神々に捨てられた世界でスローライフな旅をしよう!
最終話です。
※本日二話目です。
崩壊した神殿をぼんやり眺めている人間離れした若い男。
白く長い髪が風に揺れキラキラと靡いている。白い睫毛に縁取られた藍色の瞳が愁いを帯び、まるで泣いている様に見えた。
「アンタ、司なんでしょう?」
男は私をチラリと見てクスリと笑い、また神殿に視線を戻した。
「全部、アンタの仕業なのね? 私たちを召喚したのも、祈りの水晶を破壊したのも、神殿を崩壊させたのも!」
この世界に召喚された日、ひと気の無い場所まで拉致ったのも、わざわざ親父に電話で知らせたのも、転生者だとカミングアウトした時も、神力が使える事が分かったのも全部司が促していた。
そして数日前、忽然と姿を消した司。
「そうだよ。色々騙していてごめんね」
「アンタいったい何者?」
「フハハ。薄々気付いているでしょう? あからさまな名前だし」
加美乃司……カミノツカサ……神の使いさ。
「ダジャレかよ!」
「ご名答!」
そう言って振り上げた司の手が弧を描き一陣の風が起きると、瓦礫と化した神殿は天に吸い込まれるように消えてなくなった。
「何故私たちをこの世界に呼んだの?」
「逆だよ? 元の世界に帰したのさ」
「ああ、そうなるのか」
「フハハ。その動じなさ、大好きだよ」
「話を逸らすな!」
今この世界は瘴気が蔓延しつつある。ドローンとマシンガンでなんとか小康状態を保っている状況だ。
「莉奈ちんが望むのなら地球に戻してあげても良いよ?」
「そう言う事を言ってるんじゃないの!」
司は「分かっているよ」と言って天を仰いだ。
「この世界に帰したのは主の命……と言うか願いみたいなものかな?」
「願い?」
神も願う事があるの?
「二十年前に主は幼い少年の叫びを聞いた『何が神の使いだ! 何が聖女だ! ただの人殺しじゃないか! あんな女を寄越した神を俺は許さない! 俺の大事な三人を返せーー!!!』ってね」
「もしかして……その少年はオーウェン?」
「そう! あのクソガキ!」
言いそうだわ。神にも食って掛かるのね。
「それを聞いた主はそれ以来お隠れになられた」
「えっ?」
「神の間から一歩も出ず姿をお見せにならないんだよ」
え~~と?
「神様が引きこもり?」
「引き……くっ……」
「ん?」
「アハハハハハ!!」
「な、なに?」
「神がお隠れになるって事は天界ではとても深刻な事態なんだよ? 闇落ち一歩手前って事だから。それを……引きこもりって……ブハハハハ! 莉奈ちんサイコー!」
「天界の事情とか分かる訳無いでしょうが! 神の間が何なのかは分からないけど自室のようなものでしょう? 自室から出てこないのを引きこもりと言わないで何と言う?」
「う~ん。引きこもりで合っているよ」
「でしょ?」
その後、司は淡々とこの世界と二柱の神の事を話してくれた。
この世界の神と地球の神はとても仲が良かった。お互いの世界を美しいと褒め合い称え合った。しかし千年前、ここで世界大戦が勃発し美しい世界は見るも無残な姿になった。
この世界の神は人間を許せなかった。後先考えず怒りで滅びの種を蒔いた。しかし世界が滅んでいくさまを見つめる神は実は心を抉られる程後悔していたのだ。己が作った世界の生き物は言わば我が子も同然。その子が皆息絶えようとしている。しかし蒔いた種を回収するには既に手遅れの状態だった。神は地球の神に縋った。「どうか我が子を助けてくれ」と。
地球の神はその願いを一も二も無く叶えた。
「地球には巫女やシャーマンが居たから神力を与えて穢れを祓う事が出来た」
「そう言えば、この世界には巫女居ないね」
「そして同じ事が起こらないよう百年という期間を設けた」
「喉元過ぎれば痛みを忘れるってやつね」
「この千年間、度々天罰は起きたけど問題無く解決した。だから神殿はそのままに滅びの種だけコッソリ回収しようと思っていた矢先の悲劇だったんだ」
二十二年前に召喚されたアキナは、間接的とは言えこの世界の人間……言わば神の子らを陥れ多くの命を奪っていった。神は悩み苦しんだ。
自分が選んだ人間が、大切な神の子を殺したのだから。
そしてオーウェンの叫びがとどめを刺すことになった。
私たち三人の魂は記憶を保存され地球で転生させられた。
「主はその転生に神力を使い過ぎて余計に弱くなったんだと思うよ」
「神は私たちに復讐をさせたかったのかしら?」
「どうするかは本人の意思に任せるが、命を奪わせてはならないと言っておられた」
「国王たちがあんな状態になっていたのはアンタの仕業でしょう?」
「フハハ。バレた?」
あの日、イーサンに自白剤を作成して貰いに行き戻ってみると、国王は正気を失っていた。ガタガタと何かに怯えたように震え、歯をガチガチと鳴らしながら延々と「もう止めてくれ」と錯乱状態だった。
そして逃げていた宰相は魔物に足を食いちぎられた状態で発見され、王家の影と思われる人物たちは魂を抜き取られたように何の反応も示さない状態で見付かった。
「神は莉奈ちん達の心に負担を掛けたくなかったんだよね。人が人を葬るってかなりのストレスがかかる。だから私が代わりに復讐した。主を苦しめた恨みもあったしね」
「王妃は? もしかして生きているの?」
「生きているよ。地球の刑務所か隔離された病院に入るだろうね」
地球に帰っていたんだ。強制送還的な?
