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間違えてしまった王太子

※別視点です。

 

「ご挨拶申し上げます、スチュアート殿下」


 私はこの世に誕生した時から傅かれていた。


「ご立派になられましたね、スチュアート殿下」


 権力も才能も他の追随を許さない唯一無二の存在。


「御婚約おめでとう御座います、スチュアート殿下」


 臣下に信頼され国民に敬愛される清廉潔白な国王となる……そう己を信じて疑う事は無かった。





「我らは王家の影。王家の憂いは我々が断ちましょう」


 立太子した時、父王に知らされた王家の影の存在。


 王家の財産を護り、王家の威厳を護り、王家の命を護る。王家に仇なすものを人知れず消し去る存在……それが王家の影だった。


 だが私は影を使う意思はなかった。影とは言わば暗部、王家の闇だ。私の掲げる清廉潔白な思想とは真逆に位置するもの。


 私には影を使わずとも事を成し遂げることが出来ると自負していた。


 その意思が揺らいだのはアキナと出会ってから……私だけではアキナを護ってやれないと憂いてしまった。


「侯爵を消せ」

「速やかに」


 それが私が影に下した最初の命だった。





 帝王学で「天罰」と「聖女」の事を学んでいた。それは世間には知られていない秘匿とされる伝承だった。その中のひとつに聖女は王家や身分の高い貴族と婚姻を結ぶことが多いと書かれた書物を見て鼻で笑った。


「私には申し分のない婚約者がいるのだから、万が一天罰が起こっても聖女と婚姻を結ぶことは無いだろう」


 だが実際に天罰が起き聖女が召喚された時、気を失い睫毛を濡らして眠るアキナを見た瞬間、私が護らなければと言う気持ちが湧いてしまっていた。


 聖女を護る事が王家の使命なのだと……。

 聖女を護る事が国民の幸せに繋がるのだと……。


 まるで天啓を受けたかのように私の中で揺ぎないものに思えた。


 しかしアキナが命を絶ったと聞いた瞬間……いや、おそらく湖に身を投げたであろう瞬間に……まるで憑き物が落ちたかのようにアキナに対する庇護欲も愛情も消え失せてしまっていたのだ。


 己の変化に呆然として何もする気が起こらなかった。





 そして今、目の前に突然現れた聖女たち。


「放心状態だって聞いていたけど……あまり悲しそうにしていないわね?」

「自分の罪を暴露されて憎さ百倍ってことか?」

「逃げる算段でもしていたんじゃないっすか?」

「駄目だよ、国王様~ちゃんと罪は償いましょうね~」


 どうやって部屋に入った? 


 いや、一度城から抜け出した奴らだ、壁をすり抜ける道具があるのかもしれない。好きにさせていたら何をするか分からない。道具を奪い何処かに監禁して大人しくさせておかねばなるまい。


「影! この者たちを拘束せよ!」

「…………」

「おい! 早く来い!」

「…………」


「来ないわよ?」

「なに? 貴様ら王家の影に何をした!?」


 呼べば瞬時に現れる影が現れないと言う事は、この者たちが影に何かをした事は疑いようがない。


「何もしてないわ。ただこの部屋に入ってこられなくしているだけ」

「……どうやって?」

「僕たち全員、神力が使えるんだよ」

「何だと……」


 小太りな男が指を立ててクルクルと回した瞬間、私の身体が宙に浮きクルクルと回転しだした。


「おっ……おい……止めろ……」

「罪を認めて謝罪したら止めるわよ?」

「罪など……犯してはいない!」

「往生際の悪い王様だね」

「はぁ~司、もう良いわ。下ろしてやって」


 急に回転が止まりそのまま床にドンッと落とされ腰を強打した。


「貴様ら! 国王に対しての度重なる不敬、許されると思うなよ!」

「その台詞、聞き飽きたわ」

「元々アンタに対しての敬意はねぇし」

「支持率底辺っすよ?」

「さっさと罪を認めなよ」


 同じ世界から来たと言うのにアキナとはまるで違うこの者たちの発言に頭に血が上る。


「まだ言うか! 噂を真に受け、ありもしない罪をでっち上げて何になると言うのだ!」

「あら? 王妃様はアンタがやったって告発していたわよ?」

「アレは嘘の噂に責め立てられて心を壊した王妃が錯乱して言った言葉だ! 真実ではない!」


 証拠となるものは全て闇に葬った。手を貸した者は口を噤むはず。いくら聖女が騒ぎ立てようが所詮は異世界の小娘、恐るるに足りない。



「あくまでも罪は認めないと……?」

「当たり前だ! 元々罪など犯してはいない!」


 バキッバキッバキッ!

