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聖女に弄ばれた若き神官

※別視点です。

 目の前で他人事のように話す王妃に対して殺意が止めどなく湧いてくる。


 俺が……前世で神官をしていた俺が……この女の狂言で首を刎ねられた恨みは必ずはらす!




 前世の俺の一族は代々神職に就いていた。神殿の清浄を保つことから祭祀、祈禱を全て一族で担っていたのだ。我がハイアット家もその一族に属していた。


 前世ではリアムと呼ばれていた。リアム・ハイアット。小柄で華奢な体つきだった。顔も童顔でよく女の子と間違えられたものだ。



 俺が見習い神官として奉仕し始めた頃、立太子した第一王子スチュアートと侯爵令嬢リーナの婚約が発表された。それを境に二人で祈りを捧げに来るようになった。祈りが終わると大神官である祖父の下へ顔を出し、国や神殿の未来の事を熱く語っていた。俺はそれを部屋の片隅に佇み聞いていた。


 殿下は王太子として積極的に公務をこなし社交的で優しくカリスマ性を持つ反面、威圧感があり大胆で狡猾なところがある印象だった。


 一歩間違えば独裁者になりうる存在。


 それでも仕事をすれば広い視野で物事を見る能力に長け、家臣にも気配りの出来る未来の国王として何の憂いも無い人物だった。

 そして殿下を陰ひなたと支える存在、婚約者のリーナ。淑女の鑑と言われるだけあって礼儀作法は完璧で、父親の影響かもしくは王太子妃教育の一貫か、数ヶ国語を話し公務もそつなくこなす右に出る者が居ないような令嬢だった。


 もしリーナが王太子妃として完璧な令嬢ではなかったなら、この悲劇は防げただろう。


 ――いや、俺が聖女の秘密を隠したりしなければ殿下が聖女に傾倒する事は無かったのかもしれない。




 俺は仕事の一環として神殿に寄贈された文献を読み漁り天罰の研究していた。最初の天罰は全世界の五大陸。その百年後に三大陸、五百年後は一大陸となった。

 天罰は『神の怒りの種』や『滅びの種』とも呼ばれ、大陸全体に負の感情が増えると芽吹くと言われていた。芽吹いた瘴気は海を越える事は無い。我が大陸は五百年間瘴気が現れる事はなく、このまま神の怒りは収まると思っていた。


 だが、隣国であるバロアナ国が数ヶ月の日照りと山火事に見舞われてしまった。家族を喪った者、住む家を亡くした者、生活は困窮し人々は嘆いた。


 そして滅びの種が芽吹いてしまった。


 この大陸には三つの王国がある。我がクロムノーツ王国が大陸の半分を占め、残りの大陸を半々にしてバロアナ王国とメベロン王国がある。神殿はクロムノーツ王国にある為、聖女を迎えるのは自然と我が国になっていた。


 ――そして召喚された最悪な聖女アキナ。


 俺は王家と神殿の連絡係に任命された。初めは神聖なる聖女アキナと接する事が出来ると誇らしく思っていた。まさかあんな阿婆擦れが召喚されるとは夢にも思わなかったから。


「スチュアート殿下が聖女様に傾倒しているともっぱらの噂だよ」

「純潔を失ったら聖女の力も消えてしまうんだろう?」


 城で働く者たちがコソコソと騒ぎ始めていた。二人は男女の仲になっているのではないかと。浄化が完了せずにいたのも噂の一因だろう。

 だが、たとえ聖女の純潔が失われようと聖女の力が無くなる事は無いと古い文献にあった。聖女の力が失われるのは身籠った時なのだ。六百年前の聖女が身籠り徐々に力を失くし、新たな聖女を召喚した事があった。それを憂いた国王が『聖女は純潔でなければいけない』とお触れを出した事でこの言い伝えが出来たのだ。

 この事実はほとんど知られてはいない。どの大陸も聖女の力が失われたら困る為に敢えてそうしているのだろう。


 今はまだ二人は男女の仲になってはいない。王太子としての責任感があるお方だ、分別を弁えていらっしゃる筈。

 しかし、あの聖女は見るからに殿下に懸想している。聖女を憎からず思っている殿下のタガが何時外れるかも分からない。手遅れになれば残りひとつしかない水晶を使い聖女召喚をしなければならない。そうならないように対策を立てなければ大変な事になるだろう。百年後の水晶に光が灯っていると言う確信はないのだから。


