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運動が苦手だった剣術師範の高校生、真剣勝負で成り上がる  作者:


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聖賢ハ孤ナラズ

タイトルは論語の一節です。

 広田が拳で机を打った時以上の注目が、声の主に集まる。


 僕への悪口と陰口でざわついていた教室が、水を打ったように静まり返る。


 声の元は、普段から大人しい人間。


 嘘をつけない、気が弱くて、マヨイガの調整の手伝いをするくらいの技術がある、縁のない眼鏡をかけた黒髪のクラスメイト。


「柳生くんが聖演武祭に出場するのは、嘘じゃない。私もマヨイガの調整、手伝ったから。それに……」


 中島さんは、清志と清嗣に絡まれた時のことを詳しく語って聞かせた。


 はじめは半信半疑で聞いていたクラスメイト達も、中島さんの鬼気迫る口調や、僕の実際の立ち回りの説明で徐々に雰囲気が変わっていった。


「彩、マジで?」


「知ってるでしょ、私は嘘なんてつけないんだよ」


「でも、やっぱ……」


「おい柳生、」


 剣道部員の一人が丸めた教科書をナイフ替わりにして、軽く構えた。


 雰囲気を察して無刀の技を再現してみる。教室の後ろの方に机を寄せてスペースを作り、二度、三度、さらに広田の打ち込みも冷や冷やしながらだがさばいていく。


 ナイフ替わりの丸めた教科書は僕の体に触れることすらない。


 再び教室がざわめき始めるけど、さっきまでと違って嫌な感じじゃない。 


「マジか。おいおい、すげえな」


 僕のことを糾弾していたクラスメイトの一人が、肩を叩いてぐっと親指を立てた。


「彩のこと、助けてくれてありがとー」


「マジ感謝」


「今度カラオケ行かないー?」


 調子がいいな、こいつら。さっきまで僕に向けていた空気をもうなかったことにするのか。


 ざわざわと、僕を中心にした人垣が作られていく。皆が笑顔ではしゃぐ中、広田だけはうつむいて拳を握りしめていた。


「おい、席に付け! ホームルーム始めるぞ。ん? なんだか騒がしいが…… 何かあったのか?」


 一度教室を出ていた先生が戻ってくると、早くホームルームを終わらせるために皆一斉に席に付き、口を閉ざす。


 だがアレクシアが眉間に指を当てて、考え込むようにしていたのが妙に気になった。


 やがて必要最低限の連絡だけが済まされ、ホームルームが終わる。


 席を立ち帰途に就く人、部活に赴く者、色々な振る舞いの中で、アレクシアは鞄の中に素早く手を入れ中身を探った。ジッパーを開けるときも、取り出したスマホをタップするときも手元が定まらず、ミスが目立つ。


 明らかに変だ。


 それから教室の中だというのにスマホを口元に当て、早口でしゃべり始めた。


「Ich bin Alexie. Verbinden Sie das Telefon sofort~」


「仕事の話ですかラ、しばらくかかりまス」


 一瞬だけスマホから口を話して僕たちにそう告げるけど、すぐに会話に戻る。止めようとしたクラスメイトも、凛としたというよりも厳しい表情に話しかけるのを止めた。


 ドイツ語だから、単語の意味もほとんど拾えず何をしゃべっているかわからない。


 同居している中島さんですら、単語が難しい上に長文で理解できないそうだ。


「どうしちゃったんだろ? 急に……」


「今日も一緒に遊びに行くのは難しそうだね」


 そう話しながら、アレクシアを囲んでいたクラスメイトは一人、また一人とその輪から抜けていく。


 僕はまだクラスメイトに興味を持たれていたけど。大会前に向けて練習するから、そう言って帰途についた。

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