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あの頃のクソガキは今も健在だった

※本日二話目です。

「「お嬢! 黙っていてすみませんでした!」」


 腕を組んで仁王立ちした私の足元でイケメンの二人が土下座している。ついさっきもイケオジに縋り付かれて許しを乞われたのに……。


「隼人と咲夜もこの世界の人間だったとはね~おまけに処刑された事も同じだなんて……偶然というより必然だね」

「何かしらの力が加わってこの世界に呼ばれたのかしらね……と言う事は司も…………ハッ! もしかしてお父様なの?」

「違うから! 転生した記憶ないから!」

「頭殴ったら前世の記憶戻るかもよ?」

「止めてよ! いくら僕でもそんな性癖持って無い」


『あいつオーウェンだったのか発言』の後、イーサンの住む家に連れて来られ二人がこの世界の住人だった頃の話を聞いた。



 隼人の前世、リアム・ハイアット。リーナとは直接対話した事は無かったが、クソ王子と一緒に神殿に赴いた時は必ず部屋の隅で神官長との会話を目を輝かせながら聞いている姿が印象的だった。聖女召喚の後、神殿と王家の連絡係になりたまに見かける事はあったがリーナより先に殺されていたとは思いもしなかった。


 そして咲夜の前世、ジルベル・サークナイト騎士団長に関してはリーナと顔見知り以上の関係だった筈なのに何故言ってくれなかったのかと問いただすと、リーナの処刑時に直接手を下したのは自分だから言えなかったと涙ながらに告白した。苦しむ事が無いよう先に命を絶ってくれたのはサークナイト騎士団長……咲夜だったのだ。



「ちょっと二人共いい加減土下座止めなさいよ」

「俺があの阿婆擦れの真実を隠したりしなければ王太子が聖女にのめりこむ事は無かった筈だ!」

「そうかしら? 出会って即恋に堕ちていたと思うわよ?」

「それでも既に純潔を失っていると知ったら百年の恋も冷めたかもしれないじゃないか」

「それでもリアムのとった行動は正しいと思うわよ? あの頃の国民は聖女と王太子に反感を抱いていたわ。真実が知れ渡れば瘴気に飲みこまれる前に暴動で国が滅んでいたかも」


 進まない浄化、襲い来る魔物、国民の生活が困窮する一方で王城で開かれる晩餐会や舞踏会。聖女や王家に対しヘイトが溜まるのは火を見るより明らかだ。当時のリアムの心情を思うと胸が苦しくなる。


「俺は、お嬢の話を聞くまでリーナ様が不貞を働いてしまっていたと思っていたっす。あのクソ野郎に冷たくされ他の誰かに縋り付いたんだと……ちゃんと考えればリーナ様がそんな事をする筈無いって分かっていたのに!」

「品行方正な淑女の鑑。リーナがもう少し無責任でしたたかだったなら婚約者の座ごと聖女に押し付けていたかもね? それこそ兄さんに頼んで一時的に病気になる魔道具か薬を作って貰って」

「その手があったのか! 全人類の記憶を改ざんする装置を作っていたばかりに時間だけが過ぎてしまった……」

「それってもう犯罪じゃない?」


 地下牢で行われた屈辱的な暴行の記憶は怒りだけが残り恐怖心は無い。前世で心が壊れた所為か、現世で心が鍛えられた所為か、トラウマは無いんだって皆を安心させた。


「ほら、二人共立って。アンタ達だって被害者なんだから私に謝る必要は無いわ」

「「お嬢……」」

「お互い辛かったね……」


 三人で抱き合い涙を流した。それを見ていた司とイーサンも隣でギャン泣きしだした。きっと端から見るとカオスだろうな……なんて思っているとその声が聞こえてきた。


「何だこの状況……」


 昨日、私を殺そうとしたオーウェンがポカンと口を開け佇んでいた。






 オーウェン・サークナイト、二十八歳。咲夜の前世ジルベル・サークナイトの孫で、隼人の前世リアム・ハイアットの甥でもある。要するにジルベルの息子とリアムの姉が結婚して生まれたのがコイツだ。

