表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/22

いい歳したオッサンのギャン泣きを初めて見た

※本日二話目です。

「ここはアタクシしか入れない筈、どうやって入ったのか言いなさい!」


 見た感じは三十代後半か四十代前半。ガッチリとした体躯、威圧感溢れる高身長、コート下には数々の武器が見えている。白銀の長い髪は肩の下あたりで無造作に括られ黒いバンダナで顔を隠し唯一出ている目は片方が禍々しい眼帯で隠れていた。


「サッサとお吐きなさい! アタクシこれでも気が短いのだから!」


 前世の兄の姿を微塵も感じない男……。


 でも……その口調……。


「兄だわ……」


 兄は自分の事を『アタクシ』と言っていた。そしてとても丁寧な命令口調。髪の色といい背の高さといい兄で間違いないだろう。


「えええ! 生きてたんすか?」

「マジかよ! どうする?」

「莉奈ちんがリーナだってカミングアウトする?」

「意味無いわ。そんな話を信じるような人じゃないから」


 この世界にもあの世とか輪廻転生と言う概念はあった。だがこのイーサンと言う男はこういった類の話をすると無言で睨み付けてくるような奴だったのだ。

 忘れもしないリーナがまだ十歳にも満たない年の頃、母が恋しくて「お母さまに会いたい」と言ったら「死んだ人間は生き返りません。そんな戯言は二度と口にしないように」って冷たい目で見下ろされトラウマを植え付けられた。


「何をコソコソと喋っているんです? 喉を掻っ切って喋れなくしますよ?」


 カシャッと剣を握りなおす音がして慌てて頭を下げた。まあ、四対一で負けることはないけど敵か味方か分からない以上、出来れば争いたくない人物だ。


「すみませんでした。ここがアナタの研究所だとは思わなくて」

「どうやって入ったのかを訊いています」

「壁に落書きしていたら扉が出て来て」

「嘘おっしゃい! 適当に落書きしたくらいで……」


 ふと言葉が途切れた。どうしたのかと顔を上げれば鬼の形相のイーサンの顏があった。


「アナタたち……召喚者ですね?」


 この世界で黒髪は殆どいない。皆無と言って良いだろう。聖女に憧れている娘たちが染めるくらいだ。

 だから直ぐに聖女だとバレるだろうとは思っていたけれど、睨まれるとは思わなかった。


「王家の回し者だったとは迂闊でした。アタクシの姿をみられた以上生きて返す事は出来ません! 今直ぐその首、差し出しなさい!」

「いやいや、無理、無理」

「何でそうなる?」

「俺らより危ないヤツっすね」

「能力を使って逃げようよ」


 そんなに広くない部屋で刀を振り回されたらたまったものではない。一旦引いて出直す事にした……が。


「……ヤバいっす……能力が使えない」

「マジか」

「神力使えないの!?」


「今、神力と言いましたか?」


 剣を振り回しながら追いかけてきていたイーサンが立ち止まり目を細めた。


「どうやらアナタたちは聖女と異なる神力を持っているみたいですね。しかし、残念ながらこの研究所ではアタクシ以外のいかなる能力も打ち消されるようになっているのですよ」


「えええ!! ズルくない?」

「お嬢、どうするよ?」


 今までの会話でイーサンが王家に恨みを抱いている事は分かった。私たちは王家の味方では無いって事を分かって貰えれば和解できるかもしれない。


「大人しく切られなさい!」

「ああ、もう、こうなったら」


 再び剣を振り回すイーサンの攻撃を躱しながら本棚に立てかけていたカバンからマシンガンを取り出しイーサン目掛けて構えた。不穏な気配を感じたのかイーサンの動きが止まる。


「何なのですか? ソレは」

「これはマシンガンと言う武器です」

「武器?」


 ズガガガガガ!


 威嚇する為に撃った弾が天井に穴をあけ粉塵が宙を舞う。暫くその様子を見ていたイーサンの目が何故か輝いていた。


「何なのですか!? ソレは! ちょっとお見せなさい!」


 振り回していた剣をポイッと放り投げスススと近寄りガッとマシンガンを掴んだ。


「ちょっ……ちょっと! 危ないから!」

「お離しなさい! 少し見るだけだから!」

「だから素人が触ったら危険だって!」

「危険な事はしませんよ! どんな仕組みか見るだけです!」

「分かったから! 弾だけ抜かせて!」


 弾倉を取り外す間、キラキラした目がマシンガンに注がれていた。そう言えば魔力持ちと呼ばれる者たちは皆、心惹かれるものが有れば他の事はどうでもよくなる輩だった。いつの間にか禍々しい眼帯が外され綺麗な緑色の両目が現れていた。


