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自ら破滅の道へと進んだ元聖女

※別視点です。

「あら明菜。居たの?」


 三兄妹の真ん中に生まれた所為か家族の中の私は影の薄い存在だった。両親の期待は兄が、愛情は妹が享受して私には回っては来なかった。


「ピアノを習いたいの」

「お兄ちゃんを塾に通わせたいからピアノの習い事は無理よ」


「このぬいぐるみがいい!」

「わたちもこのぬいぐるみがいい!」

「ひとつしか残って無いから妹に譲りなさい」


 何に対しても私は二の次「我慢する」「諦める」を繰り返して「私の意見は聞いてもらえない」「私は必要の無い人間」と思うようになってしまっていた。


 そしてそれは家族の中だけじゃ無かった。


「グループを作って下さい」


 体育の授業でも、修学旅行の班編成でも、研究発表会のペアを決める時でも必ずあぶれる存在。

 誰も私を欲しがらない。誰も私を必要としない、居ても居なくても何ら変わらないそんな存在。





「今日、良いだろう?」


 そんな私に恋人が出来た。生まれて初めて必要とされ求められるまま身体を許した。


 幸せだった。彼が居れば何も要らないと思える程に。その言葉を聞くまでは……。


「明菜? アイツはキープだよ。小百合を落とせたら別れるさ」


 どうやって帰ったかも思い出せない程頭が真っ白で、気付いたらベッドに横たわり虚空を見つめていた。


「やっぱり私は二の次なんだ」


 そう言葉にした瞬間、眩しい光に包まれ私は異世界に落ちた。





「聖女様! 来てくださってありがとうございます!」

「聖女様! 我々をお助け下さい!」


 最初は不安で毎日泣いていたけれど誰もが私に傅き頭を下げ感謝を述べる。


「アキナ。最愛なる私の聖女」


 そして素敵な王子様が私に愛を囁く。私の我儘を聞いてくれる。


 両手から溢れ出す神の力。魔物は塵に還り、大地は緑色に光り輝く。これは全て私の力。私が居なければ滅んでしまう世界。


 この世界は私を中心に回っている! 私が選ぶ側!


 もっと褒めなさい! もっと敬いなさい! 私は神と対等なのよ!





「今直ぐ、首を刎ねよ!」

「……えっ?」


 目の前でリアムの首がゴロリと転がった。


 そんなつもりは無かった……ただリーナの肩を持つリアムを困らせたかっただけだったのに。


 どうしよう! どうしよう! どうしよう!


 放心状態の私は気付けばスチュアートに組み敷かれていた。噛みつくような口づけをしながら乱暴に着衣を剥ぎ取っていく。


「いや……スッチー止めて!」

「大丈夫だ。神力は純潔を失っても直ぐには無くならないと文献で読んだ事がある。万が一の時は新しい聖女を呼べばいい」

「嫌よ! 私は聖女でいたい!」

「駄目だ! このままだと誰かにアキナを奪われてしまう!」

「スッチー」

「私のものになってくれ! アキナ!」

「でも……リーナさんが……」

「あの女はいずれ消すつもりだ……アキナが気にする必要なんてない」


 その言葉に全身がゾクリと粟立った。


 リーナを消す? 良いの? ねえ、良いの?


 良いに決まっている! 私は唯一無二の存在。邪魔なヤツは葬ればいい!


「初めてなの、優しくしてね」

「分かっている……私の聖女」


 その日から毎日のように求められ私は妊娠した。神の力が半減した時は焦ったけれどスチュアートが守ってくれた。


 リーナを処刑した。

 浄化も無事終わった。

 生まれた子の産声を聞いた使用人は葬られた。

 ルシファーを国民にお披露目する事が出来た。


 そして私は王妃になった。何もかも思いのままだ。


 私が一番なの! もう二の次になんてならない!





 だのに……何故?


『へぇ~! それだと罪を犯した身分の高い者は罪には問えないって事にならない? 『私がやっていないと証言しているのだから間違いはない!』ってね。そう……例えば国王夫妻とか?』

『ちゃんと浄化してなかったんじゃないの~先輩? 中途半端な仕事して後輩に尻拭いをさせるなんて、それでも元聖女と言えるんですか~?』

『じゃあ、浄化が済む前に妊娠したんじゃないの?』


 こんなガラの悪い女に私の地位を脅かされているの?






「王妃様、眠れないのでしたらお酒でもお持ちいたしましょうか?」

「そうね、お願いするわ」

「軽食も用意してきますので少々お待ちくださいませ」


 謁見の間での騒動から精神的に疲れた私は自室に籠る日々を過ごしている。市井では私たちの醜聞がある事ない事噂されているらしい。食欲もなくカウチソファーに横たわる私を心配した侍女が気を利かせてくれたようだ。


「はぁ~こんな日は誰かの温もりを感じて眠りたいわ」


「でしたら私がお相手しましょうか? 聖女様」


 急に聞こえてきた声に心臓が止まりそうになった。侍女が出て行ったのならこの部屋に居るのは私ひとりの筈。


「誰!?」


 振り向くとそこにはローブを纏う小柄な若い男が立っていた。


「無礼者! 今直ぐ立ち去りなさい!」


 今でもまだ私の寵愛欲しさに男が媚びを売ってくることがある。いつもなら護衛か侍女が対応してくれていたのに、いったい護衛は何をしているの?