 パリーン! パリーン! ガシャン! 


「なっ! うわっ!」


 部屋中の物が次々と破壊されていく。寝台や調度品が潰され、花瓶や水差しが粉砕された。私は見えない手に圧し潰され床に這いつくばる事しか出来なかった。



「あの日、リーナは地下牢の最奥に無理矢理連行され、五人の看守に凌辱された。妊娠した事が分かると舌を切って喋れなくし、逃げ出さないように暴行を加え、死なないように最低限の治療と食事を与えた……それを指示したのは当時の王太子。アンタよね?」


 はあ? 何故それをこの小娘が知っているのだ? 看守たちは影がひとり残らず始末した筈。秘密が漏れる事は無い!


「あの日、離宮の使用人や護衛騎士たちは元気な産声を聞いた。しかし数分後、死産だったとかん口令が敷かれた。偶然にも? その日の深夜、盗賊が押し入り使用人が全員殺された。翌朝護衛騎士たちは王族を危険に晒したとして責任を取らされ処刑された」


 ルシファーが生まれた日、使用人や護衛に薬を盛り眠らせ影に始末させた。護衛の中に騎士団長がいたから万が一の返り討ちに備え責任を取らせる形にして葬った。この事を知っているのは影とアキナだけ。誰だ!? 誰が漏らしたのだ!? 影の誰かか? まさかアキナが?


「聖女アキナは召喚された時、既に純潔を失っていた。その事を知ってしまった若き神官は国民の暴動を防ぐ為、バラすと脅してきた聖女アキナの言いなりになった。あの日、聖女アキナが下着姿で神官に迫り、反撃した所を王太子に見られ首を刎ねられた」


 アキナに纏わり付いていた若い神官の首を刎ねた事は覚えている。だが……召喚前に純潔を失っていた? 神官を脅していた?


 まさか……そんな筈は……。


「どこの誰に聞いたのかは知らないが事実無根の流言だ!」

「全部真実ですけど?」

「違う! 全部出鱈目だ! 真実と言うのなら証拠を出せ!」


 この者たちに暴露したのがアキナなら良いが、影のひとりなら絶対に見つけ出し始末してやる!



「証拠は私たちよ!」

「はあ? 何を言っている?」


 膝をついたまま顔を上げると腕を組んだ聖女が冷たい目で私を見下ろしていた。横に並んだ男たちも同様に見下ろしている。


「この世界に来て前世の記憶が蘇ったのよね」

「前世の……記憶?」


 まさか……!?


「私はロッサム侯爵家が長女、リーナ・ロッサムの生まれ変わりよ」

「俺は近衛第四騎士団長、ジルベル・サークナイトの生まれ変わりっす」

「俺はハイアット大神官の孫、リアム・ハイアットの生まれ変わりだ」


 生まれ変わり? そんな……莫迦な……!


「嘘だ……あり得ない。お前みたいな礼儀を知らない野蛮な者がリーナの生まれ変わりなわけがない!」

「失礼ね! ちょっぴりヤンチャになっただけでしょう?」

「いやいや、かなりヤンチャっすよ」

「凶暴って言うんじゃないのか?」

「アンタ達も人の事言えないでしょうが!」


 にわかには信じられないが、この者たちが私を謀る理由がない。それにこの女は最初から私を敵視していた。


「もう諦めたら? 証拠は私たちの前世の記憶よ!」

「この世界にも生まれ変わりの概念有るだろう?」

「信じられないなら、とことん質問に答えるっすよ?」


 この者たちの前世が私が殺した相手だったとしても罪を認める訳にはいかない……認めてしまったら私は……王家は破滅する!


「そんな事、誰も信じない! そんなもので私を裁くことは出来ない!」

「と言う事は私たちが転生者だって事は認める訳ね?」

「うっ……ぐっ……」

「アンタが白を切っても王妃の告発があるから誤魔化せないわよ」

「何が目的だ? 私を殺すのか……? 国王である私を!」


 もしかしてアキナは自殺ではなく、この者たちに殺されたのか?


