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後味の悪い結末と世界滅亡の危機

 

 朝目覚めると王宮内は大騒ぎになっていた。状況の説明にきたローランの複雑な表情に胸中がざわつく。



「王妃が自殺!?」

「湖に飛び込んだらしいです」

「うそ……どうして?」



 後に「王妃のご乱心」と呼ばれる出来事は夜中に起こった。


 王妃付きの侍女が寝酒を用意している間、王妃はひとり部屋にいた。

 暫くすると叫び声が聞こえ、廊下に居た護衛が慌てて中に入った。そこには虚空を見つめ懺悔する王妃の姿があった。

 顔は涙に濡れ身体はガタガタと震えていて、ひと目で尋常じゃない状態だと判断し声を掛けたが反応がなかった。

 そして急に立ち上がり錯乱状態のまま階段を駆け上がりバルコニーに出て止めるのも聞かず飛び降りた。

 追い掛けて来た護衛がバルコニーから下を覗いた時、沈んでいく王妃が見えた。急いで小舟を出し湖を捜索したが王妃を発見する事は出来なかったという事だった。


 更に王妃は飛び降りる際、リーナの冤罪や離宮の無差別殺人をほのめかしたらしい。




「王妃は見付かりそう?」

「どうでしょうね。水深が深い上に藻が異常繁殖していて潜れないそうです。浮いてくるのを待つか、水を汲み上げるかしか無いですね」


 何とも後味の悪い結末だ。


 今更、良心の呵責に圧し潰されたのか? だったら国民の前で謝罪して罪を償ってほしかった。


 リアムの絶望を。ジルベルの無念を。リーナの恐怖を……知って欲しかった!!!


「こんな結末、望んでない!」


 知らぬ間に涙が溢れ出てポタポタと絨毯に染みを作る。


「死よりも辛い目に遭わせてやりたかった! 身分を剥奪して財産を没収してみすぼらしい恰好で国民の前に出て罵られて残飯を投げられて屈辱を味わわせてやりたかった」


 握った拳の手の平に爪が食い込み血が滲む。噛み締めた奥歯がギリリと音を立てた。


「「お嬢……」」

「莉奈ちん」


「リナ……泣くな」


 いつの間にか近衛兵の格好をしたオーウェンが正面から抱き締めていた。一瞬呆気にとられても、おさまらない怒りが拳に乗ってオーウェンの胸を容赦なく叩く。


「流刑地で過酷な労働をさせて不味いご飯食べさせて肌も髪もボロボロにしてやりたかった」

「痛っ……ああ……そうだな……痛っ」

「罪を償わずに死ぬなんて……リーナたちが浮かばれない!」


 叩きながら泣きじゃくる私を優しく包むように抱き締めてくれたオーウェン。彼の腕の中は暖かくて力強くて大きくて、荒んだ私の心を癒してくれた。




「落ち着いたか? リナ」

「ごめん、オーウェン。痛かったよね?」


 怒りに任せてポコポコ……いや、バシバシ叩いたから相当痛かったと思う。これでも段持ちだしね。


「親父たちに比べたら猫のパンチくらいなもんだよ」

「赤くなってるけど?」

「日焼けだ……」

「やわな肌ね」

「やわじゃねぇ!」

「ちょっとー! いちゃつかないで貰えるかな! 莉奈ちんが泣いていたから我慢したけど抱き締めるなんて許さないよ!」

「うるせぇ! ブタはすっこんでろ!」

「もう! アンタたちが揃うと必ず喧嘩が始まるわね」


 とは言うものの、司は割と空気を読んでくれる節がある。無理強いはしないし意外と優しくて穏やかだ。

 今だって私が泣いていなかったら私とオーウェンの間に直ぐにでも割り込んできただろう。




「国王は罪を認めるかしら?」

「王妃を亡くした悲しみで放心状態だそうです」

「王妃だけは本当に大事だったんだ……」


 かつて残酷なほどに人を葬ってきた暴君とは思えない態度に憤りを感じた。人が亡くなって悲しむ心を持っていたのならリーナたちにした仕打ちに心を痛めて欲しい。残された者たちの気持ちを理解して懺悔して欲しい。



