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我儘王女とマイペース王子……呼んでないっての!

「髪がキシキシする」

「ヘアオイルがあったじゃない。あれ付けてタオル巻いて暫くおいていたら痛まないわ」

「そうなの? 明日からそうしよう」

「ブタはキシキシした髪で十分だろう」


 隼人と咲夜は烏の行水。司はお坊ちゃまらしく長風呂だった。


「そんな事より、お嬢。どうせならドレス着て欲しいっすけど」

「嫌よ、面倒くさい」

「この肉うめぇな!」

「得体の知れない野菜食べられないよ~」

「普段から食ってねぇだろ! クソブタ」


 数分前に部屋に食事が運ばれて来た。流石は王宮、高級食材のオンパレード。瘴気の発生で国は困窮している筈なのに……この贅沢はどう言う事!? 


「市井を見て回りたいわね?」

「おっ? やっぱり聖女の仕事をするっすか?」

「するかどうかは、この国の現状を見てから決めるわ」

「だろうな。瘴気に汚染されているって言いながら、ここは贅沢三昧してるみたいだしな」

「そうなのよ! こんな希少な食べ物、簡単には手に入らないんだから!」

「えっ? そうなの? 莉奈ちん詳しいね」

「メイドに訊いたのか?」

「あっ……」

「ん? どした?」


 追々話す気ではいるけれど、何からどう話そうかと考えてしまう。信頼する二人だからこそ信じられないような話をする事に抵抗がある。司はオタクっぽいから信じそうだけど。



「ああ! 分かった! もしかして莉奈ちん、ここの世界に生きていた転生者だったりして」

「えっ?」

「何だその転生者って? 超能力者みたいなもんか?」

「隼人は何も知らないんだね~! プププ」

「マジ殺すクソブタ」

「一度死んで生まれ変わり前世の記憶をもっている人間をそう呼ぶんすよ」

「死んで生まれ変わった? 前世の記憶をもっている? お嬢、そうなのか?」

「えっ?」


 心配そうな顔の隼人と咲夜。期待に目を輝かせた司を見て不安が拭い取られた。司は置いといて、コイツ等は私が何者であったとしても決して裏切らない二人だった。


「司の言う通りよ」


 私は声を潜めそう呟いた。息を飲む三人、唇に指を立て声を出さないよう合図する。この部屋には四人だけだが、どこで聞き耳を立てられているか分かったものではない。この話はまだ誰にも知られる訳にはいかない。


「どうやら私、この世界で生きていた記憶があるみたいなのよね」

「やっぱりぃ。僕の勘って当たるんだよね」

「ブタの癖に良い気になるなっす」

「展開に付いていけねえ」


「前世の私はあのクソ国王の婚約者で冤罪を掛けられて処刑されたのよね」


 そう言った瞬間、部屋の温度が下がった……気がした。


「今直ぐブチ殺す!」

「了解っす!」

「待って! 殺るのは今じゃない」


 前世の私、リーナ・ロッサムに起きた一連の出来事を掻い摘んで三人に話した。三人は疑う事無く真剣に耳を傾け時より憤怒を滲ませながら最後まで黙って聞いてくれた。


「クソ野郎の悪事を暴いて前世の私の汚名をそそぎたいの。殺るのはその後よ」

「公開処刑っす」

「蜂の巣にしてやる」



 コンコン。


 いきなり響いたノックの音に緊張が走る。


「こんな時間に誰?」

「国王だったらヤるかもしんねぇ」

「咲夜、全力で止めてよ」

「隼人さんに敵うわけ無いっすよ」

「僕に任せて!」

「私が止めるわ」


 扉が開いて入って来たのは……王妃アキナにそっくりなキララとか言う王女だった。大勢の護衛を引き連れて扉の前に佇んでいる。


 両親の差し金か……怖いもの見たさなのか……?


「あの……聖女様とお供の人とお話がしたくて」


 頬を赤らめ隼人と咲夜を交互に見つめるキララ。なるほど、アイドルの追っかけに近いのかもしれない。とんだ怖いもの知らずね?

 二人共イケメンだ。王女のような小娘はコロッと心奪われるだろう。だが二人共中身は極道……痛い目を見たくなかったら近付かない方が良いと思うけど……。


「お供って俺たちの事か?」

「下僕の間違いじゃない?」

「俺らが下僕ならブタはペットっすね」


「で? 何の用?」



 おそらく私には用は無い筈。王国の為私を説得に来たとは思えないもの。さっさとお帰り頂こうかしら?


「わたくしはクロムノーツ王国の王女キララと申します」

「キララちゃん、可愛い名前っすね」

「ありがとうございます! どうぞキララとお呼び下さい」

「だから、何の用?」


 甘ったるい空気をぶち壊す私の問いにキララはプクッと頬を膨らませ睨んできた。いやホント母親そっくりだな。いびり倒してやろうか?