 そしてリーナとも面識がある。ジルベルに連れられて城内にある騎士団の訓練所によく遊びに来ていて、リーナが差し入れを持っていった時に可愛く駆け寄ってきて……違うな……リーナを見つけるや否や猛ダッシュで抱きつき、やんわり引き剥がしても『リーナおねえちゃん大好き』と終始纏わり付いて来た。挙句の果てには『ボクとけっこんして』とキラキラした目で求婚し『わたくしには婚約者がいるから結婚は出来ないのよ』と断ると『分かった! おねえちゃんをかけてけっとうしてくる』と言って実際クソ王子に決闘を申し込んでジルベルに拳骨されて大泣きしていた元気な……ヤンチャな……人の話を聞かないクソガキだった。


 そして現在もその性格は変わっていなかったのだ。


 カオスなあの場面から我に返ったオーウェンはイーサンが止めるのも聞かず再び私に牙をむいた。懐から短剣を出しじわりじわりと近付いて来る。


「おめおめと敵陣に乗り込むなんて命知らずなお嬢さんだな!」


 昨晩は暗い上に覆面をしていて顔は分からなかったけれど、深緑の髪と水色の瞳には覚えがある。


「うわ~あの時のクソガキがそのまま大きくなった感じね」

「何訳の分からない事言ってんだよ! そんなに死にたいのか!」

「コラッ! オーウェン! 女性に対して乱暴を働くとは許さんぞ!」

「そうだぞオーウェン! 神殿の反省室に閉じ込められたいのか?」


 咲夜と隼人が真顔でオーウェンを諫めている。すっかり保護者の顏だ。物凄く違和感があるんだけど。


「お前ら誰だよ? 何で俺の名前を気安く呼んでんだ? 王家の回し者の癖に! それに年下だろう、呼び捨てにすんな!」

「王家の回し者じゃないけど?」

「嘘吐くな! リーダーを人質にして入り込んだんだろうが!」

「さっきの状況を見て何故そうなるのよ? 相変わらず人の話を聞かないクソガキは健在ね」

「クソガキ、クソガキって舐めてんのかコラッ! ぶっ殺してやる!」


 この世界に落ちて一日しか経って無いのに何だか懐かしいわ~実家にたくさん居たわ、こんな風にキャンキャン吠える舎弟。

 私が微笑まし気にオーウェンを見つめていると隣から凛としたイーサンの声が響いた。


「オーウェン! その人達はアタクシたちの仲間ですよ? 手出しは許しません!」

「仲間って……コイツ等昨日召喚された聖女の影武者なんですよ!」

「本物だって言ってるでしょうが」


 私は手を前に突き出して指を擦り合わせた。すると指先から光る粒子が溢れ出てパチンと弾くとキラキラと宙を舞った。そしてオーウェンが持っていた短剣に触れると黄金の光りを放つ短剣へと変わっていった。


「聖なる武器……?」

「どう? 本物でしょう?」


 オーウェンの短剣を握る手がプルプルと震えていた。そしてその短剣を床に放り投げるとイーサンの胸ぐらを掴んで絞り出すような声で訴えた。


「本物なら……本物の聖女なら尚更仲間になんてなれないだろう! どうしてしまったんだよ、リーダー! 聖女はリーナ姉ちゃんの敵だろう……」

「そのリーナが聖女になって帰って来たんだから良いんですよ」


 割と重要な事柄をサラッと軽く告げるイーサン。オーウェンのポカンとした顔がちょっと笑える。


「…………はあ?」

「だよね~ポカンだよね~兄さん、もっと重たくシリアスに告げられないの? 今日の夕食のメニューはチキン南蛮ですよって告げるのと同レベルでどうでもよく聞こえるから」

「えっ? チキンナンバンってなんです?」

「そこは重要じゃないから!」


 その後、イーサンに研究所での一連の出来事を説明して貰っても「リーナ姉ちゃんが俺の事をクソガキって言う訳がない!」とリーナを美化し崇拝しているオーウェンは中々信じてはくれなかった。だから私は[酷いわ、オーウェン。あなたがわたくしの膝枕でお昼寝をした時のオネショを誰にも話さず隠してあげていたと言うのに]とオーウェンの秘密をこの世界の言葉で書いてコッソリ見せた。


 みるみる顔を赤らめ、その後蒼白になっていって本日三度目の土下座謝罪を受けた。


「俺がもっと大きかったら姉ちゃんを守ってあげられたのに……」

「だったらリーナの代りに私を守ってくれる?」


 陽に焼けた肌、盛り上がった筋肉、見るからに強靭そうな身体は隼人や咲夜を凌駕する盾になりそうだ。


「分かった! 結婚しよう! リナ!」

「何でよ!」


 ああ……やっぱり変わってない……。



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