「大陸に広まっている噂と王妃の告発。真相究明に乗り出す国民たちで暴動が起きるかもしれないわね。アジトに行って今後の方針を話し合いましょう」

「そうだな。革命軍として迂闊な行動はとれないからな」

「近衛に扮して城に入りこむ事は迂闊な行動じゃないの?」

「いや~でも……だって……リナが心配で……」

「……バカ」

「そこ! 甘い空気を出さないの!」


 今度は間に入って来た司だった。




「聖女さま! 大変です!」


 瞬間移動で抜け出そうとしていた私たちの部屋に近衛騎士が入って来た。


「今度はなに?」


 内心焦りながらも気付かれないよう不機嫌そうに返事をした。


「神殿の水晶が全て割れてしまいました!」

「……えっ?」





 急遽、馬車に乗り赴いた神殿は嘆き悲しむ神官たちで混沌としていた。祈りの間に入れない人たちが怪訝な顔をしている。知れ渡るのも時間の問題かもしれない。


「マズいわね。暴動が起きるかも」

「だな。唯一の救いだった水晶が割れたんだ、自暴自棄になるヤツが多数出てもおかしくない」


 中を見回すと粉々の水晶が散らばっていて形を成しているものはひとつも無かった。


「きっと革命軍の仕業です!」


 一足先に来ていた宰相が怒りを露わに声を荒げる。神官たちもウンウンと頷いていた。


「壊すところを誰か見たの?」

「……見てはいませんが、このような罰当たりな事をする輩は革命軍としか考えられません!」


 チラリとローランを見たら小さく横に首を振った。


「あのぅ……」


 その時、中年の女性がか細い声で話し掛けてきた。


「聖女さまですよね?」

「そうですけど……あなたは?」

「私は神殿の清掃に従事している者です」


 おそらくハイアット家と同じように一族で神職に就いている中のひとりだろう。数人の神官が焦った様子で近付いて来ていた。


「余計な事は言わない方が……」

「ちょっと黙っててくれない?」

「はい……」

「続きをどうぞ」


 止めに入った神官を黙らせ女性に話の続きを促す。


「今朝、外の落ち葉を掃いている時に突然天から光る矢が飛んできて壁をすり抜けていったのです。慌てて中に入ると御覧の通り水晶が粉々になっていました」

「成る程……革命軍の仕業じゃないわね、宰相?」

「奴らは錬金術を使います! その矢もきっと……」


「私には神の御業に思えるけど?」


 転移装置を発明したイーサンならギリ作れるかもしれないけれど、壁をすり抜ける光る矢なんて神の御業としか思えない。


「私もそう思います! 神様はきっと王家の所業にお怒りなのです!」


 彼女がそう叫んだと同時に祈りの間の扉がバタンと開いた。


「こ……これはどう言う事なんだ? 説明してくれ!」

「王家の所業って今噂になってるアレか?」


 外に居た人々がワラワラと中に入ってきていた。割れた水晶を見てわなないている。


「神様がお怒りになって祈りの水晶玉を……?」

「俺たちはもうおしまいだーー!」


 水晶が割れたことはすぐさま大陸中に知れ渡るだろう。


「仕方ないわね。暴動が起きる前に兄さんに言ってドローンを飛ばして貰いましょう」

「騎士や兵士を募って魔物退治もしなきゃなんねぇな」

「宰相の奴、どさくさに紛れて逃げたっす」

「どこに逃げても同じなのにね」


 私たちもどさくさに紛れて瞬間移動した。






「全世界の水晶が破壊された?」

「他大陸に居る同胞が知らせてくれました」


 イーサンは他の大陸の同胞と魔道具で連絡を取り合っていた。王家と神殿を滅ぼした後、仲間を他の大陸に移住させる計画を立てていたからだ。


「徐々に神殿も崩れているそうです」

「えっ! じゃあ、この大陸の神殿も?」

「そうなるでしょうね」

「私が最後の聖女って事?」

「そうなりますね」


 ちょっと待って下さいよーー!! 神ーー!! 何の為に私たちは召喚されたのよーー!!


「それから各大陸で瘴気が発生しているそうです」

「神殿が崩れていくのを見れば負の感情が蔓延するわな」

「世界滅亡の危機っす」

「取り敢えず、全世界に向けてドローンを飛ばすわよ! 兄さんは引き続きマシンガンとドローンの制作ね」

「そうなりますか」


 後はイーサンに任せて一旦城に戻る事にした。





「暴動が起きてなきゃいいけど……」


 願い虚しく城の外は押し寄せてきた民衆で溢れかえっていた。


「国王を処刑しろーー!!」

「お前たちの所為だーー!! 責任を取れーー!!」

「聖女諸共生贄に捧げろ!」


 おおん? 好き勝手言ってんじゃないわよ!


「隼人、マシンガン」

「おっ? やんのか?」

「脅すだけよ」


 私たちは民衆の後ろに瞬間移動で着地した後、塀の上部目掛けマシンガンを構えた。


「当たったらごめ~ん」


 ズガガガガ! ズガガガガガ!


 塀の壁が粉々になって民衆の頭に降り注ぎ、木々の葉が宙を舞う。騒いでいた民衆が一瞬で静かになり恐る恐る振り返ってきた。


「静まりなさい!」

「いやいや、もう静かっすよ」

「私を生贄に捧げろって言ってた奴、出てこい!」

「ビビッて出てこれねぇって」

「神はアンタ達の命をご所望よ!」

「煽ってどうすんの?」

「ほんの冗談よ」


 マシンガンの威力に恐れをなした民衆が口籠っている。中にはへたり込んでいる奴もいる。私はコホンと咳払いした後、声高らかに宣言した。


「国王たちを断罪するのは神の使いの聖女であるこの私よ!」


 シンと静まり返る広場。困惑を隠せない視線が私に集中する。誰も微動だにしない中、ひとりの男が声を上げた。


「聖女なんて信用出来るか! 国王とグルなんだろうが!」

「はぁ? 前の聖女と一緒にしないでくれる?」

「一緒だろう! 変な武器で脅しやがって!」

「そうだ! そうだ! 聖女とは名ばかりの阿婆擦れが!」


 ブチッ!


「マズい。お嬢がキレそうな顔してる」

「隼人さん、違うっす。キレてる顔っす」

「早く莉奈ちんからマシンガン取り上げて!」


 阿婆擦れ呼ばわりした男に向かってマシンガンを構えたところを三人に羽交い絞めされた。


「莉奈ちん、深呼吸! 深呼吸!」

「お嬢、殺しはよくないっす」

「やり返すなら拳にしろ!」


「離せーー!!! ぶっ殺してやるーー!!!」


 その直後、暴言を吐いた男が白目をむいて失神した。それを見た民衆が「殺された!」と騒ぎ始め広場は軽いパニック状態になった。


 それを見て冷静を取り戻した私は再びマシンガンをぶっ放して騒ぎをおさめ叫んだ。



「関係ない奴はすっこんでろ! カチコミは私が行く!!」



残り二話です。

最後までお付き合いくださいね。


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