67.音楽祭1
夏期休暇も終わり、フラワード学園ではそろそろ音楽祭の季節になる。
音楽好きな生徒達の希望で音楽祭は数年前から始まり、学園祭と交互に開催されているそうだ。
フラワード学園の催し物は大規模に開催されると有名で、毎年生徒達が楽しみにしている。
昨年は学園祭だったので今年は音楽祭。
初日は各クラスで考えた音楽を発表し、2日目は音楽を楽しみながらダンスパーティーが開催される。
「では、音楽祭の実行委員を決めたいと思います。誰か立候補者はいますか?」
学級委員長のルイが教壇の前で皆に聞いている。
「はいッ!!」
フラン様が意気揚々と手を挙げた。
「……他にはいませんか?」
チラリとフラン様を見てから教室を見回したルイ。
「ちょっと琉生くん!」
まだしつこく手を挙げているフラン様は真璃愛と仲が良いだけあって強引さも似ている。
「……フラン様しかいませんか?」
フゥと諦めたように呟いた。
「あ、ジェイク様も立候補してくださると!」
僕のうしろの席のジェイク様を見ながら嬉しそうな顔をするルイ。
「えっ!?ジェイク様?」
ジェイク様が立候補したの?
僕はうしろを振り向いた。
「……眼鏡を触っただけですが?」
何を言っているのと真顔でルイを見ている。
「先日新しい茶葉が手に入ったんだけど…」
ルイはニコリと微笑んでジェイク様に聞こえるように言う。
「実行委員引き受けましょう」
「ありがとうございます。できるだけフラン様の暴走を止めてくださると嬉しいです」
微笑み合うルイとジェイク様。
「ちょっと琉生くん!どういう意味!?」
席を立ってルイに抗議しているけど、執事喫茶のこともあったのでルイの気持ちも分かる。
ジェイク様は執事喫茶にも協力してくれたし、優しい人なんだよね。
そんなふたりが音楽祭実行委員に決まった。
「また後日、このクラスでの音楽祭の発表を何にするか決めたいと思いますので、皆様も考えておいてください」
授業終了の鐘が鳴り、皆が帰りの支度を始めてザワザワと話ながら席を立つ。
ルイが自分の席へ向かいながら、ヘンリー様の席の横で立ち止まった。
「ヘンリー様!何居眠りしてんの?もう終わったよ!」
頬杖をついてウトウトしていたヘンリー様に声を掛けている。
「あ、ごめんね。昨日夜更かししちゃったから…」
目を擦りながらルイに説明するヘンリー様。
「…やっぱりケダモ」
「違うからね!クレア様に薦めていただいた本が面白かったから読んでいたんだよ!!」
夏期休暇中にさらに仲良くなったよね、あのふたり。
「クレア、帰ろうか」
「ええ。少し待っててね」
鞄の中にノートや筆記用具を急いで片付けている。
「ゆっくりでいいよ」
僕はそんなクレアを甘く見つめながら待つ。
「……そんなに見られているとやりにくいわ」
頬を赤くして僕をチラリと見たクレア。
「え、ごめんね。可愛くて、つい」
僕の言葉にさらに赤くなっている。
どうしよう。僕の彼女、今日も可愛い。
夏期休暇中に違う相手と噂のあったふたりだが、夏期休暇が明けるとこの甘々ぶり。
このふたりを応援していたクラスの皆は良かったねと胸を撫で下ろしたものの、甘すぎて見ていられなくなってきた。
赤面したり、自分も早く恋人を見つけたいと思ったり、麗しの王子様にこんなに愛されているクレアを羨ましいと思ったり。
音楽祭のダンスパーティーでは恋人を見つけるチャンス!と皆気合いが入っている。
「ルカ様の溺愛ぶりが日に日に増してきているような気がするね」
「フフフッ。そうだね。さあ、僕も愛しのシェイラを迎えに行こう。じゃあね、ヘンリー様」
帰りの馬車の中で音楽祭の話をする。
「シェイラのクラスは何をするか決まったの?」
ルイ、距離が近ッ!!
シェイラの手を握り、顔を近づけて甘く見つめている。
……目の前にいる僕とクレアは目のやり場に困るけど、いつものことなんだよね。
「ルイ!ちょっと離れて!」
赤い顔で怒っているシェイラとニコニコしているルイのやり取りもいつのものこと。
「もう!…私のクラスは楽器が得意な生徒達が数名で演奏を披露するわ」
「そうなんだ。やっぱりそういうクラスが多いよね。音楽祭のメインは2日目のダンスパーティーだから、1日目は音楽が得意な生徒達が参加するって感じだね」
「シェイラはどうするの?」
「…分かってて聞いてるでしょ?私は楽器は苦手だから演奏には参加しないわ」
「そっか。じゃあ、僕達のクラスのも見に来てね」
微笑みながら手の甲にキスをしているルイ。
僕とクレアの存在を忘れてない?
「…それ以上はここでしないでね」
ルイに一応言っておく。
「音楽祭の話をするから同じ馬車に乗ったけど、やっぱり別々に乗れば良かったかな…」
クレアにこっそりと伝える。
「そ、そうね……」
赤い顔でクレアも頷いた。