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156 誘導

「りと、中は落ちない。ちゅいて来なくていい」

「そうもいかねえんだよなあ」


船内チェックをしていると、リトが後ろからついてきている。

何も危ないことなどないだろうに。

時折揺れる船に足元がよたつくけれど、それだけだ。

苦笑したリトに離れる様子がないので、まあいいかとチェックを優先することにする。


とはいえ、客の立場で立ち入れる場所にはさほど見ることのできる構造もない。

そして、とても注目を浴びている気がする。

甲板よりも早く終わった調査内容を整理しつつ、リトを見上げた。


「りと、お仕事は? 護衛の、お仕事」

「有事に活躍すりゃいいんだよ、それ以外は何もしねえ」


そうなのか。それだと、随分楽な仕事に思える。

何も起こらなければ、私にもできる。

何も起こらなければの話だけれど。


そんなことを考えたのがいけなかったのだろうか。

リトがスッと顔を上げ、私を抱き上げて踵を返した。

甲板への階段へ足をかけたところで、ピィーッと鋭い笛の音が2回響く。


「ひゃうーーん」


慌てたように船が揺れ、パンが廊下の向こうへ転がって行ってしまった。

キンタロは間一髪、リトの脚へしがみついている。


「まもも?」

「いや……人間の方だな」


舌打ちしたところを見るに、魔物の方が良かったのだろう。

弾むように駆け戻って来たパンが、リトの脚の間に入り込み、短い四肢をしっかり踏ん張っている。


「海賊?」

「だろうなあ……どうするか」


ちら、と私を見て思案しつつ、パンとキンタロをカバンに詰めて階段を上っていく。


「何を、どうする? 海賊、ちゅかまえない?」

「……魔物じゃねえからなあ……お前がいると、ちょっとな」


眉間にシワを寄せる表情を見て、首を傾げてから気が付いた。


「『暴よく的な表現や、ぐよてしゅくな描写……場面が含まえています』?」

「含まれてねえわ。そのものだ」


なるほど、18禁というやつだ。私はまだ、視聴できない。

でも、それにはおそらく魔物の討伐や解体も含まれると思うのだけど。


「まももはいいのに?」

「それもよくねえよ! けど……冒険者なら仕方ねえとこなんだよなあ。けど、さすがに人は……まだ早いだろ。せめて刃物ナシで……でも俺が斬らなくても、他のヤツがやるだろうし……」

「目々、ちゅむってる?」

「戦闘中にそんなことでき――できるな、お前なら」


できないわけがない。目を閉じるくらい、ラザクやファエルにだってできる。

私はAIだから。多分、通常の18禁を当てはめることはできないとは思うけれど。だけど、身体は幼児なのだから、悪影響があっても困る。


「でも、りゅーも見たい」

「んー、まあ戦闘が始まるまではな。興味が勝っても困るし、俺が目ぇ閉じろって言ってからでいい」


私が頷いたのを確認してから、リトは甲板への扉を開けた。


「――風がない! 追いつかれるぞ! 客を中へ!」

「護衛は集まったか?!」


船員も客も護衛も入り混じり、甲板が慌ただしい。

船内に入ればいいのに、パニックになった客が右往左往しているせいで、とても邪魔になっている気がする。ほら見たことか。

だから緊急時の避難先や誘導経路などの設定が必要なのだ。パニックになると、人は何をすればいいか分からなくなる。


「リト! 結構な数だ、頼むぞ?! おい、子どもは中に入れておけ!」


出航の時と打って変わって険しい顔をした冒険者……確か、カドルと呼んでいたはず。

カドルが抱えられた私を見て、リトに非難の眼差しを向けている。


「こいつのことは気にするな。俺が責任持つ」

「そらそうだろうがよ……」


邪魔になると言いたいのだろう。

戦闘が始まるまでは危なくないのだから、離れていた方が余計な気を散らせなくてすむ。


「りゅー、ひなん誘導ちてる」


リトの腕から滑り降りると、大事にとっておいたラザク特製の草笛を取り出した。

ラッパのような先端を咥えて息を吹き込むと、ぷぁー、と気の抜けるような大きな音が鳴る。

大人しくカバンに入っていた2匹も飛び出してきた。


「ひなんちてください! お客さん、あむないので! こっち!」

「おい、リュウ、何やってんだ?!」


全身で客室への扉を指しながら、大きな声を上げた。

大騒ぎの甲板でも、大きな草笛の音と、私の高い声は案外通りやすい。

ハッとした数名が、私を目指して駆けてくるのが見える。


「ひとりじゅつ、あむないのでお足元に気をちゅけて。 護衛、いるのでご安心くやさい」


大声になると滑舌まで気にしていられない。

私のしようとしていることに気付いたリトが、苦笑している。

その背後でぐんぐん近づいてきている船が、海賊船だろう。

結構な大きさだけれど、エンジンもないのにどうやって自在に近づいてきているんだろうか。


「避難は、こちやー! 護衛、ちゅよいので大丈夫、ゆっくりろうぞ!」


時折草笛を吹き、手を叩き、パンたちが追随する。

キンタロ、パン、私で船室扉への導線を作り、せっせと誘導をしていると、今にも海に飛び込みそうだった人たちが、表情を取り戻していくのが分かる。


「君、船護衛と一緒に居た子だね。慣れてるのかい? 君を連れて、それだけ危機を乗り越えたってことだね? そりゃ、頼もしい」

「りと、ちゅよい。100人くやい、大丈夫」


リトの方を指すと、リトが仕方なさそうに肩を竦めてみせた。


「大丈夫だ。巻き込まれねえよう、中に入っててくれ」

「ははあ、なるほど。本当に安心できそうだ」


私の頭を撫でて行った男性の言葉に、リトの態度に、周囲の人が落ち着いたのが分かる。

やはり、大人の言葉の方がいいらしい。

少々腑に落ちない気分でいたら、そっと屈み込んだリトが、『勝手に盛るな』と私の頬を摘まんだ。

盛ってないと思うのだけれど。だって、フェルウルフの時を思えば、そのくらいは問題なさそうに思える。


そうこうする間に、甲板にはほぼ船員と冒険者だけになっていた。

慌てた人たちで二次災害が起こることを懸念していたけれど、甲板にいた客たちは誘導に従って、押し合うことなく船室へと下りて行く。


「みんな、いいこで偉い」

「君が落ち着いて甲板で頑張ってるのに、私らが駆け込んだら、さすがにね」


思わず呟いた言葉に、下りて行く人が苦笑して手を振ってくれた。

そうか、私のおかげか。

私が落ち着いていることと、危険でないことはイコールではないけれど。でも、そう感じるのならば価値があるだろう。



やがて海賊たちの目の色までが確認できる距離に来た頃には、甲板の上はすっかり落ち着いて迎撃の準備を終えていた。


「よくやったな。ああいう時、パニックになったやつらが食って掛かったり、海に落ちたりするもんだけどな」

「どうちて、誘導しない?」

「まあ、自己責任だしな。あと、俺はともかく、他にそんな猶予はねえよ」


背負子を取り出したリトが、私を入れてきっちり固定する。

いよいよだろうか。


「海賊、どうやってたかかう?」

「まず、船を止めて乗り移れるようにしてくる。矢と魔法が来るぞ」


だから、みんな盾やら樽の蓋やらを構えているのか。

リトは、いらないのだろうか。


「構え!」


鋭い声と共に船員たちが物陰に縮こまり、護衛が武器を抜いた。


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― 新着の感想 ―
そう言えばファエルはどうしたのかな? まぁ今出てきても邪魔だけど(^_^;
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