まるで道化デス
北辰葵を間近で見るのは初めてだ。だけど、想像していたよりずっと小さかった。僕より頭一つ分は低い背丈。どちらかと言えば小柄な中島さんよりもさらに小さいだろう。
幼さを残した容姿に、黒馬の尾のようなポニーテールが印象的だった。
腰に差した刀は確か名刀正宗。一振りで城を買えると言われる。
「お久しぶりです、アレクシアさん。以前と服装が変わっていたからすぐに気が付きませんでしたけど、スーツもお似合いですね」
「ヤー。社を預かる者にとって、スーツこそ道着のようなものでス」
「例えが上手いですね、それに日本語も」
北辰葵の笑顔は屈託なく、あどけない。だがこの少女は紛れもない、高校生最強。
「でもせっかく道場までご足労くださったのだから、入門してくださっても良かったのに」
「北辰一刀流も、素晴らしかったのですガ。クラスメイトにも使い手がいましテ、通う時間の関係などもありましてそちらに入門させていただきましタ」
「そうですか。でもまた興味がわきましたら、いつでもいらっしゃってください」
北辰葵は気分を害した風もなく、そう言う。
アレクシアは笑顔で振舞っているものの、わずかに表情がひきつっていた。
「こちらが今のワタシの師匠でス」
会話の流れを切らず、僕のことを紹介した時にはすでに表情は元通りだ。
「はい、柳生流剣術の柳生宗太といいます。今回初出場です」
「ご存じかもしれませんが、北辰一刀流の北辰葵です」
「よろしく、北辰さん」
お互いに自己紹介し、軽く頭を下げた。
「葵、でいいですよ。父上や親戚とややこしいですし」
そう言ってアレクシアの時と同じように手を差し出し、握手を求めてきた。
女子の手を握るなんて何年振りか。小学校のフォークダンスですら握ったことがない。
少しためらいがあったけど、断るのも失礼かと思って彼女の手を取った。
柔らかい。
葵さんの手を握った第一印象がそれだ。人の手を握る動作一つにしてもまったく余分な力が入っていない。
そして触れた感触も柔らかく、剣ダコ一つできていない。
真の剣客には剣ダコなどない。剣を握る手の内が柔らかく、タコができないのだ。
「もし試合で当たったら、正々堂々戦いましょう」
「……どの口ガ言いますカ」
その様子を見ていたアレクシアが、聞き取れないほどの小声で何かをつぶやいた。
「ですガ、嘘をついているようには、見えないですネ…… 知らされていないのカ。哀れですネ。まるでピエロでス」




