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運動が苦手だった剣術師範の高校生、真剣勝負で成り上がる  作者:


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再戦

「ここで立ち会っていただきます」


 正宗の名刀とマヨイガを、背負ってきた刀袋から取り出しながら葵さんは言った。


 いきなりの展開に、中島さんもアレクシアも、広田も目を白黒させている。


「どうしたんですか、葵さん」


「ずいぶんと急ですネ。アポもなしとは、ビジネスの世界では門前払いですヨ」


 戸惑う中島さんに、ニヤニヤと笑うアレクシア。広田はただ大口を開けて呆けていた。


 この中で一番葵さんとの接点が少なく、心の中で神格化された面が大きいのだろう。


「なんでいきなり…… しかもこんな場所で」


「納得がいかないからです」


 僕の言葉を、紺色の道着に身を包んだ葵さんはぴしゃりと遮った。ポニーテールが、心なしきつめに結ばれている。


「明らかにあなたが勝っていた。にもかかわらず勝者は私、こんな屈辱的なことがありますか」


「四菱の人間から、話を聞いたのですカ」


 アレクシアがゆっくりと、だけど真剣に告げる。葵さんを侮蔑していない表情を、僕は初めて見た。


 だがその表情は、すぐにあからさまな嘲笑にとってかわられる。


「技術屋に真剣勝負をうんぬん言う資格など、ないでしょう」


 中島さんが軽く腰を浮かせかけたが、アレクシアがそれを止めた。


「大男、総身に知恵が回りかね、などと言いますガ。小柄な女子ながら、アオイ。あなたはバカですネ」


「どういう意味ですか。それともあなたが、立ち会うとでもいうのですか」


「いえいえ、まだ気づくどころか察してもいないのデ。哀れに思えてきたのでス」


「戯言を……」


 葵さんは政宗の名刀を腰に差し、マヨイガを手首に巻いた。


「ここならば邪魔は入りません。正々堂々、勝負です」


鞘に施された螺鈿の装飾と貝の真珠質の部分。聖演舞祭りの興奮が、鮮やかによみがえってくる。


「わかった。やろう」


 腹が決まると同時に、意識せずともそう口にしていた。


「柳生くん?」


「ソウタ?」


「おい、お前……」


 僕は聖演舞祭で使ったため、刃こぼれしたままの柳生流の刀を取り出す。


「確かにあの時はアクシデントがあった」


 まだイワナガのことを口にしてはいけない気がして、それだけ言う。


「それなしだったら、どうなっていたか。何より僕が、やってみたいんだ。何の忖度もない状況で、どっちが上か」


 藤の蔓を巻き、漆で固めた鞘に納められた刀を腰に差す。左腰に伝わる重みが、瞬時に意識を切り替えた。


 道場の静謐な空気、慣れ親しんだ板の間の匂い、わずかに聞こえる潮騒の音。


 そういったものをすべて意識からシャットアウトし、ただ道場で対峙する葵さんだけを見つめる。


 相変わらずの、小さい体を巨人と見紛うほどの迫力。


「なら、早く始めましょうか」


 葵さんと僕が開始線を想定した間合いに立つ。


「お、おい。審判はどうするんだよ」


 しどろもどろにそう言う広田からは、僕を剣道場で問い詰めた時の雰囲気は微塵もない。


「不要です」


 短く断言する葵さんと、無言でうなずく僕。


 古式の作法というものに慣れているのか、中島さんも意外と落ち着いていた。


「宮本武蔵や新選組の果し合いで、審判がいましたカ?」


 アレクシアの一言に広田も納得がいったようだ。


 勝負とは本来互いの意思で決めるだけだ。その結果がどうあろうとも。戦国時代や江戸時代の果たし合

いは、まさしくこんな感じだったのだろう。


 みんなを道場の隅に下がらせ、僕と葵さんは対峙する。


 空気が徐々に張りつめていくなんてことはない。はじめの合図すらなく、互いの刀がぶつかり合う。


 葵さんの政宗は、すでに研ぎなおしに出したのか刃こぼれが見当たらなかった。


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