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運動が苦手だった剣術師範の高校生、真剣勝負で成り上がる  作者:


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イワナガ

 今までノートパソコンをずっと操作していた中島さんが、突然声を張り上げた。


「これを見て」


 キーボードを目にもとまらぬ速さで打ち込み、ディスプレイを細い指で指し示す。


「ワタシが見ても、さっぱりわからないのですガ」


「僕も……」


 素人目に見ればディスプレイを埋め尽くすほどの数字とアルファベットの羅列が延々と続いているようにしか見えない。


 でも青い作業着をまとい、眼鏡の奥の目を光らせる中島さんには別世界のように見えているのだろう。


 肩までの黒髪の隙間から、眼鏡がディスプレイの光を反射して鋭く光る。


 その計算式の中の一つの文字色を変え、目立たせた。


 今まで規則的というか大体似たような数字が並んでいた計算式の中、その部分だけは今までとどことなく違う数字の並びが使われている。


「試合前も違和感があったけれど、こうしてみるとさらにはっきりわかる」


「結局、何が言いたいのですカ」


 アレクシアのいら立ち混じりの声にも、中島さんが怯む様子はなかった。


「この計算式は、刀での衝撃に対するものじゃない。これは人の神経伝達に作用する式」


 神経伝達。筋肉、運動神経。試合中の左腕の突然のストップ。


「このせいで、柳生くんは左腕が動かなくなった。だから負けた」


 中島さんはさらに計算式をスクロールしていく。


「この式のコードネームは……『イワナガ』」



『イワナガの力、思い知るがいい』



 決勝前の、師範の一人の台詞が脳裏によみがえる。


 同時に、敗北した時の体の違和感、その後の痛み、悔しさも。


「ここまでやりますカ。やはりあいつらハ豚でス」


「抗議しようよ。この不正が認められれば、柳生くんが優勝だよ」


 葵さんがイワナガの計算式が表示されたノートパソコンを脇に抱えて、立ち上がる。


 優勝。その響きを聞いて心が揺れる。


 一番は有名だけど、二番目より下は人の記憶には残らない。日本一高い山は富士山だ。誰でも知ってる。でも日本で二番目に高い山はほとんどの人が知らない。


 柳生流の名を世界に知らしめるには、アレクシアの提案を受け入れるのが一番いい。


 頭ではわかる。でも。中島さんが絡まれていた事件を思い出す。


「別に、優勝なんていいよ」


 僕は努めて声を平静にしてそう言った。当然だけど二人は顔色を変えて怒りをあらわにする。


「なぜですカ!」


「そうだよ。アレクシアさんが、せっかく……」


 アレクシアは心にほの暗いところはあるけれど、普段はそれを見せない。大会社の経営を任されたり留学してくるなど、スペックも超一流だ。


 おまけにとても美人で、人間が嫌いな僕が見とれるくらいだ。


 きっとほかの男性にとっても魅力的なのだろう。


 だから、怖い。


 聖演武祭にかかわりのある人間は実力者ぞろいだ。


 アレクシアは女子だ。葵さんは例外中の例外だが、腕っぷしの世界において男女の差は大きい。


 不正を暴いたことで恨みを買って、アレクシアや中島さんが危ない目に遭ったとしたら?


 考えるだけで震えが止まらない。人間が嫌いだから、人間が信用できない。


 でも、どうすれば彼女たちを説得できるだろうか。


 彼女が好きだったこと、何のために日本にやってきたかを思い返していく。


「柳生流の名を広めるっていう目的は、大体達成できたし。中島さんの言う通りなら、葵さんに実力で勝った、っていうことでしょ?」


「そうでス! だからこソ……」


 あえてアレクシアの言葉を遮って、強く断言した。


「それだけで、満足だよ」


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