「まあ、ぶっちゃけ私たちが直接手を下す事は無いわね」

「許す……のか……?」

「許す訳無いでしょうが! 正直顔の形が変わるまで殴りたい衝動を抑えているんだから」


 指をポキポキと鳴らす聖女の姿に、かつての婚約者の面影が微塵も感じられない。


「リーナの生まれ変わりでも今はタチバナリナな訳だし、アンタを殺したってリーナが生き返る訳でもない。ただ、アンタの口から国民に向けてリーナとリーナの父親とリアムの潔白を証明して!」


 潔白を証明する? 駄目だ、今はまだ国王として父親として守らなくてはいけないものが有る。


「…………それは出来ない」


「チッ! こうなったら最終手段よ! 兄さんにジハクザイを作って貰う!」




 その後、私は地下牢に飛ばされ閉じ込められた。見張りさえ居ない牢獄。かつて私がリーナを陥れた場所……今更ながら罪悪感が湧いてくる。


 何時間経っただろう……そう思った時、ひとりの青年が私の前に現れた。白く長い髪。女と見まがう美しい容姿。白い衣を纏い微笑みを携え立っている。


 しかしその瞳は冷たく、睨むように私を見据えていた。


「誰だ……?」


「お前は間違った選択をした」


 その声はピリピリと肌を刺激し頭の中に響いてきた。


「我が主を苦しめた事、私は許さない」

「我が主……? 苦しめた?」


 リーナの事か?


「これはお前に殺された者の記憶から心的苦痛だけを抜き取って集めたメモリーだ」


 そう言って見せた彼の手の平には小さな金属片が乗っていた。


「俗にトラウマとも言う」


 次の瞬間金属片は消え、何処からともなく淡々とした声が聞こえてきた。


<<入力準備完了>>

「彼の脳に移植してくれ」

<<了解しました>>


 イショクとは何だ? そう思った瞬間、グワンと脳が揺れ眩暈がした。何かが頭の中に流れ込んでくる奇妙な感覚。


 そして……。



「ほらリアム、あ~んして」

「お願いします聖女さま。誰かに見られてしまいます」

「アンタは私のペットだって言ってるでしょう!」


(誰にも打ち明けられない……)

(誰も助けてくれない……)

(何処か遠くへ逃げ出したい)


「今直ぐ首を刎ねよ!」


(違う! 何故私が殺されなければいけないんだ!)

(誤解されたまま死ぬのは嫌だ! 嫌だ! 嫌だーー!!)




「泥酔して起きられなかったのだろう? 怠慢にも程がある!」

「申し訳ございません!」


(あああ!! 皆を護れなかった……)

(深酒はしてはいない! だのに何故気付けなかったんだ!!)

(すまない! 許してくれ……)


「貴様たちには責任を取って貰う!」

「いかようにも……」


(退団間近だったと言うのにこの失態……無念だ)

(騎士として不名誉な事をした父を祖父を許してくれ……)




「んーー!! んーー!!」

「聖女さまに毒なんて盛るからこんな目に遭うんだぞ」

「おらおら、大人しくしろって。騒いだって誰も来やしねぇよ」


(わたくしは毒など盛ってはいない!)

(何故誰も信じてはくれないの!)


「しかし王子も残酷だな。罪を重くするためとはいえ俺らみたいなうす汚ねぇ奴らを使うなんてな」

「でもお嬢様を抱ける上に褒美もガッポリ貰えるなんて役得だな」


(嫌だ! 怖い! 誰か助けてーー!!)


「やっと諦めたか……最初から大人しくしてれば痛い目に遭わずに済んだのによ!」


(痛い……痛い……痛い……)

(お願い……止めて……)

(わたくしを……誰か殺して……)




 まるで己が経験したかのように生々しく脳内に映し出される。


 リアムの絶望が、ジルベルの無念が、リーナの恐怖が……痛みを伴って再現される。

 侯爵の悲しみが……侍女の後悔が……使用人達の断末魔が……途切れることなく襲い掛かる。


「ああああ!!!! 止めてくれーー!! もう見たくない!!」


「お前が彼らにした仕打ちだ。その身をもって知るが良い!」



 いつの間にか男は消え、地下牢の最奥にひとり取り残された。泣いても叫んでも終わらない恐怖、痛み、絶望。



 私はもう……地獄に落ちてしまっているのか?



次回、最終話。

世界は滅亡するのか? 莉奈たちは地球に帰るのか? お楽しみに♪

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