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逃げられると思っているの? とことん追い詰めるわよ! 覚悟しなさい!

本日二話目です。

「じゃあ、浄化が済む前に妊娠したんじゃないの?」

「貴様! 我が妃をどこまで愚弄するつもりか!」

「愚弄? 愛し合う二人が肌を重ねる事は普通でしょう? 私たちの世界では婚前交渉は当たり前の事よ? ねぇ?」

「当たり前ではないけど普通だな」

「それが原因で別れるカップルもいるくらいだし?」

「僕もその内莉奈ちんと……グフッ!」


 司に腹パンをきめたところで室内に大きな声が響いた。お腹を押さえたルシファーだった。


「私が生まれたのは結界が張られた一年後の六の月の三の日です!」



 この世界も地球とほぼ同じ周期で回っている。一年は三六十日、一日は二四時間、一週間は七日、一ヶ月は三十日。そして妊娠期間も全く同じだ。

 咲夜の話だと離宮で産声を聞いたのが処刑される前日。処刑されたのは三の月。


 さて。そろそろ爆弾を投下しましょうか。


「アナタの父親って本当に国王なの?」


 シンと静まり返る謁見の間。最初に叫んだのは矢張り王妃だった。


「あっ当たり前でしょう! ばっ莫迦な事言わないで!」

「だって~王妃様は聖女だった頃、たくさんの男たちを侍らせていたって聞いたから……あっ! 今もか」

「侍らせてなんかいないわ! 只の護衛よ!」

「護衛? お気に入りの神官をいつも傍に置いていたって噂だけど?」

「あの神官はしつこく言い寄って来たからしょうがなく傍に置いていただけよ!」


 ピシッ! 


 謁見の間の壁に亀裂が走る。多分、隼人の抑えきれない怒りが起こした現象だろう。今朝、花瓶が落ちて割れたのも隼人の仕業かもしれない。


「口ではそう言っても金髪碧眼なんてこの国にはたくさん居るし……」

「何なの! 私は王妃なのよ! 不敬にも程があるわ!」

「百年の安寧がもたされなかったのは神力が正常じゃなかったって事じゃない? 正常じゃないと言う事は即ち妊娠。浄化が済んだ後に二人が結ばれたって言うのなら相手は違う人になるでしょう?」


 王妃が怒りなのか焦りなのか涙目になって睨んできている。身体もプルプル震えていてちょっと怖い。


「いい加減にしろ! ルシファーは間違いなく私の息子だ!」


 そこに国王の怒声が響いた。


「証明出来るの? この世界にもDNA鑑定ってあるのかしら?」

「おい! 精密検査をする魔道具を持って来い!」


 食い付いた!


 暫くすると生前定期的に健康診断をしていた魔道具が運ばれて来た。魔道具は誤作動を起こさない。表示された数値は全て正確だ。

 王子に装置を取り付け技師が魔道具の表示画面を見ながら操作しだした。暫くすると王子の精密なデータが画面に映し出される。


「ルシファー・クロムノーツ。二十歳。男性。父、スチュアート・クロムノーツ。母、アキナ・クロムノーツ。健康状態良好。腹部に打撲痕……」


 得意気な顔でデータを読み上げる国王だったが私が皆に知らしめたかったのは父親が誰かではない。


「三の月の六の日生まれ? さっき六の月に生まれたって言ってなかった?」

「えっ? 三の月?」

「なっ!」


 誕生日が改ざんされていた事を王子も知らなかったようだ。

 検査をする時は漏洩を防ぐため技師と対象者の二人だけで行われる。検査結果は技師により口頭で告げられる。余程の好奇心がある者でなければ画面を覗き込んでくる者は居ないだろう。


 この私以外にはね!


 王妃を見ればこの世の終わりみたいに呆然としている。数人の大臣や神官たちは驚愕の表情だ。王子も動揺し言葉を失っていた。


「魔道具に誤作動は無いのよね?」

「違う!」

「何が違うの?」


「早産だったのだ……あの時のルシファーは明日をも知れない命だった……」


 往生際の悪いヤツね! 姑息な国王の事だから言うと思ったよ。でもそれも想定済みだけどね。


「だから命の危険が去るまで国民には知らせる事が出来なかったのだ!」

「……そうだったのですか……?」

「これ以上国民を不安にさせる事は当時の私には出来なかった」

「はぁ~それを聞いて安心しました。父上と母上が国民を謀る事などする筈がありませんから!」


 あるんだよ! それが!


 王妃があからさまにホッとした表情をした。口元も引き攣ってはいるが笑みを浮かべている。


 助かったと思うなよ!


 三の月の六の日と言えばリーナの父親が離宮を襲撃したとされた日だ。年配の大臣や神官たちは当時の事件を知らない筈はない。現に数人の大臣や神官が怪訝な顔をしている。


 王家に対して不信感と言う種の植え付けに成功したようだ。


 臣下は知っている。二十一年前の二人の近すぎる仲を。

 国民は知っている。福福しい王子のお披露目を。


 種は芽吹き花を咲かせ噂と言う種子を飛ばす。飛んで行った種子は大地に根付きまた芽吹く。芽吹いた芽に少しだけ真実と言う肥料を与える。


 国王夫妻は浄化が完了する前に貫通していたって聞いたか?

 王子の誕生日を誤魔化していたなんて、後ろめたい事実があるからじゃないの?

 早産だったの? でも、あそこまで大きく育つかしら?

 えええ! 王子が生まれた日に離宮が襲撃されて使用人が皆殺しにあった!?

 それって、口封じに殺されたんじゃ……?

 おかしいと思っていたんだ。由緒正しい侯爵家があんな大それた事件を起こすなんて考えられないからな!


 実は俺聞いた事があるんだ。看守をしていた男が王家の命令でとある令嬢を穢すように言われたって。それって、あの処刑された侯爵令嬢じゃないのか?


 刈っても刈っても次々に芽吹く種子。いずれこの大陸中に根付く事だろう。誰もが王家に不信感を抱き、今のこの状況を招いているのは王家の所為かもしれないと結論付けるだろう。


 これこそが私たちが立てた計画。こんなに早く実行できたなんて幸先が良いわね。



「これで我が妃の潔白が証明されたであろう?」

「それが真実ならね?」

「真実だ!」

「はいはい。もう良いわ。それより、投獄されている人を牢から出してくださいね」

「……ああ。誰か牢から出してやれ」

「謝罪したいから私たちの部屋に連れて来てね」

「なっ! そこまでする必要は無い!」


 必要あるのよ! 咲夜が可愛い孫に会いたいオーラを出しているんだから。


「まさか……か弱い女性に暴力的な尋問をしているんじゃないでしょうね?」

「神に誓ってそのような尋問はしていません!」


 三十代後半とみられる近衛騎士が一歩前に出て真っ直ぐに私を見た。どことなくジルベルの面影がある。咲夜がソワソワしている所を見ると十中八九ジルベルの三男だろう。


「私は近衛第三騎士団の団長を務めているローラン・サークナイトと申します。私が責任を持ってお連れいたします」

「ありがとうございます。待っていますね」


 おそらくグランから連絡を受けていたのだろうローランが少し涙目で隼人を見ている。

 ……って違うから! アンタの元父親は硬派な隼人じゃなくてチャラそうな咲夜だから!


 案の定、アーシェリンたちを連れて来たローランは「父さん」と言って隼人に抱きついていた。



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