「……何のための眼帯?」

「ああ。革命軍のリーダーと言えば眼帯でしょう?」

「そう? 悪役っぽいわよ……って革命軍!? リーダー!?」


 イーサンの口から出た言葉に唖然とする。


「アナタ、革命軍の関係者だったの?」

「そうです。そんな事より早くコレの説明をしなさいな!」


 おいおいおい。私は前世の兄から命を狙われているの!? 私はイーサンが触っていたマシンガンを取り上げ後ろ手に隠した。


「まだ見ている途中ですけど? お返しなさい!」

「昨日、革命軍とやらに命を狙われたんだけど?」

「ああ! 血気盛んな若い子が先走っただけです。はい、返して」

「アナタも私たちに斬りかかったじゃない」

「命までは取りません。ちょっと怪我して浄化が出来なくなれば良いのです」

「はい?」

「そうだ! アナタたちを革命軍のアジトに監禁……招待すれば万事解決!」

「今しれっと監禁って言ったよな」

「ばっちり聞こえたっす」


 浄化が出来なければこの大陸は瘴気と魔物で溢れかえり、やがて滅んでしまう。王族側の話では悪魔を崇拝し王家と神殿は悪だと言う思想を掲げていると言っていた。


 ――本当に悪魔を崇拝しているの!?


「国家転覆を目論んでいると聞いたわ。それは何故?」


 私の言葉にイーサンの手がピクリと動いた。



「国家転覆なんて生温い……アタクシたちはこの王国ごと消し去るつもりですよ」



 怒りに満ちた声だった。白くなるほどに硬く握られた拳が小刻みに震えていた。それだけ怒りが強いのだろう。


「でも……大陸が消えればアナタたちだって無事では済まないわ」

「もとよりアタクシは生きながらえる事など望んではいません。アイツ等を葬ったら死ぬつもりですから」

「えっ?」


 次から次へと信じられない言葉を発するイーサンに理解が追い付かない。前は錬金術にしか興味の無い人だった筈なのに……。


「あの世に謝りたい人が居るんですよ……許して貰えるとは思いませんけど」

「あの世!?」

「アナタの世界には無いのですか? あの世」


 死んだ母親に会いたいと言っただけでトラウマになるくらい睨み付け二度と口にするなと言っていたあのイーサンが……あの世で謝りたい人が居るですって?


 謝りたい相手は、もしかしてリーナ……?


「ちょっとそこのアナタ! アタクシの大事な猫の置物を勝手に触るんじゃありません!」

「ごめんなさい。お腹が空いて」

「アナタたちの世界では猫の置物を食べるのですか?」

「そんな訳無いでしょう? その置物はカラクリ付きのキャンディーポットじゃない」


 信じられないものを見るかのように目を見開くイーサンと目が合った。私何か変な事言った? 


「これがキャンディーポットだと言う事を知っているのはアタクシと妹だけです。これはこの世に二つとないアタクシの手作りですから。なぜアナタがそのことを知っているのです?」


 まさかの手作りだったわ~イーサンのキャラじゃないんですけど?




「お嬢、本当の事言ってもいいんじゃねぇか?」

「あの世で謝りたい人はきっとお嬢の事っすよ」

「莉奈ちん、今がカミングアウトの時だよ」


 三人が気遣うように私を見つめていた。


「何の話ですか? 早くこれがキャンディーポットだと言う事をどこで聞いたかお言いなさい!」


 私の前世がリーナだと言ったらイーサンは信じてくれるだろうか? 死者を愚弄するなと怒るだろうか? 



「イーサン・ロッサム。アナタは輪廻転生を信じますか?」

「なっ! 何故アタクシの名前を……」

「私はこの世界に落とされて生まれ変わっていた事に気付きました。そして前世でこの世界に生きていた事も……」

「生まれ変わり……? この世界に生きていた……? 何を莫迦な……」


 昨日召喚された異世界人が知る筈の無い研究所の入り口の暗号、猫の置物の正体、そしてイーサンの名前。

 トドメとばかりに私は机の上にある羽ペンでサラサラとこの世界の文字を書いた。




 [お久し振りです、兄さま。リーナ・ロッサムが生まれ変わって帰って来ました]


「リーナ……?」


「兄さま。お元気そうで安心しました」

「う……」

「う……?」




「うわああああぁぁぁん! りいなああぁぁぁ! うわああああぁぁぁん!」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