「たくさんの人を殺しておいて処刑しないなんて甘いと思われるかもしれないけれど、あの二人……特に国王には本人も抗えない神の祝福が与えられていたんだ」
「神の祝福?」
「浄化の終わった聖女が蔑ろにされないよう、年の近い高貴な身分の者に護られると言う祝福」
「ああ……そう言う事か……」
「ごめんね。リーナ」
「莉奈ちん」ではなく「リーナ」に謝罪する自称神の使い。神の祝福が世間に浸透していたなら残酷な悲劇は避けられただろう。
「ところで……どうしてこの世界を滅亡させているの?」
「滅亡させている訳じゃ無いよ~元の姿に戻しているだけ。これも主の命だよ? 召喚した聖女で二度と悲劇が起きないように事が済んだ後に全てを破壊せよと」
「ここの神が闇落ちするんじゃないの?」
「問題ない。最初に言い出したのは主の引きこもりを心配したここの神だよ」
成る程。自分の蒔いた種は自分で責任を持つってことか。
「ここの神と地球の神はもしかして恋仲なの?」
「そういう概念は無いけど、そうなるのかな」
「どっちが女神?」
「両方男神だよ?」
「…………BLかよ」
「そういう概念は無いってば」
ピューーっと風が吹きブルっと震えた。
「どうする? 莉奈ちん。地球に帰る?」
「私たちって地球では行方不明状態になっているの?」
「ううん。僕を含む四人は橋からの転落事故で亡くなった事になっている。遺体は上がっていないから帰りたいなら帰す事も出来るよ」
「駄目だ!」
急に後ろから声が聞こえ振り向くとオーウェンが居た。その後ろには隼人と咲夜も居る。
「アンタ達も来たの?」
「出たな、クソガキ」
「クソガキじゃねぇ!」
「私にとっては主にとどめを刺したクソガキなんだよ!」
だから敵視していたのか、小っちゃい器だな、自称神の使い。
「リナは俺のだ! 誰にも渡さないし、何処にも行かせない!」
『要らないのなら俺が貰うからな!』
前世、物陰から聞こえてきた幼いオーウェンの言葉。
出逢った時から一途にリーナを慕い、転生して外見が変わった今でもその想いを伝えてくる。
「いつオーウェンのお嬢になったんだ?」
「なって無いわよ」
「ドンマイ、オーウェン」
「うっくっ……」
「今はまだね」
「「「えっ!?」」」
オーウェンの事を憎からず思う私が居る。それが恋なのか絆されているだけなのかはまだ分からない。オーウェンの気持ちがリーナに対するものか私に対するものか見極めた後に答えを出そう。
「莉奈ちん……僕の方がお勧めだよ?」
急に司に戻った白い髪の男。
「人外は……無いかな?」
「酷いよ、莉奈ちん! 差別反対!」
「差別じゃなくて拒否だ、クソブタ」
「そっちの姿が落ち着くっす」
「僕は癒しキャラじゃなぁい!」
神の使いだとしても、司は司だった。
――どこか憎めない奴。
「隼人たちはどうすんのさ?」
「俺はアーシェリンと結婚するからここに残る」
「何言ってんの? ブタ、コラ、ブタ。隼人さんを今直ぐ地球に戻すっす。乙女の純潔の危機っす」
「お前だってラミエラと良い仲になってんじゃねぇか」
「彼女は婚約解消したばかりで誰かが慰めないと……」
国民の暴動は抑えたものの、国王は投獄、王家は辺境に蟄居される事になりルシファーの婚約は白紙に戻された。
宰相は大怪我で引退、今国を動かしているのは二十年前の事件に関わっていない大臣たちだ。落ち着いたらこの中から次期国王が選出されるだろう。後、事件に関わった大臣は錯乱した国王を見て自首してきたそうだ。
魔物の討伐は革命軍と各国の騎士が手を取り合い行っている。神がかりなドローンも全世界で粒子を撒いて大地の穢れを浄化している。それにもかかわらず滅びの種は次々と芽吹き追い付けない状況だ。
「じゃあ、誰も地球に帰らないって事で良いの? 世界滅亡するかもしれないのに? 神々が捨てた世界だよ? 本当に帰らないつもり?」
心底心配そうに言う司に思わず笑ってしまう。
「滅亡させないわよ? なんたって聖女である私が居るんだから!」
腰に手を当て胸を張る。
「世界一の錬金術師であるアタクシも居ますよ?」
振り向くと白いローブにモノクルという懐かしい姿のイーサンが居た。その後ろにトーマスが執事の格好をして立っている。
「兄さん!」
「どんなものだって作って差し上げますよ?」
「ホント! 実はひとつあるのよね」
「……早速……ですか」
ピピピピピピ! ピピピピピピ!
