くなったよ。心配してくれてありがとう。」
なんだかびっくりして、うまく話せない。
とりあえずりんご飴を受け取る。ずっしり重たい真っ赤なりんご飴。
今年は食べれないと思ってたのに……
「ねぇ、お家の人はいないの?」
「うん、旅行に行ってて。夜には帰ってくるんだけどね。」
あれ?今一瞬表情が曇った?
でも、心の声は聞こえないし、気のせい?
「スマホ、ある?連絡先、交換しよう。」
「えっ!?うん、いいけど。」
急な申し出にあらがえず、勢いのまま連絡先を交換する。
「これでよし。東堂さん、何かあったら連絡して。約束だよ。」
「うん……わかった。」
私の言葉に頷くと、「それじゃあ、お大事に。」とだけ言い残し、お祭りの波の中へ消えていった。
このやりとりが、無田君の優しさであることに気づくのは、まだまだ先の話。
でも、なんだかポカポカするなぁ……熱、まだありそう。
私は部屋に戻ると、りんご飴を机の上に立てかけ、スマホを握りしめながら再び眠りに落ちた。
不思議と心細さは、もう感じなかった。




