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W.W.W  作者: Big tree
2/2

邂逅1−2

 (━━━━━誰だ⋯⋯コレは⋯⋯⋯。)


 「木藤 樹」としての記憶と意識は間違い無く「この体」にある。この世界で目を覚ましてから違和感なく「この体」で、自分の意思を持って行動を起こしてきた筈だ。


 なのに、その筈なのに⋯⋯⋯。




 色素を全く感じさせない白い髪が、今や薄暗いコクピットの中でも光を反射して煌めき。その髪に反するかの如く褐色の肌は、所々にできたケガをアクセントに白い髪とのコントラストで瑞々しく張る。何も着ていない上半身は心臓の位置から僅かに発光する紋様が抱かれたアリスの腕から覗く。


 



 そんな「幼い少年」が平凡な高校生の「木藤 樹」として、最早本来の役割を果たしていないモニターを通して映っていた。

 

 (別の世界に来ただけじゃなく、転生までしてたってか!?それに、この身体に違和感何て全然無かったぞ!⋯⋯あぁ、この体だからアリスの背が高く見えてたのか⋯⋯そりゃ、あんな態度になる訳だよ。)

 

 「己の姿」と中身の落差に動揺が隠せず、要らぬところで違和感の正体にも気付く。



 しかし、その間にも危機は迫る。凸凹に隆起した地形のお陰か、砲による追撃は飛んでこないが此方を探して向かってくる足音は、まるで獲物を求める死神や亡者を追う地獄の鬼の足音そのものだ。


 (ヤバイヤバイヤバイ、この機体もう動かないのか。何処かに緊急脱出ボタンとか無いのかよ!)


 焦るイツキが必死に操縦桿やボタンをいくら触っても空しく音をたてるだけで、何かが起こる訳も無かった。




 遂に敵の機体がアリスのVWを捉える。抱える武器は撃たないのか、撃てないのか、無惨に横たわるVWにその砲身を向けることはない。膝をつき、腰についたエンジンに、二人の乗るコクピットへ手を伸ばすと搭乗口を乱暴にこじ開ける。

 

 イツキの心身は疲弊しきっていた。体感で恐らく数時間も経っていない間に一体どれ程の出来事があっただろうか。目覚めた場所は見知らぬ世界の液体の中で、息付く暇も無く暴れ狂い蹂躙の限りを尽くす巨人が乱入し、その巨人はロボットで中からは綺麗な女性が降りて来て銃を突きつける、一緒にロボットに乗り脱出を図るも戦闘に突入。不意を突かれてロボットは大破、トドメと許りに「イツキ」は「木藤 樹」の姿をしていない。


 一介の高校生が受け止めるには、あまりにも色々なコトが起こりすぎた。挙句に現在進行形で何度目になるか、死の淵に立たされている。


 ひしゃげたコクピットの入り口から覗く敵機体の赤く光る単眼と目が合い呼吸が荒くなっていく。伸ばされた手が迫りその影が落ちると。

 

━━━━━━━━━━━イツキは限界に達した。



 「⋯⋯いい加減にしてくれよ⋯⋯。こんなコトってあるか?⋯⋯。まだ⋯何も⋯⋯。なぁ、アリス、起きてくれ。脱出装置とか無いのか?⋯⋯イヤだ、嫌だ、いやだ、イヤダ、死にたく無い、やめろ、来るな、来るな!⋯⋯⋯うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」


 魂からの絶叫に呼応して胸の紋様が眩く輝く。光は二機を包み込み遥か彼方まで広がってゆく、やがて光が収束して彩色豊かなオーラに変わりイツキへと流れ込む。


 この時既にイツキの意識は無かったのだが途切れる瞬間、声を聴いた気がした。


 (⋯⋯ミ・ツ・ケ・タ⋯⋯⋯⋯)