「この辺よ」
「オーウェン掘りおこせ」
「祖父ちゃん、人遣い荒い! それに祖父ちゃんの方が若いだろうが!」
「だったら祖父ちゃんって呼ぶなっす」
「今更無理だな。祖父ちゃんは祖父ちゃん。リアム兄ちゃんはリアム兄ちゃん」
「お嬢はリナって呼ぶくせになぁ?」
「俺だけ特別な呼び方がいい」
「あら? 兄さんもリナって呼んでいるわよ?」
「リーダーめ……」
私たちは今、南の大陸に来ている。
あの日、イーサンに作って貰ったのは滅びの種探知機。瘴気を感知するドローンを作ったんだから作れると確信していた。
千年前に蒔いた種は地中深くに埋まっていて、掘り出して塵にするまでが大変だった。まあ、思っていたより種が大きくて見付け易くはあったけどね。
「莉奈ちん、よろしく」
掘り出した種に司が神から貰った剣を突き刺し、その剣に私が神力を注ぎ込むと種は塵に還る。初めてこの作業をした時「莉奈ちんと初めての共同作業だね」と言った司にオーウェンが「なんか腹が立つ言いまわしだな!」といちゃもんを付けていた。意味が分かったら二人の抗争が始まるだろう。
百年の安寧が無くなった今、世界のあちこちで瘴気が生まれている。だけど一致団結して対処している人々をみると神に見捨てられた世界も悪く無いなと思う。
「さ~て、次は西の大地ね」
西の大地はリーナの父親が殺された場所だ。司に父は転生したのか訊いたら企業秘密だと教えてくれなかった。もしかしたらこの世界のどこかで生まれ変わっているのかもしれない。
「西の大地……辛いなら行かなくてもいいぞ」
「オーウェン。私と司が揃わなきゃ種は塵に還せないでしょう?」
「でも……そこは……リーナ姉ちゃんのお父さんが……」
「リーナの記憶があっても今の私は立花莉奈なの!」
「分かっているけどさ……」
あ~~もう! はっきりしない奴ね!
「オーウェン! アンタが結婚したいのは淑女の鑑のリーナなの? それともちょっとヤンチャな莉奈なの?」
「滅茶苦茶ヤンチャで凶暴なリナだよ! 今直ぐ結婚しよう!」
即答かよ。
「駄目駄目駄目駄目! 純潔じゃなくなると神力が無くなってしまうよ!」
「嘘吐くな、子ブタ! 妊娠するまで神力は無くならないだろうが!」
「どっちにしろ俺は関係ないからアーシェリンと愛の結晶を……」
「何言ってるんすか、隼人さん? 掘り起こした穴に埋めるぞ!」
滅びの種が無くなって美しい世界が甦った頃、新しい生命が誕生しているかもしれない。
でも、それまでは……。
「オーウェン」
「ん? どうした? リナ」
「寝込みを襲ってきたら腹パンだから、ね!」
◆おしまい◆
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
評価して頂ければ幸いです。
【後書きと言う名の司の愚痴】
「莉奈ちんに人外は無いって言われたんだけど? 酷くない?」
<<アタクシも無理ですわ>>
<<そんな事より、地球にはもう用は無いから部署移動お願いします>>
「ちょっと君たち、勝手な事ばかり言わないで貰えるかな? 娘が心配だからってアノ世界で転生せずに地球の神の使いになったんでしょう?」
<<その娘がアノ世界に帰ったのだからアタクシたちも帰ります>>
<<仕事終わりに娘の寝顔を見るのが生き甲斐だったのに……部署が違うから見れない!>>
「生き甲斐って……死んでいるんだけどね、君たち」
<<主はどうせ引きこもっていらっしゃるからバレませんわ>>
<<生前見れなかった花嫁姿を見たい! いや、見たくない!>>
「どっちなの?」
<<もう勝手に時空繋げましょう?>>
<<そうだね。亜空間オープン!>>
「コラ――!!」
また違う作品でお会いしましょう!