 だから俺は間違った言い伝えを利用する事にした。



「聖女様。何度も申し上げているのに何故分かって貰えないのですか? 聖女でなくなれば今の地位から落ちてしまい、このような待遇は受けられないのですよ?」

「またそれ~? 私とスッチーは友達以上恋人未満の関係なの! まだチュウしかしてないわよ!」

「チュウ?」

「ああ、キス、口づけのこと」

「なっ! 貴女は何を考えているのですか! 殿下も健康的な青年なのです、押し倒されても文句は言えませんよ!」


 次の瞬間、聖女はギャハハハと下品に笑い出した。


「この世界の人って奥手なのね~処女なんてとっくの昔に捨てているわよ」

「なっ!」

「だって、元の世界には恋人がいたもの」


 ――聖女は召喚前に既に純潔を失っていた。


「恋人……」

「だから~今更聖女の力は失われないのよ?」


 頭を鈍器で殴られた気がした。聖女には生娘が選ばれて召喚されるものだと思っていたから。俺は咄嗟に聖女にひれ伏した。


「お願いします、聖女様。この事は誰にも言わないでください! 浄化が完了していない今、言い伝えを信じている人々に知れたら大変な事になるかもしれないんです!」


 既に「浄化が進まない」と人々の不安や不満が膨れ上がっている。この事が大陸中に知れたら暴動が起きるかもしれない。


「秘密にしろって事?」

「そうです!」

「別に良いわよ? スッチーに知られたくないし」

「あ……ありがとうございます」


 取り敢えずはホッとした。聖女の次の言葉を聞くまでは……。


「その代わり、リアム君は私のペットね」

「えっ?」

「リアム君って可愛いから傍に置いておきたかったの」

「何を……」

「スッチーが居る時以外はずっと私の傍に居て私を癒して」


 この女は頭がおかしいのかと思った。成人前とはいえ男を愛玩動物にしようと言うのだから。


「断ったら、バラすから」


 その日から俺は聖女のペットとして屈辱を味わう事になった。四六時中侍らされ、抱きつかれ、手ずから物を食べさせられ、挙句の果てには添い寝を強要された。勿論、添い寝は自刃覚悟で拒否した。

 聖女は巧妙に隠しているつもりだったが、聖女の世話をする侍女や護衛にはいつの間にか気付かれ「うまく誑し込んだな」「それでも神官なのですか!」と悪態をつかれる始末。

 しかし俺には弁解する余地はなく苦汁を飲まされる日々が続いた。





「何なの! スッチーを解放しろとか何様よ!」


 ある日、リーナに諫められた聖女が部屋に戻るなり大声で騒ぎだした。


「落ち着いて下さい、聖女様」

「あまり大声を出されますと聖女様の評判が……」

「うるさい! リアム君以外みんな出て行って!」


 名指しで引き留められ、溜息を吐く。護衛兵がギロリと俺を睨んで出て行った。


 俺だって出て行きたいんだ!


 扉が閉まった瞬間、正面から聖女が抱きついてきた。


「嫉妬丸出しで独占欲強いんじゃないの! スッチーが解放されるべきはなのはあの女からよ!」

「リーナ様はこの国の未来の事を考えて動かれている素晴らしいお方です。先ほども殿下や聖女様を思ってのことです」


 聖女が召喚されてからと言うもの殿下とリーナの仲は良いとは言えない。殿下はこの世界に稀有な存在に心惹かれている様子だ。一種の熱病みたいなもの。熱も冷めれば冷静な殿下に戻るだろう。


「リアム君あなた……あの女の味方なの?」

「尊敬しているお方です」

「っ……!?」


 次の瞬間、刺繍の施された美しい白いローブが床にバサリと落ちた。目の前には薄い下着姿の聖女が立っていた。


「あなたは私のペットよ! よそ見なんて許さない!」

「何をなさっているのです! 早くローブを!」

「いやいやいや! 人肌が恋しいの! スッチーはキスするだけでそれ以上はしてくれないもん!」

「当たり前です! 殿下にはリーナ様が……」

「あの女の名前なんて聞きたくない!」


 突き飛ばす事は出来たが相手が悪い。そうこうしている内に寝台に押し倒された。


「私って脱いだら結構凄いんだから」

「お止めください!」

「リアムだって私とシたいでしょう?」


 無理矢理唇を押し付けられゾワリと粟立つ。聖女の舌が口内へ侵入してくるのを歯を食いしばって阻止した。


「…………いい加減にしろ!」

「キャッ!」


 愛玩動物のような扱いに辟易していた俺は頭に血が上って思わず聖女を寝台の上に押し倒してしまった。怒りを込めて腕を掴み聖女が大人しくなるまで押さえつけていた。


 だから気が付かなかった。殿下が部屋に入ってきていた事を。


「何をしている……」


 地を這うような低い声を聞き我に返った。


「ス……スッチー」

「何をしていると聞いている」

「殿下これは……」


 聖女が誘ってきて拒否していたと説明しようにも、この状況はどう見ても俺が襲っている様にしか見えない。それをいち早く悟った聖女が叫んだ。


「スッチー! 助けて!」

「なっ……」


 呆けていた俺を押しのけ殿下の胸に飛び込む聖女。無理矢理押し倒されたと泣きじゃくりながら訴えていた。そうこうしている内に近衛兵に寝台から引きずり降ろされ床に押さえつけられた


「誤解です! 殿下! 話を聞いて……」



 ――そして冷たい声が部屋に響いた。



「今直ぐ、首を刎ねよ!」



「……えっ?」


 前世の俺が最期に見たのは目を見開いて固まる聖女の姿だった。




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