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「はぁ……」
帰り道、雨で濡れた桜の葉の下を、とぼとぼと歩く。
校外学習から早1週間。
あれから、無田君とは、一度も下校できていない。
ううん、違う……私が避けてる。
だって……もし無田君に、あの時のお父さんの心の声のことを聞かれたらと思うと……
はぁ……
今度は心の中でため息。
梅雨空のように、私の気持ちもどんよりだ。
「そういえば、無田君って友達増えたよね。」
校外学習から同じ班になった香澄ちゃんが、絶賛朝の準備中の私に急に話を振ってくる。
「確かに……増えたね、友達。」
今気づいたフリしてみたけど、実はだいぶ前から気づいてた。
陸上大会くらいからかな。その頃から、男子達にすっかり認められたようで。
最近は奏ちゃんの推しの旭君、スポーツ大好き将斗君、元気印で若干トラブルメーカーの大希君と一緒にいることが多いみたい。
勝手に引き込まれた感も否めないけど、それでも話にはちゃんと参加してるみたいだし、よかったよかった。
よく見てるなって我ながら思うけど、気になるってそういうことなんだと思う。
いつの間にか、目で追ってるんだよね。
「そういえば凛花ちゃん、校外学習で聞きそびれちゃったんだけど、凛花ちゃんと無田君って……」
「あっ、私ちょっと委員会の仕事に行かなきゃ!」
「またー??」
危ない危ない、またそっちの話に持ち込まれるところだった。
言葉でも心の声でもブーブー言う香澄ちゃん達を置いて、私は速やかに教室を後にした。
その後すぐ、大変なことが起きるなんてつゆ知らず。
委員会の朝の仕事を済ませ教室へ戻ってくると、先程までとは打って変わり、不穏な雰囲気。
机は荒れ、教室の真ん中には大希君と晶君。
一触即発の状態の2人を、先生が止めている。
『晶の勘違い正義感じゃん。めんどくさ。』
『大希、手出すなよ。晶、こうなると大変なんだから……』
よく見ると、2人の顔には引っかき傷のようなものがある。
その後、学年主任の先生も駆けつけ、関わった晶君と大希君、奏ちゃん、旭君、将斗君、そして無田君が教室の外へ連れて行かれた。
1時間目は自習となった。
「何があったの?」
「実は……」
香澄ちゃんの話を要約すると……
大希君達4人が奏ちゃんとじゃれあっていたところ、それをいじめてると勘違いして晶君が止めに入ったらしい。
奏ちゃんも含め、遊んでただけだと説明したけれど晶君は納得せず、イライラした大希君が、「お前相変わらず面倒臭いやつだな。」と言ってしまい、大喧嘩に……
止めようとした旭君達も加勢してきたと判断され、「一対複数なんて卑怯だぞ!!」と爆発したところをようやく先生に止められたという経緯だった。
「何事もなく終わればいいけど……晶君がからむと、問題が大きくなりがちだし……」
「うん……心配だね。」
結局1時間目は丸々自習となり、6人が帰ってきたのは2時間目だった。
一応はお互い謝って、解決したみたいだけど……
『あいつらまじ許さねー。父さんに言ってやる。』
晶君の心の声を、私は聞き漏らさなかった。