 そしてイツキを介して流れ込んだオーラは残骸と化したVWの中枢へと届き、とうに動くのをやめたエンジンを再始動させる。


 濁流となって流れるオーラでエンジンの外板が吹き飛び、溢れるそれはガスバーナーの炎の様に淀みなく噴出する。

立ち上がることもなく横たわるVWから噴出するソレは光の翼となると。


⋯⋯⋯⋯⋯辺り一帯は灰塵となった。


   








 *

 目が覚めると見覚え無い天井から差す光は柔らかで、辺りは静寂で耳に入る音は少ない。覚醒するにつれて頭の中を駆け巡るのは悪夢なのか、現実の出来事だったのか。飛び起きて両の手を見つめる。


 「夢じゃ⋯無い。」


 かつての自分の体では無い事を認識して、別の事柄を思い出す。


 「そうだ⋯、アリスは⋯。」


 思い当たる記憶も無く、不安に駆られ立ち上がると二人分の足音と話し声が近づく。会話の内容迄は聞き取れないが何やら言い争っているようでそれが途切れぬまま部屋のドアが開く。


 「ですから、彼は⋯⋯⋯、イツキ!ああ良かった。ゴメンね、守ってあげられなくて。」


 部屋に入ってきた一人、アリスはイツキに気づいた途端に駆け寄り抱きしめて謝罪の言葉を口にする。


 「んも、もみむもんうももっももんもむうんも。」


 豊満な二つの膨らみに埋められ言葉になっていないが、生きていて良かったと心の底から伝えたかった。お互いにやましい気持ちなど殆ど無く、死線を共に超えた者同士の熱い抱擁を交わす。


 「⋯そこまでにしろ、新入り⋯⋯。尋問が先だ⋯⋯。」

 

 アリスの肩を掴み、非言語的なコミニュケーションを中断させるもう一人の入室者。


 腰まで伸びる黒い髪は艶々としているが何処か重たく、吊り上がる黒い目は見る全てを睨みつけている。着ているパーカーは腿辺りまである防水、防寒に優れそうなおおよそ一般人が身に着けるモノではなさそうだ。

 美人ではあるが棘のある雰囲気がそれを消してしまう。要は凄くキツそうな女が口を開く。

 

 「⋯ガキ⋯。これから質問していく⋯。保護して欲しければ、嘘偽りなく答えろ⋯⋯。」


 返答に迷う、寧ろ質問したいのは此方の方で。訳の分からない状況のまま此処にいる自分には答えられ無い事柄の方が多過ぎる。するとアリスがイツキを抱いたまま不満気に口を挟む。


 「隊長!イツキは木人ツリーマンでは無いし、拘束されて何も覚えていないって⋯。」


 「⋯黙れ。⋯⋯判断は私がする⋯⋯。そもそもは⋯」


 「アリス、降ろしてくれ。殆ど答えらないと思うけど、それで良いなら。」


 言葉を遮るのを更に遮って、最早抱っこになっている体勢から降ろして貰う。そしてベッドに腰掛けようとするが子供の体ではすんなりと座れず、アリスが手を貸してようやく腰を下ろす。


 「⋯ふん⋯⋯。では⋯お前は何者だ⋯?彼処で何をしていた⋯⋯?」


 「木藤きとう いつき高校生で17歳 目が覚めたらあの場所にいた。それ以外は何も知らない。」


 既視感のある質問に同じような答えを返すと、鼻を鳴らして更に目の角度が上がった女が訪ねる。


 「⋯その体で17⋯⋯?⋯木人ツリーマンの典型じゃないか⋯⋯ それに⋯コウコウセイ⋯⋯とは何だ⋯⋯?」


 「何って、学生だよ。俺ぐらいの歳の子が⋯あぁ、今は見た目が違うか。集団で教育を受ける場所、この世界には無いの?」


 「アカデミーのことなら、アレは軍事学校だ⋯⋯貴様の様なガキでは入隊前に弾かれるだろう⋯⋯。試しに出身を言ってみろ⋯⋯。」


 「日本のって言っても分からないんじゃないか、地球って惑星にある国で⋯⋯⋯。」


 異世界に転生したら⋯なんて。いつも妄想して無双して夢想していたけれど、いざ自身に起こった出来事の説明は大変だなと思いながらも説こうとした

 瞬間、更に更に目を吊り上げて女が銃を抜く。銃口を向けられ緊張が走る中、信じられない言葉が発せられた。


 「⋯ふざけているのか⋯⋯。此処は地球で⋯⋯国なんてモノはとうの昔に消滅している⋯⋯私は嘘偽りなくと言った筈だが⋯?」

 