「わたくしの父がそうであったように、この国では聖女様のお世話をするのは王族の務めだと言われております。どうぞわたくしに何でもお申し付けくださいませ」

「あっそ。じゃあ取り敢えず……出てってくれない? 邪魔だから」

「なっ!」

「貴様! 王女様に対して不敬だぞ!」

「お前こそ、聖女様に対して無礼なんじゃ無いのか?」

「あの護衛兵こわ~い。聖女の力が無くなりそう」

「お嬢……キツイっす……グフッ」

「うんうん。咲夜に同意するよ……グフッ」


 今まで大事に大事に育てられてきた王女が、おそらく生まれて初めて味わった屈辱だろう。ワナワナと身体を震わせ私を睨みつけてきた。でも腐っても王女、即座に怒りを抑え込みニッコリと微笑み返して来た。まあ、若干引き攣っているけどね。


「聖女様はお疲れですのね? ではお供の方々だけをサロンにご招待してお酒など振る舞いましょう」


 おっと。私だけ仲間外れにしようとしているのかしら? いやだわ~小学生の虐めみたい。悪い子にはお仕置きが必要ね?


「俺ら酒は飲まねえよ」

「では、お茶会など……」

「甘い菓子でお茶とか勘弁してほしいっす」

「ならば、王宮の案内を……」


 ダンッ! 


 隼人がローテーブルの上に足を乗せ踏ん反り返る。護衛たちはギョッと目を見開き王女はビクッと肩を震わせた。


「あんた耳あんのか? さっきお嬢が邪魔だから出てけって言っただろうが」

「隼人さん、言い方キツイっすよ。お邪魔なのでお帰りあそばせ? って言わないと」

「我儘な小娘にはハッキリ言わなきゃ伝わらねぇよ」

「なるほど~変に誤解させて纏わり付かれたら困るっすもんね」


 この二人、小娘相手に容赦ないわね? 泣き出さなきゃ良いけど。


「よくも……よくもこのわたくしを侮辱しましたわね……わたくしはこの国の王女なのよ! 誰だろうとわたくしを侮辱する事は許されないのよ! 覚悟しなさい!」


 あっちゃ~王女ブチキレてるわ~。


「お父さまに言いつけてやるんだから~!!」


 バタンと勢いよく扉を閉めバタバタと走り去って行ったキララ。慌てた護衛たちがワラワラとキララを追いかけていった。


「小学生かよ……」


 四人の言葉が重なった。




 そして数分後、再びノックの音が響いた。


「チッ! 今度は誰!?」


 そっと扉が開き顔を覗かせる王子がいた。さっきの妹に対しての不敬を咎めに来たのだろうか? そう思っていると護衛を部屋から出し軽く頭を下げた。


「前触れも無く突然の訪問を許して欲しい」


 不意を突かれ一瞬呆けてしまった。訪問の理由を聞くまでは気を許しては駄目だ。あの両親から生まれてきたにしては物腰柔らかな印象だが、あの両親から生まれてきたからこそ油断できない。


「………………何の用?」


 暫く無言で睨み付けていたが下手に出ている王子を無下にも出来ず言葉を絞り出した。


「我が国の切羽詰まった事情とは言え何の関係も無い君たちを帰る事の出来ない異界に呼んでしまった事を心から詫びたい」


 何の関係も無くはないけどね。


「アンタの妹を怒らせたから来たんだと思ったわ」

「えっ?」

「わたくしは王女なのよ! わたくしを侮辱する事は許されないのよ! お父さまに言いつけてやるんだから! ってエライ剣幕で出て行ったわ」

「キララが……?」

「そうなのよ。私たち処刑されるかもしれないわね?」

「聖女は何よりも尊き存在です! 処刑なんてあり得ない!」


 知っているわ。その所為で前世の私は殺されたんだから。


「へえ~莉奈ちん尊き存在なんだ~聖女って何しても許されちゃうのかな?」


 司の言葉にまた部屋の温度が下がる。たとえ聖女だろうと王様だろうと、無実の人に罪を擦り付け殺す事が許される筈が無い!


「勿論です! 美しいドレスや宝石も欲しいだけ献上されます!」

「いや、要らないし」


 アキナはいつも違うドレスと宝石を身に着けていた。その費用を汚染された土地の復興に使えよって苦言を呈してクソ王子に睨まれたっけ。


「侍女や護衛を好きなだけ付けさせ身の回りの世話をさせます」

「逆に気が休まらないから止めて」


 アキナは侍女や護衛をこれでもかと侍らせていた。通行の邪魔だって言うのよ。でもクソ王子が居る時は全員下がらせていたっけ。逆だろう逆!


「浄化の遠征に行くときも魔物が近付く事の無いよう騎士が壁になります」

「まだ行くとは言って無いけどね」

「いえ。私には分かります。聖女様は必ず私たちの国を救ってくれます!」


 やっぱりクソ両親の血を受け継いでいるのね。どこまでも傲慢で自己中。


「そして私が聖女の隣で浄化の手助けをします!」

「断る!」

「遠慮しなくても大丈夫。いつでも馳せ参じましょう」


 一昨日来やがれ!


「王子、莉奈ちんに無下にされてもへこたれないんだね」

「いつものお前を見ているようだぞ」

「言動がそっくりっす」


「それにしても……美しい黒髪ですね。まさに聖女に相応しい!」


 どこかで聞いた事のあるフレーズだわ~。あのクソ国王の遺伝子を間違いなく受け継いでる。


 鳥肌通り越して虫唾が走った。



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