「酷いですね……あれ程私に添い寝を強請っていたのに……」

「はあ? そんな訳……」


 怒鳴り付けようとした私は言葉に詰まった。近付いて来ている男の首から鮮血がポタポタと流れ落ちていたからだ。


「きゃああぁぁぁ!」


 フード部分がずり落ち現れた顔に息を飲む。

 忘れもしないあの日、首を刎ねられた……。


「リリリ、リアム……」

「覚えて頂いていて光栄です。聖女様」

「なっなんで……?」

「お迎えに参りました」

「おむ……かえ?」


 何処に……? まさか……地獄?


「ゆ、許して……そんなつもりは無かったの……スチュアートが勘違いして……」

「まあ、あの状況なら勘違いされても仕方ないでしょうね」

「そうでしょう? あの時は止める間も無くて……」


 ここから逃げ出したいのに腰が抜けたようにカウチから立ち上がる事が出来なかった。護衛を呼ぼうにもお腹に力が入らない。


「でも、侯爵令嬢の処刑は止められたんじゃないですか? 毒なんて飲んでいないですよね?」

「えっ?」

「産声を聞いただけで罪になるんですか? あの日何人殺されたんでしょう?」

「止めて……許して……」

「そう言えば、遠い大陸で殺された外交官がいたんですが……数か月後、何故か離宮を襲った犯人になっていました。不思議ですね?」

「止めてって言っているでしょう!」


 大声を出した瞬間、立ち上がる事が出来た。私は急いで扉を開けリアムから逃げ出した。



 ◇◇◇


<<対象が目標地点に向かって走行中>>

<<地球と時空を繋げます>>

<<接続完了。一分後に亜空間が開きます>>

<<了解>>


 ◇◇◇



「王妃様! さっきからどうされたのですか?」

「お待ちください! 王妃様!」

「いやーー!! 来ないで!!」


 声を掛けてくる護衛や侍女が全部リアムの姿に変わって睨んでくる。


「聖女の癖に罪も無い人間を殺して気が咎めないんですか?」

「私は王妃よ! 神の使いの聖女よ! この世界で何をしたって許されるの!」

「お前ごときが神の使いを名乗るな! 私はお前を許しはしない!」

「止めてーー! 仕方なかったって言っているじゃない!」


「王妃様! そちらは暗くて危険です! お戻りください!」


「人殺し! 人殺し! 人殺し!」

「止めてーー!! 殺したのは全部スチュアートなの! リーナに冤罪を掛けたのも、離宮に居た使用人を始末したのも全部全部スチュアートの仕業よ! 私は何もしていない!」

「王妃様――!!」


 次の瞬間、私は王宮のバルコニーから真っ逆さまに落ちていた。眼下には湖が広がっていて私は水面に叩きつけられた。辺りは真っ暗で助けてくれる人の気配もない。溺れないよう藻掻けば藻掻くほどドレスが水を含み下へ下へと落ちていく。


『お迎えに参りました』


 リアムの言葉が頭を過ぎる。私はここで死ぬの? 息が出来ない……諦めかけた時、眩しい光が私を包んだ。



「この世界では許されても元の世界ではどうかな?」



 リアムではない声が聞こえ気付けば騒がしい場所に座り込んでいた。高い建物が建ち並び、どこもかしこも眩い光で溢れている。


 助かったの……?


「うわ~なにこのオバサン。びしょ濡れで変なコスプレしてるんだけど」

「コスプレか? ホームレスの間違いじゃねーの?」


 目の前を通り過ぎる若い男女が見慣れない服を着て馬鹿にしたように見下ろしていた。


「ここは……どこなの?」

「やだ~酔っ払い?」

「記憶喪失の設定かも?」

「こんな格好のオバサンが出るアニメかゲームあった?」

「オバッ……無礼者! 私は王妃なのよ!」

「キャハハハハ! ウケる~」

「成りきってるよ。マジどんなキャラ?」


 私は王妃なのよ! 皆が傅く尊い存在なの! 私は立ち上がり生意気そうな若者を睨みつけた。


「人殺し」


 次の瞬間、若者たちの姿がリアムになる。


「ひい!」


 よく見るとリアムだけじゃない。痩せ細ったリーナや首の無い騎士、血だらけの使用人の姿があった。


「人殺し。どうしてわたくしは火炙りになったの?」

「人殺し。聖女様に尽くしていたのに……何故殺されなければいけなかったのですか?」

「人殺し。お前が誘ってきたくせに!」


「いやーー!!!!」


 私は護身用にいつも身に着けている短剣を取り出し、目の前の亡霊たちに振り下ろした。


「うわっ!」

「きゃああぁぁぁ!!」

「おい! ババア! 何するんだよ!」


 短剣は首無しの騎士の腕を掠っただけだった。このままだと呪い殺される! 私は我武者羅に短剣を振り回した。


「こっちに来るな! 私は聖女なの! 私は悪くない!」


「このババア、ヤバいよ」

「イカれてる」

「早く警察呼んで!」


 警察? 警察って何だったかしら?


『元の世界ではどうかな?』


 元の世界って……何? 元の世界って…………私が一番になれない世界!?





「いやーー!! あの世界に帰してーー!!」

「おい! 暴れるな!」

「離しなさい! 私は王妃なのよ!」

「薬物でも摂取してるのか?」

「ナイフを所持して振り回していましたから検査は必要ですね」

「私は尊い存在なの! 護身用の短剣くらい持っていて当たり前でしょう!」

「はいはい。話は署に着いてから聞くから静かにしてね、オバちゃん」 

「無礼者! 不敬罪で処刑してやるから!」

「刑を受けるのはオバちゃんだよ? 傷害の現行犯なんだから」


 私を早くあの世界に帰してーー!!




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