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「あれ、東堂さん……どうしたの?」
「ちょっと遅くなっちゃって……」
いつもの並木道。私達は、久しぶりにここで顔を合わせ、歩き出す。
雨は朝ほど強くはないけど、依然として傘を濡らしている。
「ごめん……」
私は何に対して謝ったんだろう……盗み聞きしたこと?
それとも、校外学習から無田君のことを避けてたこと?
……どっちもか。
私の謝罪に対し、ちらりと彼が私の方を見る。
「聞いてたんだね。泣いてたの?」
「だって……悲しくて……」
腫れ上がった目元を手で覆う。そんな私に、「東堂さんが言われたわけじゃないのに。」と無田君。
その後、沈黙。
最近少なくなってきたのにと思い、同時に気づく。
私が話してただけだ。
なんだかそう思うとおかしくなってきて、クスリと笑う私。彼は不思議そうな顔を向け、また前を向く。
「あれは……ないよね。」
「うん……大人でも、ああいう人っているんだね。」
「でもさ……ちょっとだけすごいなって思うところもあったんだ。」
「えっ?」
想定外の言葉に、立ち止まってしまう。
だって、あんなひどいことを平気で子供たちに言う人がすごいって……
無田君は私の2歩先で止まり、振り向く。
「だってさ……うちの親だったら、僕のためにあんなに必死にならないだろうから。」
胸がギュッと掴まれたように苦しくなる。
議員食堂での一幕がフラッシュバックされる。
「東堂さん、父さんの心の声、聞いたよね?
それで僕のこと、ちょっと避けてたんでしょ。」
完全に心を読まれ、あわわと口をぱくぱく。
私の専売特許なのに……
そんなパニック状態の私を見て少し笑う無田君。
「父さんが僕のことをどう思ってるか、直接言われたことがあるから知ってる。
心の声が聞こえなくても分かるよ。」
何も言えない……あまりにも切なすぎて。
無田君の言葉も、その乾いた笑顔も。
彼は前を向くと、いつものペースで歩き出す。
「だから、親を呼ぶって言われた時、嫌だった。こんな内容で呼ばれたら、今以上に幻滅される。」
あの悲痛な心の声が、耳に残って離れない。
苦しすぎる……悲しすぎる……
「無田君は……頑張ってるよ。」
そんな私から漏れ出した言葉は、よく使われている言葉だった。
でも、その言葉は、彼にとっては予想外だったようで。
「うわっ……」「大丈夫!?」
何もないところでつまづき、転びそうになった彼の腕を掴んだ。
2つの傘が、道に転がる。
「ごめん、東堂さん……ありがとう。」
その「ありがとう。」が、何に対しての感謝なのかは、心の声が聞こえないからよく分からなかった。
でも、無表情な彼の顔が、心なしか柔らかくなったような気がしたんだ。
傘を拾って、歩き出す。
今度はちゃんと隣に並ぶ。
「でもさ……やっぱりむかついた。あのファザコンとモンペ、うざすぎる。」
無田君の言葉があまりにもらしくなくて、私は吹き出してしまう。
「あはは、無田君もそんなこと言うんだね。」
「そりゃ言うよ。むかつくものはむかつくもん。だってさ……」
それから2人で悪口大会。
悪口は良くないってことは分かってるけど、今日だけは許してほしい。
この日、私たちの心は、少しだけ近づいたような、そんな気がした。