 「⋯⋯⋯は?ま、待ってくれ。此処が地球で?消滅?そんな⋯、じゃ、じゃあ今は西暦で何年?」


 「⋯西暦⋯?正気じゃないな⋯今は樹立暦964年、あのデカい樹が地球に生えて、西暦が終わりを迎えてから千年近く経っている⋯⋯それで⋯自分は過去から来たとでも言うつもりか⋯⋯⋯?」


 ━━━━━━━イツキに衝撃が走る。

 てっきり、自分は異世界へ転生したのだと思い込んでいたから。うっかり、この世界の情報を全く知らないままだと思い出して。

 銃を突きつけるこの女性の言う通りに自分は過去から来たのか?━━不明。この世界は自分の知る西暦からの地続きにあるのか?━━不明。何故この幼い体にイツキの意識が宿っているのか?━━不明。


 自分の名前しか満足に答えられない状況での質疑応答など、確かに正気じゃなかった。優先するべきはこの体の年齢よりも遥かに無知だと理解してもらうこと。この世界の情報、それも常識レベルから教えて貰う事。この二つだ。


 そして信用されるためには、嘘をつかないコト。


 「そうだ、俺は2020年の日本から来た高校生だ。」


 ━━━━━━━━銃声が響いた。

  


  目の前の煙を吐く拳銃からは火薬の匂いと枕から焦げた匂いが鼻を通して伝わる。撃たれたと。


 「⋯目を見せろ⋯⋯。」


 枕を撃ち抜いた女が両手でイツキの顔を掴み覗き込む。その黒い瞳は、深く落ちていく暗闇の様に暗くイツキを映す

そして、細くて白い指を眼球へと近づける。


 不快感と異物感と反射的動作で目を閉じたくなる。それを許さない女の指は顔を掴む力強さと裏腹に繊細に眼球を触った。


 「⋯確かに、木人ツリーマンでは無いな⋯⋯。言動は狂人だがな⋯⋯⋯。」


 そう呟くと手を離して、イツキを突き放す。立ち上がり此方を見もせずに部屋の出口へと向かうと何も言わずに去って行った。


 「イツキぃ、怖かったわね。こんなに可愛い子供を疑うなんて、シルビア隊長は鬼か悪魔の化身よ。」


 部屋の扉が閉まると、即座に抱きつき頬擦りするアリスに尋ねる。


 「やっぱり可笑しな事を言ってるのかな?俺は」


 思えばあのロボット、VWの動力を不意に尋ねた時のアリスの表情は、不幸に見舞われた子供への同情。何も知らない無垢な子供が聞いたところで理解できない問いを投げかけた時の大人が見せる説明を諦めた誤魔化しの表情ではなかったかと自分で尋ねてから不安を掻き立てられる。


 アリスが頬擦りをやめて、イツキを正面から見据えて両肩に手を置く。初めて会った時と同じ様に。


 「イツキ、良く聞いてね。貴方が過去から来た人間だとしても事故のショックで記憶が混濁しているとしても関係ないわ、貴方は保護を必要とする子供だし私はそれを放っては置けない。それに約束したでしょう?保護及び拘束するって。」


 そう言うとイツキを抱き寄せ、頬擦りを再開しながら耳元で囁く。


 「これからは一緒に暮らすのだから、一から学んでいきましょう。」


 にこやかに笑うアリスの発言は世界の消滅よりもイツキを驚かせた。



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